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「面白ぇ女」は私じゃなくて双子の姉なんだよなぁ

作者: さや

テンプレシリーズです。


「そこのお前、俺と付き合え」

「現実が話し掛けて来ないでください」


放課後、下駄箱前での遭遇。

私、花丘美音は空想の世界が好きだった。

高校生にもなって何を言ってるんだと思う人も居るかもしれないけど、現実より本の世界が好きだった。

それは何でもいい、例えば童話、例えば漫画……少年漫画や少女漫画問わないし、所謂ライトノベルから、昔の文豪と言われる人達の作品まで、とにかく「フィクション」の世界が好きだった。

とはいえ、流石に人前で読む本は選んでいた結果、何故か周囲によく分からない誤解をされてはいたけれど。

その誤解からなのか、目の前には校内で知らない人間は居ないと言われている星垣高ツートップのイケメン……俺様系イケメンである結城和生先輩に声を掛けられた。

ド派手な金髪にいくつも開いたピアス、チャラ男系俺様イケメンとして他校にも名を馳せているらしい。


「この俺に付き合えって言われて付き合わないなんてな、やっぱり面白ぇ女だ」

「私なんてただの本好きのつまらない女ですが」

「そんな事は無いだろ。噂になってるぞ、『新入生にとんでもない美人が入学してきた』やら『図書室に女神が降臨した』やら…」

「別の人の事ですね」


私はただ、図書委員として受付をしながら1人でずっと本を読んでいるだけ。

何故か一緒に当番する子たちが力仕事や雑務を引き受けると言ってくれ、「貸出と返却の受付だけしてて欲しい」って言うからお言葉に甘えてるだけ。

確かに外見は、双子の姉である美色に「美音がブスって言われるって事は私もブスって言われるのと同じだからね?」と言われてからなんかあれこれされるがままだから多少は……見れるくらいには良いかもしれないけど、美人やら女神やらは絶対別人だ。手入れをしているだけの長い黒髪なんて、時々幽霊みたいだなって自分で思うし。


