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「すまない」

 王座に座る少年の冷やりとした目が、すまなそうに伏せられた。

「いいや、僕の責任だから気にしないで」

 少年と対になる少年が暖かみを持った目で王座に座るキングを見た。

 違うのは距離でもある。

 一方は王座に、もう一方は膝を立てて座っているのだから。


「キングは体現する法だから、覚悟はしているよ」

 笑って、受け入れるように顔を下に向ける。

 無防備な首。


「どうしてお前に処分を下さなければならない?

 ないことに「駄目だよ。示しが付かない。さあ」

 遮ってセントは促す。


「―処分を下す」

 目を閉じて聞き入るセント。


「処分はスペードのナイトからナインへの降格および

 今後一切俺に顔を見せるな!」


 クライトは未だに自分の決断に迷いを見せていた。


「それでいいんだ。エンブレムを」

 着けていたエンブレムをはずす。

 そしてじっと見つめてクライトに投げる。


 受け取ったクライトは泣きそうな顔をして

 ナイトの彫刻のなされたエンブレムを見つめる。

 ぎゅっと強く握り締め、そしてダイヤのナイトに渡す。


「新しいエンブレムです」

 ダイヤのナイトはキングにエンブレムとナイフを渡す。

 クライトはそれらを受け取り、裏のローマ文字に傷をつけた。

 その傷のついたナインのエンブレムを手渡しでセントに渡す。


 受け取るセント、王座に戻るクライト。


 そして式が終わる――訳ではなかった。


 クライトは退室せずにまだ、王座に座っている。

 どうやら何かについて考え込んでいるようだ。

 そしてふっきったように顔を上げる。


「セント、お前今日からキング代理な」

 突拍子もないことを言い出すクライトにダイヤのナイトが慌てふためく。

「な、何を言っているんです!!

 キングは代理など立てられない唯一の方」


「その唯一がどうして助けられない!?

 俺は無力だ」


「クライト、気に病むことはないんだ。

 ほんとうにいいんだ。

 代行は出来ないよ」


 無力さに打ち震えるクライト。

 しかし、顔を上げた瞬間には消えていた。


「俺はずっと外を見たかった。大地を踏みしめ、体で自然を体感したい。

 命令だ、セント。キング代行をしろ。

 そして、“黒影のガンマン”を貸せ」




 キャリーが真剣な顔をしている。


「そういえば、昇級試験の依頼料ってもらってないわ」


 後払いの約束だったが、いろいろあって忘れていた。

 私ともあろう者が!!


