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サクラ・サク  作者: カキツ
番外編
9/10

とある老人の独白

 新田町にはある噂がある。


 噂の始まりはあるいじめられっ子らしい。

 どうやら、その子曰く――――

「私は、死のうとしてた。そんなとき、出会ったの。

 寂しそうに…………、だけど、強く、凛と立つ一本の桜の木が。

 なぜか、その木にはもう会えないけど、

 その木は、私に生きる勇気をくれたの。

 どうしてかはわからない。

 …………でも、これだけはわかる。

 あの木に私は救われたんだ。」

 と。

 さらに、こう付け加えたそうだ。


「もし、死にたくなるくらいにつらいことがあったら、あの木に出会えるかもしれない。あの木は、きっと、私たちを救ってくれる。」





 ◇◇◇



 いじめられっ子だったA子(仮称)は中学校入学から、前におろした目にかかるほどの前髪から「陰キャオタク」等の陰口を叩かれていた。


 始めこそただの陰口だったのだが、4月の下旬ごろにクラスの人気者であるグループのうちの1人の男子が、偶然にも前髪をあげた状態のA子を見て惚れてしまったのを契機に、その男子のことが好きだった人気者グループにいた女の子から苛烈ないじめを受けるようになってしまった。


 7月になると、A子を好きになった男子はその男子のことが好きな女の子の猛アタックの末付き合うことになり、いじめ自体はだんだんと落ち着くようになった。


 しかし、そう簡単にいじめはなくならなかった。

 A子に集まったヘイトは他のクラスメイトにも都合よく、思春期のイライラをぶつけるようにいじめが拡散してしまったのだ。


 顔をクラスの人気者グループに見られただけで、理不尽ないじめを受けることになったA子はいつしか塞ぎ込み、顔をよく知っている家族以外の人と話すだけで吐き気を催すようになってしまった。


 精神が未だ不安定な中学生にとって、この状況は死に近いものを感じたことだろう。

 実際、いじめに耐え切れなくなったA子は新田町で有名な自殺スポットへと足を運んでしまった。



 新田町には有名な自殺スポットがある。

 そこは自殺したいという願望を持った者しか行けず、そうでない者は絶対に行けない。だけど、死んだあとは毎回新田町にある墓地の同じ場所に死体が現れる。

 そんな自殺にぴったりな場所が。


 しかし、どうしたことか。

 その自殺スポットはある年を境に現れることがなくなったのか、それとも自殺しようとする人が減ったのかもしれないが、墓地に突然現れる死体がなくなったのだ。


 A子はそれを知ってか知らずか、偶然にも自殺スポットにたどり着くことができたらしい。



 だが、不思議なことに、こうして、A子の話ができるのも、というより、現にこうして私の妻として長年連れ添い、しわくちゃになったA子が病室のベッドで安らかに眠っているのも、そのおかげかもしれない。


 安らかに眠る前、

 最後にA子はこう言っていた。




 ねぇ、、知ってる?

 あなたが私に一目ぼれしてから、理不尽にいじめられて、すごく、悔しくて、泣きそうで、ずっと死にたかったの。


 でも、今、こうしてあなたと結婚して、子供を産んで、色々苦労はあったけど子供はしっかりとした大人に成長して。


 あなたには、ちゃんと愛を今ももらって。


 えぇ。ほんとに、充実した生活だったわ。

 これもあの『サクラ』のおかげかしらね。


 え?サクラ?


 あぁ。そういえば今のいままで話してなかったわ…。


 私、この町で有名な、いえ、有名だった。かしら。

 まぁ、いいわ。

 いじめが辛くて『あの』自殺スポットに行くことができたのよ。


 どうして生きて帰ってこれたのかって?


 それは…、そうね。


 今もまだ信じられないの。だって、7月の上旬よ?


 でも、自殺しようなんて吹っ飛ぶくらい綺麗な、でも、うっとりして見つめていると段々と寂しく、死ぬことよりも


 家族に会いたい。

 結婚して幸せな築きたい。

 いきたい。

 いきたい。




「生きたい!」




 って、思うような満開のサクラの木が一本。たった一本たっていたの。


 7月の暑さといじめで精神がおかしくなったって言われてもおかしくないでしょう?


 でも…ほんと。



 もう、自殺したいなんて思わない。でも、どうせもうすぐ死ぬならあのサクラはもう一度見たかったなぁ…。


 そして、木の幹に額を当ててこう言ってあげるの。

 たった一言だけ

 この一生をくれたあの木に

 私の一生を込めて


「 あ り が と う 。 」





 そうしてある程度時間がたってから妻は眠った。


 もう、やることはやった!なんて言いそうな満足げな笑顔で。



 教職員として働く私は、生徒の機敏にはするどいほうだ。

 昔に教員として、今も校長として様々な生徒たちとふれあい、いじめ等により精神が不安定な子たちを何人も見てきた。


 だけど、そのたびに生徒たちはいつしか前を向いて生きるようになっていた。

 最初こそ教員としての仕事が役に立ったと思ったものだが、妻の話を聞いた後だとこう、思う。


 生徒は自殺に追い込まれるような精神状態であり、伝説の自殺スポットにいったのではないか?と。


 そして、出会ったのだ。

 人生を変えるような出会いに。


 たった一本のサクラ。

 その姿は美しく、それでも寂しげで。


 それでも、彼ら、妻にとっては生きる希望となったサクラに。



 これは、妻の言葉ではあったが、私からも言わなければ気が済まないな。






 妻との出会い

 そして、数多く救ってきた生徒の人生を。


 未だ見ぬ新田町の伝説に感謝を込めて。


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