「めちゃくちゃ否定するなお前」

「私は面白い女ではありませんので」


そう否定して立ち去ろうとしても結城先輩は私の前に立ち塞がり、この場から去る事が出来ない。帰りたいのに。

これだから現実は嫌なんだ、本の世界に居させて欲しい。

そんな事を考えている間に、思わぬ救世主が現れた。


「ダメだよ和生、美音ちゃん困らせたら」


結城先輩を叱るようにやって来たのは、校内イケメンツートップのもう1人である佐伯圭先輩だった。

何処かの国とのクォーターらしく、緩く波打つ茶色の髪は地毛らしい。左目の目尻の泣きぼくろは女子生徒たちに大人気だった。

佐伯先輩は時々図書室に本を借りに来るし、お勧めの本を聞かれるので答えていたら何故か日常会話をする程度には仲良くなった。

柔和な微笑みを浮かべながら、佐伯先輩は私に「和生がごめんね?」と言いながら私がここから立ち去れるようにか、結城先輩を羽交い締めにしてくれている。


「また今度お勧めの本教えてね」

「はい、また図書室でお会いしましょう。ありがとうございました、さようなら」


佐伯先輩は優しいから好きだ、結城先輩とは雲泥の差というか。

私はとりあえずの挨拶をして靴に履き替え、急いでその場から立ち去った。

それにしても…


「流石にイケメンツートップが揃うと現実味少し無いなぁ」


現実は好きではないけれど、現実味の無い現実は少し面白い。

2人揃うと少女漫画から出てきたのかなと思ってしまうまである。

そんな事を考えながら帰宅すると、玄関の扉を開けた瞬間聞こえてきたのは双子の姉の元気な声。


「美音ーーーー!!!!おっかえりぃぃぃぃーーーー!!!」

「美色、ただいま」


私と全く同じ顔、けれど表情は私より豊かな姉の美色。

高校も私と美色は違う高校に通っていた。

私は家から歩いて行ける距離の高校に、美色は最寄り駅から2つ先の高校に自転車通学をしてる。


「美音今日はどうだった?ほれほれお姉ちゃんに今日の報告してみ?」

「はいはいお姉ちゃん。今日はうちの高校のイケメンツートップのツーショットを拝んだよ」

「えぇぇーー!!!!何それいいなーーー!!!私もイケメン拝みたいーーー!!!!」


髪型も顔も全く同じなのに、どうしてこんなに違うんだろうとは私と美色共通の疑問だった。

時々2人で「根本的な部分は似てるんだけどね」なんて話す事もある。

本当に不思議だ。







「花丘美音、俺と付き合え」

「昨日お断りしましたが」


今日も今日とて下駄箱前で、結城先輩に絡まれる。

正直、結城先輩と佐伯先輩なら佐伯先輩の方が話も合うし落ち着くから好きだ。無理矢理グイグイ来る事も無いし。

結城先輩はなんか、ちょっと鬱陶しい。


「結城ー!カトセンが呼んでるぞー!」

「加藤先生に呼ばれているようですし早く行かれては?」

「チッ……今度時間空けとけよ!絶対落とす!」


私はさっさと靴に履き替え、校門から出る。

そういえば今日は駅前の本屋でポイントが倍付く日だと思い出し、本屋へ向かった。

買おうか悩んでいた本や新しく出ていた短編漫画を買って、早く読みたいなと思いながら店を出る。

駅前から少し歩いた所で、目の前に嫌な予感のするものが立ち塞がる。


「おネーサン、美人だね!良かったらお茶しない?」

「俺ら友達と待ち合わせしてたんだけどすっぽかされてさァ!」

「お断りします」


いかにもチャラそうな男2人を私は避けて立ち去ろうとした。

けど


「痛っ!」

「お高く止まってんじゃねーよ!」


本当に現実は嫌だと思う。

少女漫画ならこういう時に助けてくれる王子様みたいな人が居るけど、現実はそう甘くない。


「な?ちょっとだけ遊んでくれよ」

「嫌です!離してください!」


物凄く強く腕を掴まれて、逃げるに逃げられなくなった。

怖い……誰か助けて…!


「おい、ソイツは俺の女だ離せよ」

「はぁ?何言っ……ひっ!」

「星垣高の2大悪魔の結城!?逃げろ!」


星垣高の2大悪魔…?

謎の言葉は聞こえたものの、男たちは私から手を離して逃げて行った。

私を助けてくれたのは…


「結城先輩…」

「ったく、あんな奴らに絡まれてんじゃねーよ」

「好きで絡まれた訳では…」


結城先輩は私を見て、溜め息を吐いてから私の頭をわしゃわしゃと撫でた。


「わっ…何…」

「送ってく。また絡まれたら嫌だしな…」

「……結城先輩、助けてくださって、ありがとうございました」

「別に。俺の獲物が他の奴らに触られんのが嫌だっただけだ」


初めて、先輩を鬱陶しく感じなかった。

それどころか、少し……ほんの少しだけ、ときめいてしまったなんて…。都合のいい展開で少女漫画のヒロインがときめくのって、本当だったんだ…。

だけど私は、結城先輩と共通の話なんて無い。

どうしよう……送ってもらってる間無言は気まずい……そうだ。


「あの、結城先輩」

「ん?」

「何故結城先輩は、私に面白いから付き合えなんて言うんですか?私はつまらない女なのに」


先輩の言う「面白い」は、どう考えても私には当てはまらないのに何でこの人はこんなにも私にかまうんだろう。

私の言葉に結城先輩は口を開く。


「この間の土曜日なんだが、花丘を公園で見掛けたんだ」

「……公園で…?」


私ではない事が確定した!

私はその日、家でネット小説を読み耽ってたから!


「公園で花丘は、ベンチに座って子供の頭程あるおにぎりにかぶりつこうとしていた」


美色だ、絶対美色だ!

