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[書籍化決定・第一部・第二部完結]緑の指を持つ娘  作者: Moonshine
秋祭り

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秋祭りは、ベスの村でも、王都でも、大きなお祭りだ。

この日は老いも若きも皆それぞれに着飾って、豊穣を神に感謝し、収穫物を神殿に奉納する。


娯楽の少ないベスの村での、年に一度の大きな娯楽だ。

この日にデートをする異性を見つけるために、若い男女は一年奮闘すると言っても過言ではない。

ベスだって、エイミーだってそれはそうなのだが。


「嘘でしょエイミー、あんたカーターと付き合ってたの???」


秋祭りを一緒に回ろうと言ったベスをすげなく断ったエイミーの隣には照れたように、カーターが立っているではないか。


「あんたが王都に行ってから色々あったわけよ。あんたが牢に入れられたのはカーターが完全に悪いんだけどさあ、話を聞いたら冒険者の暮らしも色々大変みたいで、そんな時に私に会いに来たら、隣の畑の薬草が目の前にあったとかでつい出来心っていう話で・・」


「あの時は本当に悪かったよベス! でもお前の騒動の時に初めて色々エイミーと話ができてよかった!」


泡を吹きかけているベスを放っておいて、エイミーとカーターは腕を取り合って二人でお祭りに行ってしまった。

普段は街で冒険家をしているカーターも、今日は村にエイミーを迎えにやってきていた。カーターも街に住むようになってから少し垢抜けてきたのが、エイミーのお眼鏡にかなったのだろう。


「この薄情もの!」


ベスはエイミーと一緒に、お祭りのときだけしか食べられないおやつを食べ回る予定だったのだが、二人の幸せそうな背中を見送って、一人取り残されたベスは少し安心した。


(だって、私も今日は忙しくなるんだから)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


時同じくして、王都。


ベスの田舎の素朴な秋祭りとは違って、王都の秋祭りは実に豪華だ。

街の至る所に赤い花が飾られて、秋祭りの期間中、全部で52車の美しく装飾された山車が王都中を練り歩く。

外国からも大勢の使者が送られて、この秋祭りの後から社交のシーズンを迎える。


山車はそれぞれの王都の区画を代表する、いわば地区の誇りだ。

それぞれの地区の面子にかけて、それは美しく飾られる。

エリクサーの完成と、ユージニアの目覚めという大きな慶事の後、秋祭りの盛り上がりも、例年以上の大きなものだ。


こんな国をあげてのお祭りの中、ノエルだけは、いつもと変わらず温室中で、植物の世話をしていた。


ノエルの整えた温室は、ベスがいた頃のものから随分変わった。


ノエルの役に立つ植物だけを、無理やり魔力や希少な堆肥を与えたりして育成していたノエルは、今までのやり方を変えて、ノエルなりに、ベスの作り出したような天国を作ろうとしていた。


(ベスの天国のような温室を俺の手で再現しても、それはただのベスの廉価なモノマネだ。俺は、俺のやり方で、俺の天国を作ってみたい)


そう決めたノエルは、手始めに花畑を広げた。

大きな紫陽花の株、ひまわり、桔梗、薔薇、忘れな草。ノエルの好きな花ばかり。


来年の春には綺麗な花畑になるだろう。


(そういえば、俺は花が好きだった)


ノエルは、花が好きな少年だったのだ。

だが魔術師としての才能を開花させてゆくにつれ、花の美しさではなく花の効能ばかりを考えなくてはいけない日々を送って、その美しさを感じて喜ぶことは無くなっていた。


だが、今はようやく花の美しさを愛でても、許される。

花が好きだった少年だった事を思い出したノエルは、少年の頃のノエルを、自分で受け止めてあげる事にしたのだ。


(誰も俺を認めてくれる必要はない。俺は、俺の心を認めるだけだ)


ノエルは贅沢な水魔法を展開して、花々に惜しみなく水をやる。


何となく、思い出したように急に絵が描きたくなって、育てた花々を絵に描いてみた。


(うわ、花なのか虫なのか、見分けもつかない)


