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サクラ・サク  作者: カキツ
本編
2/10

すべての人たちへ。愛をこめて。サクラver.1

 この町、新田町には伝説がある。

 それは、自殺が必ず成功するという摩訶不思議なものだ。


 「これは、友達の友達、さらにそのお父さんの友達の話で――――」

 そんなのが連鎖的になって、もう、どこからどこまでが本当で、嘘なのかは全くわからない。

 でも、確かな事実として、自殺と思われる死体が見つかる件数がほかの町よりも圧倒的である、そんな伝説がこの町には存在した。






「年に数回ほどの自殺が起きる町があったとしよう。

 聞いて驚け。私の出身の町は、その5倍だ。」


 誇らしくはないけど、市外や県外の人へ町の自己紹介にはもってこいのワントーク。


 言っても目立ちたがり屋な人たちしかこんな自己紹介はしないが。

 

 ちなみに、もし私がそんな自己紹介してたら、親にひどく叱られそうだ。


 それもそのはず。

 私の親はどちらも警察官だった。

 自殺件数が多いこの町の。


 幼少期から、みんなが食卓につく夕方頃、私はいつも独りぼっちだった。

 なぜなら、私の親は自殺志願者を見張ってこの町の伝説に飲みこまれないように止める役割を担ってるからだ。

 だから、朝ごはんと休日の昼ご飯、祝日の夜ご飯でしか家族が食卓に揃うことはない。


 でも、私という大切な存在がいるにもかかわらず、それを放置して仕事に励んでいることはよろしいことだとは思う。

 なにせ、自殺を止めること、その自殺をしようとしている人の家族の心を守ろうとしているのだから。


 もちろん、小さい頃は「どうして、私といてくれないの!?」なんて反発していたけど、今になっては深夜0:00の「おかえり」が当たり前になり、「生活を支えてくれる両親」「町の笑顔を守る両親」と自身に思い込んで自己解決できるくらいに私は立派な成長を遂げたと思う。


 でも、この町の伝説は意外と古く、両親の頑張りは努力むなしくいつも空回り。

 有名な探偵でさえ、自殺候補の人を追いかけて見失い、結局死体として伝説の一部となるのだから、私の両親でなくてもこの町での自殺を止めることはできないのだ。


 だからこそ両親は、私がこの町の紹介で「自殺絶対できるよ!」なんて言ったらめちゃくちゃ怒ると思う。

 命がけでやっている仕事がすべて無駄であると、実の娘から言われているのと一緒だから。


 でも、毎日無駄な仕事をしているとわかっていても、私の前では愚痴もつらい顔も見せない両親を私は好きだ。

 一人娘であることもそうだが、運動会や授業参観のような日には必ずどちらかは来るようにしてくれたし、誕生日は必ず朝ではあったが両親ともに祝ってくれた。



 優しいお父さん、お母さんが

 大好きだった。

 自慢だった。

 大切だった。



 だからだろう

 私が……今、こんなにもつらいのは。



 警察服をばっちり着こなし、敬礼をしている母と、父の写真。

 その二つが私の目の前に、冷たくなった身体とともに飾られ、たくさんの綺麗な菊の花が二人を大事そうに包んでいる。



葬式が終わるころ。

父母、そして私も親交のあった奥田さんという父の上司だった警察官が私の傍へやってきた。


「ご両親は、いつも、自殺してしまった方のご家族に謝罪しに行っていたよ。

『私たちの監視が行き届かず、お亡くなりになってしまいました。すみませんでした。』

 と。それで、向こうの家族がこう言ってくるんだ。

『どうしてっ……どうしてっ……!』『あなたたちのせいで、お父さんが死んじゃった!』

 ってね。

 彼らもきっとわかっているんだ。この町に生まれて育った以上、伝説の噂が本当で、自殺はもともと止められないものだったんだって。

『でも、大切な人が亡くなった以上、彼らのやるせなさや悲しみはどうなる?俺たちが引き受けるしかないだろ!?』

 なんて君のお父さんは言っていたが、やはり精神的に無理が来ていたのかもしれないな。

 これは、ご両親が死んでいた場所で見つかったものだ。

 死体と共に、お父さんの手にあったペンダントなんだが、これは君が持っているべきだろう。

 今回のことは、俺の監督不足だった……。

 ほんとうに、ほんっ……とうに、すまなかった!!」


 両親の死因は過労と精神的なものからくる自殺だったらしい。

 自殺を止めようとする立場の人間が自殺をしてどうするのか。

 そんなばかばかしいこと、あっていいはずがない。


 両親の死に涙を流せていない私を配慮してか、漢らしく涙をこらえて頭を下げる両親の上司を、私は、両親の遺留品であったペンダントを手に握りしめ、ずっと黙って見ていることしかできなかった。





 2006年2月27日。

 大学が決まり、高校卒業を寸前のところで控えていた私にとって、

 このことは一生心に残り続けるものとなった。

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