あの日の美色は「でっかいおにぎり、外で食べてみたくない?私は食べたい」って言ってピクニックもどきをしに行ったから!


「その瞬間、後ろから飛んできたボールが頭に直撃して、おにぎりに顔を突っ込んでいた」

「………」

「だが、顔を上げた瞬間とても幸せそうな顔をしていて……面白いと思った。その面白いと思った人間がまさか同じ高校に居るとは思わなかったが」


美色ーーーーーー!!!!!

結城先輩の言う「面白ぇ女」は私じゃなくて双子の姉なんだよなぁ!

せっかくときめいてしまったのに、先輩が好きになったのは双子の姉!事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだわ。


「あの、先輩…」

「という訳で俺と付き合え、花丘美音」

「お断りします…。あ、家もうすぐそこなのでここで大丈夫です…」

「そうか……なら、また明日な」

「はい。今日はありがとうございました」


私はお礼を言ってから、先輩と分かれた。

帰宅してから私は美色の部屋に向かう。


「ん!美音おかえりーーー!」

「美色、あんたね…」

「え、何?なんかおこ?」

「……イケメンツートップを拝めた原因、あんただったわ」

「へー!なんかよく分からないけど良かったね!良かった……んだよね?どうなの?」

「分かんない…」


何故か一気に疲れた、そりゃあ目の前で漫画みたいな事してる人が居たら「面白い」ってなるかもしれない。

しれないけど!それが双子の姉とか思わないじゃない!


「よく分かんないけど美音、元気無い?お姉様がハグしてしんぜよう!よしよしぎゅー!」

「……まあうん、ありがとう…」


美色に悪気は一切無い。

私の姉は、優しい。私にはとても優しい。

今だって抱き締めて頭を撫でながら、「お菓子食べる?高いアイスもあるよ?」と聞いてくれる。優しい。


「ちょっと元気出た、ありがと美色…」

「どーいたしまして!」


……結城先輩に、どう伝えよう。

そして頼むから、ときめいてしまった自分は一瞬血迷っただけで明日には冷めててお願いだから。




そう思ったものの、そんな願いは叶わない。




「美音」

「……結城先輩、名前呼びやめてください」


私の頭はバグったようだ。

下校しようと校門を出た所に、結城先輩は居た。

声を聞いた瞬間、名前を呼ばれた瞬間にそれはそれはキュンどころじゃない、ギューンって感じに!ときめいていた!

顔を見れば思わず微笑んでしまいそうになる、重症だぁ…。


「圭は名前で呼んでただろ」

「ちゃん付けです」

「俺がちゃん付けしたら気持ち悪いだろ」

「確かに」


帰宅するのに歩いているのに、何故か結城先輩は着いて来ていた。


「着いて来てもお付き合いはしませんよ」

「お前くらいだぞ、俺の誘いを断る女は」


一体今まで何人の人を誘ったのかは知らないけれど、私以外にも多分居ると思う。

そう口に出そうとして、何となく、やめた。

本当にこの人は今まで何人の女の子に声を掛けたんだろう。何人の女の子と付き合ったんだろう。

そんな事、考えたくなくて。


「ん?花丘美音、が…」

「先輩?」

「花丘美音が2人居る…?」


先輩の驚いたような声に前を見ると、確かに遠くから………いやけっこう遠いのによく見えましたね結城先輩…?


「美音ーーー!!」

「おい花丘美音!どういう事だ!」


……ああ、美色の事は言わなきゃいけないとは思ってたけど、こんなにすぐにバレるなんて。

隠してた訳では無いけど、「結城先輩が好きになったのは双子の姉の美色です」なんて、言いたくなかったかもしれない。……かもしれないだけで!惚れたりは!してませんけど!


