美しき月の女神アルテミス
ある日の早朝、オリンポス十二神の一柱、美しき月の女神アルテミスは密かにアルテミス国にあるアルテミス宮殿を出てアルテミス神殿に一人で向かっていた……
アルテミス神殿に入ったアルテミスの元に、アルテミス神殿の神官ユーカリスがやって来て言った
「アルテミス様、準備は整っております」
「ありがとう、ユーカリス、では予定通りに……」
アルテミスがユーカリスにそう言ったあと2人は連れ立ってアルテミス神殿のエレベーターに乗り込んだ
「下へ参ります……」
エレベーターは静かに動き出した
地下5階に着くとエレベーターのドアが開いた
そこはアルテミス専用の地下鉄の駅である
アルテミスとユーカリスはエレベーターから降りると、ある1台の列車の方に向かって歩いていった
その列車とは豪華列車アルテミス・エクスプレス号である
この豪華列車アルテミス・エクスプレス号は、近頃アリーシャ公国にあるアーサー王国の魔術省と双璧をなす、この世界トップクラスの最先端技術会社ユーラユーラ社と、アルテミス国にある大賢者ササーヤンが所長を務めるササーヤン研究所とが共同開発によって作り出された列車であった
2人が列車に近寄るに連れ、美しい色合いの中に細かな装飾が施された豪華絢爛な列車からは力強い熱が感じられた
そしてユーカリスに続きアルテミスが列車のドアの目の前まで来ると、おもむろに神官ユーカリスが右手をあげ、それに気づいた近衛兵が素早く走り寄ってきてアルテミスが列車に乗り込むのを手伝った
「アルテミス様、足元にお気をつけください」
「ありがとう、ユーカリス……じゃあ、あとはお願いね」
アルテミスが列車に乗り込むと、豪華列車アルテミス・エクスプレス号の車輪がゆっくりと回りだし、徐々に列車はスピードを上げていった
豪華列車アルテミス・エクスプレス号はトンネルの中をしばらく走っていたが、突然アルテミスは窓の外が明るくなるのを感じた
列車が海中に出た為だった
巨大な透明パイプの中に線路が敷かれ、海中光芒の中で泳ぐ魚の群れが神秘的な雰囲気を醸し出している
アルテミスがぼんやりと海中を眺めていると突然列車がガタンと揺れ、急に上向きになるのを感じた
その5秒後……
豪華列車アルテミス・エクスプレス号は、大空を飛んでいた
列車は飛行モードに切り替わり格納されていた左右の翼が出てジェットエンジンが始動されたのだ
アルテミスは大空から眼下の緑溢れる広大な美しい自然を眺めているうちに琴線にふれて涙がとまらなくなった
「ルキ……今どこにいるの……私は……」
あふれ出る涙と共に色々な感情が湧き出し交錯し始めたアルテミスの大きな両目からは、さらに涙があとからあとからあふれ落ちたのであった……
それからどのくらい経っただろう……
突然、車内に、まもなくオリンポス山に到着するという車内アナウンスが響いた
そう、月の女神アルテミスは兄であり、同じくオリンポス十二神の一柱、太陽神アポロンに謁見するためにオリンポス山に向かっていたのであった
「アルテミス・エクスプレス号のドッキングを許可します」
オリンポス山の上空にある、オリンポス国際空中ステーションの管制官の指示により豪華列車アルテミス・エクスプレス号はオリンポス国際空中ステーションから飛び出てきた車両ドッキング誘導アームに連結された
そしてゆっくりと、ヘラ大神殿のちょうど真上にあるオリンポス国際空中ステーションの中の線路に誘導アームによって引っ張りこまれ停止したのであった
アルテミスは列車から降りるとエレベーターを使い、ヘラ大神殿1階で降りた
ヘラ大神殿を出て、ヘラ大宮殿に向かおうとすると一人の近衛兵がやって来てアルテミスに敬礼をしたあと言った
「アルテミス様、アポロン様がお待ちです……どうぞこちらへ、ご案内いたします」
「そうですか……分かりました……」
近衛兵に着いていくとヘラ大宮殿の広い裏庭のちょうど真ん中辺りに太陽神アポロンが一人、立っていた……
近衛兵が去るとアルテミスは言った
「お兄様……ルキの記憶が少しだけ戻ってしまって……私は信頼を失いました……」
「やはりな……急に会いたいと言うから何事かと思えば……だから言わんこっちゃない……ルキフェルは、あの時、殺しておけばよかったのだ……こうなっては仕方ない、早急に手を打たねば……」
「お兄様、ごめんなさい……でもルキは殺さないでほしいの……お願いします、この通りです」
アルテミスはそう言ってアポロンに深々と頭を下げた
「お前……まだ、そんなことを……」
太陽神アポロンはため息をつき、肩を震わせ、むせび泣くアルテミスをそっと抱きしめたのであった……