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勇気の塔と低層階の敵

ー勇気を示せ。


 勇気の塔と刻まれた看板の下に、そんなことが書かれていた。

 勇気を示す? なんとなくそれが、ろくでもないことのように感じた。勇気というものは時と場合にもよるが、その大凡が結果論によるものだ。つまり勇気というものを発揮したとしても、それが成功しなければ愚か者のそしりをうける。だからただ、示せとだけ書かれたその言葉に妙な違和感を感じた。

「なぁ、早くいこうぜ」

「わかったよ。仕方ないな」

 タリアテッレはようやく酒が抜けたのか、元気いっぱいという様子だ。こいつの勇気というものは無謀に敵に突っ込んでいくことで、俺にとってそれは勇気でも何もなく短絡的な愚かな行為だとしか思えない。

 ともあれ足を踏み入れた先は聞いた通り石作りの通路で、しばらく進めばゴブリンが1匹現れたのをタリアテッレはなんなく倒す。その後もぽつぽつと襲ってくる敵を退けてボス部屋に至り、3匹のゴブリンを屠った。

 タリアテッレはもともとそれなりの戦士だ。この程度はどうということはない。

「さっさと先に行くか」

「この階層をもっと探検したりしないの?」

 ダンジョンには様々な宝があることがある。だからボスを倒すまえに隅々まで探索する冒険者は多い。

「うーん、探索しても大したものはないだろ」

「そっか、わかった」


 迷宮というのはそこに出てくるモンスターと同程度の価値があるものを産出することは多い。ごくわずかなボーナスダンジョンと呼ばれるものもその逆もあるが、このダンジョンにそのような特異性を感じない。

 そしてそれは5階層登ったところでかわりはなかった。探索は順調そのものだ。

「そろそろ休憩を取るか」

「え? 俺まだ平気だよ」

「休みはいつも取れる時に取れっていってるだろ。いざという時動けなかったら意味がない」

「そっか」

 ボス部屋の奥の次の階層に至る場所で宿で出してもらった軽食を開く。

「お、ハムたまごパンだ。結構美味いな」

 火の精霊を呼び出して鍋を温め、生姜の根といくつかのハーブを突っ込んでスープを作る。

「タリアテッレ、このダンジョンに違和感はないか?」

「違和感? うーん、普通」

「そうだな」

 2階は少し強くなって量の増えたゴブリン、3階はコボルト、4階はその混成、5階は弓矢や魔法を使うゴブリン。その他のモンスターも多少は出るが、基本的にはこれらがそれぞれの階の構成モンスターだった。


「タリアテッレ、他のパーティに一度も出会っていないことに気がついたか?」

「うん? そういえばそうだね」

「ここは迷路型だ。行き止まりの道は何箇所もあっただろう? でも戻ってくる者も追い越す者もいない」

「みんな迷わないのかな。すごいね」

 タリアテッレは素直に感嘆を述べた。

 入り口であれほどたくさんの冒険者がいたのに何の疑問も持たないようだ。それはそれで凄いな。俺は土の精霊に補助させて簡単にマッピングをしている。そもそも先に進むことを優先しているから空白部分は多いものの、正確性は間違いない。その地図を何度眺めても、どう考えても詰まる場所というものが何箇所かある。それこそ一度も道に迷わないことでもなければ誰かとはかちあいそうな場所だ。

 今のところ俺は戦闘には全く貢献せずに燃費の良い精霊を呼び出してほそぼそと補助をしている。役割分担といえば役割分担だから、その分効率の良いクリア方法を考えないといけない。とはいってもここのダンジョンは帰還石がすぐに出るので危なくなれば帰れば良い。すでに3個も手に入っている。

「とりあえず先に進むか」

「了解ー」

 6階層からは少し趣が異なった。

 6階層は湿地、7階層は砂漠、8階層は森林で9階層は火山帯、10階層は吹雪吹き荒れる場所だ。出てくる敵の難易度は想定通りに上がっていく。確かにこれらのフィールドはいわゆる特殊地形でそれなりに準備がなければ足が止まるかも知れないが、その点俺たちに抜かりはなかった。衛兵の男から情報は予め仕入れていたのもあり、1日1階層のペースでクリアしていく。

 そうして10階層のボス部屋の奥の間で再び火を焚いていた。今日は鍋を増やして宿で作ってもらったシチューも温める。

「うー寒い寒い」

 タリアテッレは火に手を伸ばしながら震えていた。

「明日からはまた迷路のダンジョンに戻るそうだよ」

「そっちのほうが良いな。俺寒いの嫌いだし硬いし」

 10階層のボスは想定通りフロストビーストで、その毛皮はそれなりに硬く吹雪を吐く。けれども対策すれば倒せない相手ではない。

「11階の敵が柔らかいわけでもないさ。アント類が出るらしい」

「まあそうだけどさー。でもアントか。あいつら酸吐くから嫌なんだよね」

「ひと休憩して、11階の様子を見たらすぐ帰る。いいな」

「はーい。あ、違和感はなかったよ」

 タリアテッレには毎回、戦いに違和感があったかどうかを聞く。タリアテッレは毎回違和感がないと言う。そのせいで俺の違和感はますます強まっていた。


 11階の扉を開ければ、そこは1階層と同じような石造りの通路が広がっている、少し歩けば3匹のアシッドアントが哨戒していた。仕入れた情報通りで、想定通りだ。タリアテッレであれば問題なく倒せるだろう。この調子で敵の強さが上がっていくなら、18階までは行ける。けれどもそれより先は厳しい。

「タリアテッレ、帰るぞ」

「ちょっとだけ戦っても良い?」

「駄目だ。あいつらは仲間を呼ぶ。疲労も溜まっているはずだ。どうせ明日また来る」

「うーんそうだね。わかった」

 そう呟くタリアテッレはわずかに不満そうだった。

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