「おやとんでもないレベルのイケメン」

「結城先輩、私の双子の姉の美色です」

「双子…!?」

「……先輩が土曜日に見た私は、美色です」


状況が飲み込めてない美色と驚いてる先輩。

うん、ねえ美色?美色は私とは違って明るいし、結城先輩とお似合いだと思うよ。

本当に心からそう思うのに。


「先輩が面白いと思った女は、美色なんです。私ではないんです」

「そんな……だが…」


先輩はしばらく呆然としてから、私を見て言う。


「だが、花丘美音、俺は、お前も気になる」

「え…」


それは、少しでも実際に話して私の人柄を知った上で…?

そう思ったのも束の間だった。


「だから花丘姉妹!2人とも俺と付き合え!」

「「は?」」

「おお!さすが双子!同じタイミングで同じリアクションとは!」


ちょっと待て。

結城先輩さっきなんて言った?


「花丘美音も花丘美色も、俺と付き合えば俺は両手に花!美人双子と付き合うなんてなかなか無いし楽しそうだ!」

「……結城先輩……」


スーッと冷めた。

ほんの僅かな時間物凄くときめいた気がするけど、気のせいだったのかもしれない。

人間ってこんなにスーッて心が冷める事あるんだぁ…。

そう思っている私の隣では、何故か美色がわなわなと震えてから


「っざけんじゃねぇぞ!!!」


決まったーーー!!!花丘美色、綺麗な右ストレートが結城先輩の顔面にクリーンヒット!決まりました!

美色に殴られた先輩は訳が分からないといった顔をしてて、いや、こっちのが訳が分からないんですけど。


「殴る必要ないだろう!」

「誰が!お前なんかに可愛い妹付き合わせるか!私も断る!」

「断る必要もないだろう!?星垣高イケメンツートップだぞ!」

「別名星垣高2大悪魔とも言うけどね。和生、フラれた子に執着するのは恥ずかしいよ?」


結城先輩の後ろから、佐伯先輩が笑いながら現れた。


「美音の言ってたイケメンのもう1人がこれ?」

「そうだけど……『これ』とか言うのはさすがに…」

「いや、2大悪魔って自分で言ってるし!」

「そう、星垣高2大悪魔……いやぁ、来る者拒まずな上に興味持った女の子たちに声掛けてたら、『人の彼女だろうが旦那が居ようがおかまいなしに口説くクズ』とか『関係クラッシャー』とか言われるようになって、最終的に周囲の男たちから悪魔呼ばわりってね!」


大笑いしながら佐伯先輩は言うけど、え、佐伯先輩までそんな…………私の中で、色々なものががらがらと崩れ去った瞬間だった。


「和生がごめんね?えっと、僕は無理矢理付き合わせたりしないから、これからも図書室でお勧めの本の話だけはしてほしいな?」

「……ああ、はい、分かりました…」

「やった!ありがとう美音ちゃん、和生は連れ帰るからね。えっと、双子の片割れちゃんもごめんね、うちの馬鹿が」

「さっさと消えろクズ」

「やっぱりお前たち姉妹は面白いな!この俺たちにそんな事言うのは…」

「消えろ馬鹿」


美色、辛辣。

佐伯先輩が結城先輩を引きずって行くのを眺めながら、美色はボソッと何かを言った。


「美色?」

「ん?なぁに美音」

「いや、何か言ってた気がするから…」

「気のせいだよ?ねえ美音」

「何?」


美色は私の顔をじっと見てから


「美音は美人だから、さっきみたいな悪い虫が寄ってきたらすぐ言ってね?お姉様が駆除してしんぜよー!!」

「駆除って……ふふっ、ありがと、美色」


こうして笑えるなら、ある意味結城先輩がクズで良かったのかもしれない。

本気になってたら、きっと苦しかったもの。




私はやっぱり、現実より本の世界に夢を見る方が幸せみたいだ。

チクリと感じた胸の痛みに気付かないフリをしながら、私は笑った。


美色ちゃんは一体何と言ったでしょうか。


別視点のようなものです

「僕は元々図書室の女神が好きだから」

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