描き上がった絵は、自分でも下手くそ極まりないと思う絵だったが、ノエルは満足だった。


そして花畑の横には、ユーカリや、ハーブを植えることにした。

ハーブの横には、ノエルの愛する薬草の畑とそして、ノエルが食べる野菜の畑も作ることにした。


ノエルは薬草も好きだ。


これからは効能を重視して、無理な掛け合わせや魔力を詰め込むような育て方をする必要もない。

ただ大好きな薬草を、ゆっくり元気に育つ様に、ベスがしていた様に、手を使って心を砕いて、丁寧に、細やかに世話する。


ノエルが愛情を与えた分だけ、植物達は返してくれる。

今までノエルは、植物達から求める事ばかりで、ノエルからなにも与えていなかった事に、ようやく気がついた。


野菜などノエルは作った事はないが、ノエルのたどだどしい世話でも、小さな実をつけてくれる野菜や果物が愛おしい。


咲くと、ぽん!という音がするという面白い草も、植えてみた。

何の役にも立たないが、面白そうだなと、子供の頃に感じたからだ。


ヘチマも植えてみた。ヘチマなど、どこでも育つようなものはわざわざ育てた事がなかったのだ。

毎日の凄まじい成長の速さに、ノエルは朝が来るのが待ち遠しくなった


龍が好んで食べるという火食い草もわざわざ高山から転移させ、植えてみた。

別に意味はない。かっこいいからだ。


ほかにも魔術で泉の水を引っ張ってきて、小さな滝を作ってみたり、滝に小船を浮かべてみて、ロドニーとどちらの小舟が早く下流に行くかの競争をしてみたり、薬木と薬木の間にハンモックをかけて、ドラと一緒に月を眺めながら眠ってみたり。

学術書ではない、ただ美しい言葉の詩集をエロイースに借りて読んでみた。あまりに美しくて涙がこぼれてしまった事は、誰にも言わないでおく。


この国の英雄は、生まれて初めて、心の赴くままに、この温室と戯れている。

自分だけのために惜しみなく魔術を使い、自分の為に、植物を植える。


ベスの温室には顔を出さなかったカブトムシや大きな蜘蛛が、ノエルの温室を気に入ったらしく、気ままに巣を作っていた。

大きな蜘蛛の巣は、毎朝ノエルから霧の水をかけてもらって、日の光をあびて虹色に輝き、美しい。


いつか見たヤモリは、いつのまにか番になって、ノエルの植えたばかりの菖蒲の花の下に、小さな卵を育んでいた。

あと数日も有れば孵化するだろう。

ノエルはネズミにやられないように、そっとちいさな魔法陣を張ってやる。


ノエルはベスの温室には及ばないけれど、それでも自分が手塩にかけて育てた植物が、可愛がっている生き物が、のびのび元気よく育っているこの温室で、とても幸せだった。


そうすると、ノエルの青白かった顔は日に焼け、頬には紅色が差してくる。

固く動かなかったノエルのその人形のように美しい顔に、優しい笑みがこぼれるようになっていた。


「まるで田舎の農家の悪ガキの子供の秘密基地みたいになりましたね!」


まだ子供の域を出て間のないロドニーは、ノエルの新しい温室をとても気に入ったらしい。

自分が子供の頃使っていた魔道具のおもちゃの魔剣だの、遠い外国の間諜が使うという星型の投擲武器の模型だの持ち込んで入り浸り、楽しそうだ。


「ああ。必要なものを育てているというよりも、俺は俺の育てたいものを、幸せな状態に育てようと思ったんだ。‥そしたら何故かこうなった」


ノエルの指差す方を見たロドニーは、びっくりしてちょっと後ろに飛び下がってしまった。


「げ、きっもちわる!ノエル様、これは流石に意味わかんないです。気持ち悪いからさっさと処分した方がいいんじゃ??」


温室は順調にノエルの手によって、それなりによい状態に整えられているのだが、一つだけ妙な事になっていた。

温室の端っこには、大きくなりすぎて、おそらく限界を迎えたのだろうバナナナメクジのナナちゃんが、白い糸を吐いて何やらどでかい繭を作っているのだ。


息も絶え絶え、といった気配で身を震わせて、一生懸命白い糸を吐くナナちゃんは、正直ものすごく気持ち悪く、ロドニーにしてみたら、一刻も早く焼却処理して欲しい代物だ。


「まあそういうなよロドニー。あいつもあいつなりに一生懸命生きてるんだ。それに、バナナナメクジが繭になるなんて聞いたこともない。お前は魔昆虫の研究も将来的に視野に入れてたろう」


ノエルは平気そうにはしているが、さすがに気味が悪そうだ。


「バナナナメクジなんて気にして研究する変人なんかいませんよ~!あー、もう。早くベスに帰ってきてもらわないと、この温室は変な生き物とか変な植物でいっぱいになる・・」



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