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ひまりがおうちにある物を箱に詰め始めた。どんどんお部屋がすっきりしていく。わたしのおもちゃも箱に入れてしまった。
なんで? どうするの?
「大丈夫だよ、ハナちゃん。これから新しいおうちに行くの」
それから男の人が何人もきて、その箱とかおうちにあったものをどんどん外に持っていってしまった!
何してるの? なんで持ってっちゃうの?
わたしは? わたしはどうなるの? 置いていかれちゃうの?
「大丈夫だってば。このおうちとはお別れだけど、新しいおうちにはタロちゃんもいるのよ。もちろんハナちゃんも一緒に行くの。心配ないよ」
とうとうおうちに何もなくなってしまった。どうしていいかわからなくて、わたしはおろおろするばかり。なのにひまりはとっても楽しそう。
「あ、お迎え来てくれたって。行くよ、ハナちゃん」
おうちを出ると、ショウタサンの車に乗った。タロチャンも一緒だ。これからどこかへ行くみたいだけど、どうやらお散歩じゃないみたい。
タロチャンもいるというのに、わたしは不安でひまりに擦り寄った。
「ハナちゃん、朝からずっとこの様子なの。いくら大丈夫って言ってもダメで。タロちゃんは落ち着いてるね」
「タロウはまだ完全には移っていないからね。タロウがいたほうがハナちゃんが落ち着くかと思ったんだけど、逆効果かな」
「そんなことない。タロちゃんはいつから?」
「来週じいさん達が施設に移るんだ。そのタイミングで引き取ることになってるんだけど、いきなりだとタロウもストレスだろうから、少しずつ慣らそうと思ってる。といっても一週間しかないんだけど」
車が止まって降り、いくつかのドアを通り過ぎて、ショウタサンはひとつのドアを開けた。わたしたちのおうちと違って、階段は上らなかった。ショウタサンのおうちなのかな。
「ハナちゃん、ここが新しいおうちだよ。今までのところより広いねぇ。ハナちゃんのおもちゃもこれから来るからね。大丈夫よ」
わたしが玄関で立ち止まっていると、タロチャンは大丈夫だというようにスタスタと入っていった。
「タロちゃんは慣れてるわね」
「俺がここに引っ越してからまだ一週間だけど、二日に一回は連れてきてるからね。少しは慣れてると思う」
「そっか」
「だけど、当然じいさんちに帰るものだと思ってるんだよな。ずっとじいさんとばあさんと一緒だったから、実際に引っ越してくるとなったらどうなるか」
「そこは心配ね」
「うん」
タロチャンに呼ばれて、わたしも中に入る。やっぱり落ち着かない。ショウタサンのおうちならば、心配する必要はないのかもしれないけれど、ひまりはもしかしたらわたしをここに置いていくつもりなのかもしれない。
わたしはひしっとひまりにしがみ付いた。
「ハナちゃん、大丈夫だって。あ、トラック来たみたいだよ」
先程わたしたちのおうちからいろんな物を持っていってしまったお兄さんたちが、今度はそれをこの部屋に置いていく。ひまりはその中から一番最初にわたしのおもちゃを取り出した。
「ほら、あるでしょう。ここがこれからハナちゃんのおうちなのよ」
「ハナちゃん、これからは俺も一緒にここに住むんだ。よろしくね」
なにがなんだかわからなかったけれど、わたしはひまりとのおうちに戻ることはもうできないらしい。そしてここが新しいおうちらしい。これからはショウタサンもずっと一緒らしい。それから、ひまりはわたしを置いていったりはしないらしい。ようやくそれが分かって落ち着いてきたころ、今度はタロチャンが大変なことになっていた。
「タロウ、今日からお前もこの家で暮らすんだよ。ハナちゃんも一緒だぞ」
「タロちゃん、今日からよろしくね」
「じいさんとばあさんにもたまには会いに行けるから、大丈夫だよ」
タロチャンはずっとそわそわ落ち着かない様子で、切ない声をあげていた。もう夜なのに、今日は帰らないみたい。おじいさんと何かあったのかな?
「一週間前のハナちゃんみたい。早く慣れてくれるといいけどね」
「ずっとじいさんと一緒だったからな。タロウも心配だけど、俺はじいさんとばあさんも心配だ」
「施設、ここから近いんだよね。来週行ってみようか?」
「うん」
わたしがここに来た時にタロチャンがしてくれたように、わたしはタロチャンに寄り添った。わたしはタロチャンが大丈夫だよって言ってくれて、とても落ち着いたのだ。いつもはひまりの近くで寝ていたけれど、今日はタロチャンの横で一緒に寝よう。
それから次の日も、その次の日もタロチャンはタロチャンのおうちに戻らなかった。きっとタロチャンもここにずっといるんだって、わたしにはわかった。わたしも前のおうちにはもう戻らないから。
タロチャン、大丈夫だよ。このおうちにはね、ひまりもショウタサンもいるんだよ。それからね、わたしはタロチャンと毎日一緒にいられて嬉しい。
だからね、タロチャン。そんなに悲しまないで。