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サクラ・サク  作者: カキツ
本編
6/10

最終話 サクラ ・ サク


私の両親は、所謂ネグレクトと呼ばれる人たちだった。


私の幼少期は、毎日のようにパチンコにいく父に、毎日のように浮気相手と遊びにいく母のせいで、常に1人ぼっちだった。


学校へは通わせてくれたけど、参観日とか、運動会といったことに来てくれることはなかった。


先生に心配されたけど、親が何か言われた後に向かう矛先はいつも子供であることを子供ながらに感じていた私は、先生に頼りはしたものの、完全に頼ることはしなかった。


高校生になって、1人暮しを始めた。

バイトも学校も忙しいけど、何より両親と離れて暮らす新しい生活に、私は希望を見出していた。

そこでは、恋も失恋もしたし、友人とのかけがえのない日々を作ることができた。


私は、あの人たちとは違う人生を歩む。

歩んでみせる。

そう、思っていた。


大学には行きたかったけど、お金も学力もあまり足らなくて行けなかった。

そこに不満があるわけではないけど、友人とまた一緒に居られなくなることが一番辛かった。

だから、それを埋めるように私は男性と付き合うようになった。


何人と付き合ったのかはわからない。

けれど、高校のような淡い恋とは違う、もっとドロドロとしたものをずっと抱えながらたくさんの男性と一夜をともにした。


もちろん、そんなことをしてたら子供ができた。

誰の子かわからない子。

産んだからこそ、最初は可愛くは思うけど、毎晩の夜泣きやシングルマザーであることのプレッシャーから、いつしか我が子を、憎むようになっていった。


いつか誓った思い。

両親とは違う人生を歩む。


気付けば、私は結局両親と同じなんだと感じてしまうようになっていた。


自分が両親と同じだと考え始めた数ヶ月後。

お腹を痛めて産んだ子が死んだ。

栄養失調だった。


夜泣きがうるさくて仕方なく、いつもスーパーにある牛乳を適当にあげていた。

最低限の知識として、温めて飲ませることはしていたけど、そこに栄養を考える頭なんてなかった。


私は、我が子を失って初めて気付いたことがある。

あんなにも憎い存在だったあの子が死んだと分かった瞬間に、なぜだか涙が止まらなくて


――――やっぱり、私は母親なんだってわかった。



それからは、病院にいって、精神科に連れていかれて、精神異常の診断が私に下された。

とある町にある病棟に移らなければならないそうで、そこは昔、自殺者が多いことで有名だったけど、今はむしろ精神系の医療施設として有名であるそうだ。




その町に住居を移してから数日後。

未だに慣れない町を歩きながら病院へと向かい、やっと最近覚えたスーパーに寄って帰る日々を送っていた頃、私はとある田舎町に迷い込んでしまった。


名前をようやく覚えたけど、「新田町」の周りには今見えている田園風景なんてなかった、と、思う。

でも、この風景はどこか懐かしい感じがした。

近くに、どうしてか失った我が子を感じるような気がした。


「わぁ……」


そこにあったのは、1本の桜。

赤色の小さなバス停の横に、1本。

大きな、それでいて満開で綺麗なサクラの木がたっていた。


あまりの綺麗さにため息のような感想しか出てこなかったけど、それ以上に……


「なぁちゃん……」


失った我が子のことばかりが、頭の中に思い出されてくる。

お腹を痛めて産んだ我が子。

自分の名前の一部から付けた精一杯の名前。

高い高いしてあげると、満面の笑みでキャッキャとはしゃぐ大切な……、大切な、宝物。


自分が母親として、至らないばかりに死んでしまった、自分が殺してしまった我が子を、私はどう償っていけばいいのだろうか……。

私は、このまま生きていていいのだろうか。

また、こんな悲劇を産むのではないか。

それなら、いっそ………






『……生きて。』






「っ!?、誰!?」


どこからか声がした。






『生きて。あなたのために。あなたを思う大切な人のために。』


「まさか……、桜……?」




ふと、桜の木へと目を向けると、木の根元付近にかなり古くなって今にも壊れそうなペンダントが落ちていた。


「誰のペンダント……?なにこれ、中身になにか……」


ペンダントの中に入っていたのは手紙だった。

最初の方を読んでみると、そこにはたくさんの謝罪と、後悔を連ねたある夫婦の懺悔が書かれていた。

多分、この感じだと、昔の噂通り自殺してしまったご夫婦なんじゃないか。

そして、そこには恨みつらみが書かれているのでは………。


しかし、手紙の下の方を見てみると、そこには、その夫婦の娘と見られる人に当てた謝罪。


運動会に片方しかいけなかったこと。

毎日寂しい思いをさせたこと。

誕生日に一緒に祝ってあげられなかったこと。


それと、


サクラが、私たちの希望だ。ありがとう。

生まれてきてくれて、ありがとう。

私たちに幸せをくれて、ありがとう。


たくさんのありがとう。


「……っ、っあ……!」


他人の家族のことなのに、勝手に涙が出てくる。

我が子をこれだけ愛して、それでも尚、自殺という道を選んでしまった2人。

その懺悔と、娘へのありがとうが、私の胸の中で熱い何かとして込み上げてくる。


「あぁ……っ!、ぅあっ……ぁっ!」


私は我が子をちゃんと愛していただろうか。

私は両親と違うことに固執するばかりで、我が子を見てあげていただろうか。


私の色々な後悔が今になって大きな波としてやってくる。

これ以上、私が生きることは意味がないのではないか。そう、思えてくる。


だけど、この手紙が。

身の前に、美しく、それでいて、寂しげに咲くサクラが

『生きろ!』

と、そう、背中を押してくる。


「ごめんっ……、ごめんよぉ……っ!、夏美ぃ〜〜!」


散々泣きじゃくった私に残っていたのは、いままでの後悔と、それを償うために生きるべきという、手紙とサクラが教えてくれた希望だった。


















パサッ


泣き崩れた女性の手元から落ちた手紙。

それは、どこからか吹いた風に飛ばされて行ってしまった。


その手紙の裏側にも、何か書かれているようだったが、

女性は表側を見ただけで終わってしまっていた。


もう、誰にも読まれることはない手紙になるかもしれない。

そして、これは、誰かに向けた話ではない。

あくまでも、自己満足であるといえよう。


だが、ここまで見てくれた人への感謝をこめて。

この母親にも、ある少女にも。

すべてに救いがあることを信じて。


少女を残して死んでしまった

ある夫婦の、最後の言葉

大切なわが子へと送られたその内容を――――。




『追伸。


サクラへ。

勝手に自殺をしようとする私たちを許さないで下さい。

これは、決して許されることではありません。

でも、いつか、もし、私たちのことを許してくれることができたなら、サクラの名前の由来である、この桜の木の種を自分の家を持った時に庭に植えてください。

これを、私たちだと思って、寂しいときは抱きしめて下さい。


私たちの自殺にサクラは巻き込めません。

だって、サクラは私たちにとって、大切な、大切な、宝物だから。

サクラ、これからも、ずっと、永遠に愛してる。



P.S

桜の木の種はペンダントと共に同封しています。

私たちのこと、両親にしてくれてありがとう。


お父さん、お母さんより。』

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