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あなたと歩いたこの道を  作者: 海野はな


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6/11

6

 ショウタサンとタロチャンと一緒に住み始めて、わたしは毎日がとても楽しい。いつもは一人で待っていた昼も、今はタロチャンがいる。一人で過ごす時間がなくなったことに最初は戸惑ったけれど、タロチャンはわたしが寝たい時には何もしてこない。


 遊びたいときにタロチャンも遊びたかったら一緒に遊ぶ。たまに喧嘩もするけれど、わたしが怒ってもタロチャンはおっとりしていることが多いから、ずっと喧嘩ってことはない。だってわたしはタロチャンが大好きだから。


 今日はいつもタロチャンとお散歩していたおじいさんに会いに行ってきた。タロチャンと一緒に住むようになってから、たまにわたしも一緒に会いに行く。

 今日は久しぶりにおじいさんと一緒に散歩もした。タロチャンは以前のようにおじいさんに寄り添って、ゆっくりゆっくり歩いた。本当はもっと走りたいんじゃないかと思ったけれど、タロチャンはおじいさんとゆっくり歩くのも好きなんだって。


「おじいさんもおばあさんもタロちゃんも、みんな喜んでたわね」

「うん。ちょっと体調を崩してたって聞いたから心配だったけど、元気そうでよかった」

「タロちゃんはおじいさんとゆっくり歩いていたの、ちゃんと覚えていたのね。車が通った時に、さりげなくおじいさんを守っていたでしょう? タロちゃんかっこいい! と思って惚れちゃった」

「惚れた? まさかタロウがライバルになるとは思わなかった」


 タロチャンは帰ってきてからとても寂しそうにしている。ゆっくりしか歩けなくても、タロチャンはおじいさんが大好きなのだ。


「タロウ、また遊びに行こうな」




 そんな日々を送っているうちに桜の季節が二回ほど過ぎ、暑くなって、涼しくなった。そしてその間に、ひまりはなんだか大きくなった。最近はタロチャンがおじいさんとお散歩していた時のように、ひまりとのお散歩はゆっくりだ。そして最近、ひまりは日中もずっとおうちにいるようになった。


「ハナちゃん、もうすぐお姉さんになるのよ。タロちゃんもお兄さんになるの。楽しみだね」


 ひまりは大きくなったお腹を撫でながら、わたしに何かを言った。わたしはひまりの言葉はわからないので首を傾げたけれど、ひまりが幸せそうな顔をしているので嬉しい。



 ひまりがひどく苦しそうになったのは、それから数日後のことだった。わたしはどうしていいかわからなくて、ひまりのまわりをぐるぐると回った。


「大丈夫……ではないけど、大丈夫よ、ハナちゃん。だけど少しおうちを留守にするね。帰ってくるまでいい子で待っててね」


 もう夜なのに、ひまりはショウタサンに支えられておうちを出て行ってしまった。一緒に行こうと思ったのに、駄目だった。

 どうしよう、ひまりが苦しそうだった。大丈夫かな、なにがあったのかな。

 わたしがオロオロとしていたら、タロチャンがわたしを舐めてくれた。


 その夜はひまりだけでなくショウタサンも帰ってこなかった。わたしは不安だったけれど、タロチャンはそばにいてくれた。


 明るくなってしばらく経って、ショウタサンが帰ってきた。疲れているみたいだったけれど、とても嬉しそうだった。

 だけど、ひまりは? 一緒じゃないの?

 なんでショウタサンだけなの?



 ひまりが帰ってこないまま何日か過ぎた。わたしはずっと不安だったけれど、ショウタサンは楽しそうだった。だからきっとひまりも大丈夫なのだと思う。もしひまりが大丈夫じゃなかったら、ショウタサンが悲しむから。だけど不安だ。だって出て行った時、ひまりは苦しそうだった。それから何日も帰ってきていない。


 こんなことは今までなかった。お留守番はよくしていたけれど、ひまりが何日も帰ってこないなんていうことは今までなかった。

 どうしていいのかわからないわたしの側に、タロチャンがいてくれた。タロチャンが大丈夫だよって言ってくれた。大丈夫だよね、本当に大丈夫だよね、ね、タロチャン?



 朝、ショウタサンが出て行ってからしばらく。外から二人分の足音がした。

 ひまりの声が聞こえた! ひまりがいる!

 急いで玄関に駆け寄る。ドアが開き、ひまりが入ってきた。


「ハナちゃん、タロちゃん、ただいま」


 ひまりが帰ってきた!

 帰ってきたよ!

 タロチャン聞いて、帰ってきたよ!


 わたしは嬉しくて飛びついた。だけどひまりはなぜか、いつものようにすぐには抱きしめてくれなかった。

 それでもわたしはひまりの側を駆け回った。


「ごめん、ハナちゃん。ちょっとだけ待ってね」


 ひまりは何かを持っていたらしい。大事そうにそれを、最近できたベッドに置いた。わたしが乗ろうとしたら怒られたベッドだ。


「お待たせ、ハナちゃん! タロちゃんもおいで」


 ひまりが手を広げてくれた。これは飛び込んでいい合図だ。

 わたしはひまりに突撃すると、顔を舐めて、身体をこすりつけた。

 なんだかひまりはいつもと違う、甘い匂いがした。


 しばらくそうしてひまりと遊んでいると、新しいベッドから何だかよくわからない音が聞こえてきた。


「あぁ、起きちゃったかな」


 ひまりはベッドから、さっき置いていた何かを抱き上げた。そしてゆらゆらしながらわたしとタロチャンの近くに持ってきた。


「ハナちゃんとタロちゃんに妹ができたのよ。つむぎっていう名前なの。仲良くしてね」


 わたしが覗き込むと、なんだか変な声を出しながらふにふにと動いていた。ひまりと同じ甘い匂いがする。


 これは、何?


 タロチャンも何だかわからないみたい。



 その日から、そのよくわからない何かとも一緒に暮らすことになった。

 ひまりはそれを抱いて、大事にしている。どうやら新入りらしい。

 わたしはなんでか分からないけれど、それを守らなきゃいけないんだと思った。


「ふ、ふえ、ふぇぇぇ……」


 ひまり! 泣いてる! つむぎが泣いてるよ!


「大丈夫よ、ハナちゃん、聞こえているから。よしよし、お腹がすいたかな?」


 よかった、大丈夫みたい。

 しばらくひまりがつむぎを抱きかかえていると、そのうちにつむぎは寝てしまったらしい。ベッドに戻って、それからひまりも一緒に寝てしまった。

 わたしも眠くなってきた。なにせ、つむぎはよく泣くのだ。


 くんくん。


 大変! ひまり! 匂う、匂うよ!

 つむぎが、なんか匂うの!


「もしかしてうんちかな? あぁ、出てる。ハナちゃん教えてくれたの。ありがとね」


 つむぎが来てから、わたしはとても忙しい。

 こうやって見守りながら、なにかあったらひまりに教えるのだ。

 とても忙しいから、ちょっと疲れてしまった。少し寝ようか……ん?


 ひまり! 大変! つむぎが泣き出したよ!

 はやく来て!

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