 セントが関心したように笑う。


「しっかりしてるね~。

 安心しなよ、ちゃんとあるから。

 昇進分のお金もプラスしてるんだ。

 銀行に行こう」


 数分後ほくほくしたキャリーの顔があった。





 もう一度セントの宿に戻る。


「これからどうするか予定を立てようか」

 セントの提案に、キャリーは自分の宿の鍵をくるくると回して考える。

「そうねぇ、まずお金も貯まったことだし、私の故郷に行きたいわ」

「君の?」


 不思議そうにキャリーを見る。


「さて、出発しますか」





「キャリーちゃん、故郷って何処?」

 親しくなってきたので“ちゃん”に変わっている。


「山よ。閉鎖的で、でも人のつながりであったかい村」


 キャリーの顔が優しくなった。


「残念ながら名前はないの。

 それでも言うとしたら、村長ミッドガルドの村ね」





 その村はまるで隠れ里のようにあった。

 村を木の木材が囲む。

 入り口に柱があって、おそらく大昔に名前が書いてあったのだろう、


 今は時の流れによって見えなくなっていた。

 名もなき村。


「ふ~、久しぶりだ~」


 キャリーが村の空気を懐かしむように深呼吸をする。

 セントは暖かみ溢れる村へと目をやる。

「おやおやまあまあ、キャリーじゃないか」

 エプロンをつけているおばあさんが野菜籠をもって現れた。

「ああ、パン屋の!」

「そうだよ~、綺麗になったねぇ。

 早く家に顔を出しておやりよ。

 最近はシェッドくんも元気そうでねぇ」


「ほんと!?」

 キャリーの目が大きく輝く。


「ああ、そうさ」

 パン屋のおばあさんはにっこりと頷く。

 キャリーの顔がみるみると明るくなり、一点を目指し疾走する。

「わ、キャリーちゃーん」

 セントが後を追おうとした時はすでに背中が消えていた。

 それを見てケタケタ笑い出すおばあさん。

「キャリーならあの家に行ったよ。

 あのフォークとナイフのマークのお店にね」

 指したのは料理屋。





「ただいまー!」

 キャリーが店口から入る。

 偶然来ていた客が歓声を上げる。


「キャリー、おかえり!」「綺麗になったじゃないか」「どうだい?今日の稼ぎは」

 それに一つ一つ答えていくキャリー。

「キャリー、いつまで店にいるの。

 シェッドはいつもの部屋よ」


「はーい」

 ぺろっと舌を出して家に入っていく。


「あの子も女の子なのに…」

 店のカウンターにのっている大きな麻袋はキャリーのお金だった。





 少年がベッドで本を読んでいた。少し、薄暗い部屋だ。

 晴れてきたのか、日光が窓から射し、少年の顔を照らす。


 太陽が射したように輝きだす白銀の髪。

 深緑の瞳が左右に動く。

 少年は分厚い本を読んでいた。

 突如としてドタドタと近づいてくる足音を聞いて、

 細い印象の強い顔を歪める。

 その様も美しいのだから、母の遺伝子に感謝すべきだろう。

 やっと騒がしい音の主が部屋のドアを開ける。


「元気かしら、私の可愛い弟よ」

「ああ、元気だよ。姉さん喧しいなと思うぐらいには。

 姉さんも女の部類に入るんだから、もっとおしとやかに歩きなよね」


 悪態をついていたシェッドはキャリーの顔を見た時、

 はっとしたように見入る。


 あの恋になんて興味すら示さなかった姉が

 女の顔に変わっていることに気づいたのだ。


「姉さん誰か好きな人がいるの?」

 弟に聞かれてきょとんとしていたキャリーだが、

 時間が立つにつれ、そわそわし出す。

 顔がだんだんと首から赤くなっていく。


 へぇ、そうなんだ。でも気に入らないな。


「い、い、いない!!」


 姉さんそれはないよ…。

 相手が可哀想だ。


 顔も知らぬ相手にまで同情する。

 実際に相手は可哀想な状態にあるのだが。


 今度はノックの音がした。

「ほら姉さん、普通の人はノックもするんだよ」

 ドアに向けてどうぞと答える。


「失礼しまーっつ!?…す」

 キィ…、パアン、ひょい、すたすた。


「こらーー!!お客様に銃向けるなんて駄目でしょ!!」

 銃を発砲したシェッドを叱るキャリー。

「え?見たこともない人、つまり不審者が入ったら

 誰でも発砲するでしょ」

「しーなーいー!!」


 シェッドの弾を見事かわして見せたセントはキャリーをなだめる。

「まあまあ、僕は無事だから。クイーンに鍛えられているし」

 一応落ち着くキャリー。


「で、不審者の名前は?」

 撃った本人が悪いとも思っていないように話す。

「シェッド!謝りなさい!」

「確かに不審者かな?僕はセント。ガンマンです」

「ついでに私のお客様よ!」


「ふぅん?それで姉さん今回いくら稼いだのさ」


 にまにま笑い出すキャリー。


「気持ち悪いよ姉さん。早く言えば」

「ふふふふ~。そんなに聞きたいのね!?教えてあげる~」

「やっぱいらない」

「そう言わずに~。

 なんと手術費用稼げたのよ~」


「体売ってないだろうね」

「するはずないわよ!

 これでシェッドの体も良くなるわ」

「そ、良かった」


「キャリーちゃんの稼ぐ理由?」

「まあね。こいつに長生きして欲しいから」


 シェッドがセントを見る。

「まさかこんなのが姉さんの好きな人じゃないだろうね?」

 銃をセントに向ける。


「違うわよ!だから銃を下ろしなさい」

 セントをかばうように立つキャリー。


「認めたね?好きな人がいるって」

「僕の従兄弟なんだよね~?」


 逃げ場のないキャリー。


 セントの言ったことをちゃんと聞いていたシェッドの耳が動いた。

「へぇ、まさかまんまあんたみたいなのじゃないだろうね」

 セントを下から上へと見る。

「外見は同じだけど中身は違うよ~。頼れるんじゃない?」

「それは僕が決める」

 セントはふぅ、と肩を落として、キャリーを見る。


「いつ行くの?早い方がいいよ。

 キングとクイーンの結婚式があるから」

 首に異物があたる。

 キャリーの銃だ。


「ど・う・し・て早く言ってくれなかったのかな~?」

「あはははは。兄弟そっくりで気が早いね」

「褒めていただけて光栄だわ~。

 で、いつ」

 ごりごりと銃を押し付けて問う。


「いまから一ヵ月後だよ。あくまで予定だから」

「どう乗り込もうかしら」


 置き去りにされた部屋の主、シェッドはついに切れた。


「僕にも分かるように話してくれるよね?

 キングだなんて不穏な言葉が聞こえたんだけど」


 溺愛している姉を睨んだ。



「僕にも分かるように話してくれるよね?

キングだなんて不穏な言葉が聞こえたんだけど」


シェッドが溺愛している姉を睨んだ。


凝視され、キャリーの目が横に動いていく。


「姉さん」


「…偶然キングだったのよ、好きな人が」

ぼそっと話す。

「リスクは分かっているんだろうね?

名を教えられないと言うことを」


「分かってる!!

そのせいで彼を傷つけたのよ」

感情が高ぶって声が大きくなる。


「名前は選べないからね…。ごめん。

で、話に入れてくれる?これでも本は沢山読んでるからさ」





「それなら裏から進入すべきだよ。

正面切って行っても捕まるのがオチだしね。

それを可能にするのがこの不審者もといセントになる」

キャリーにきつく睨まれた為訂正したシェッド。


「そうだね。僕なら城内に詳しいし、

キングだけが知っている道も知ってる。

僕も加わってクライトの救出を確かなものにする」

セントは真剣そのものの表情で話す。

その横顔がクライトとだぶる。

複雑そうに見るキャリー。

あまりに見ていたためか、キャリーの視線に気付くセント。


「あははは、もしかして似てた?」

覚えがあるように話す。

「よく言われるの?」

「よく言われてたが正解かな。

区別がつかないらしくて変えたんだ。

口調も、一人称も何もかも」


ぞっとした。

セントの闇を垣間見たから。

限りなく明るい口調でも、暗い。


「でも、そのお陰で僕は僕、クライトはクライトになった。

感情を共有することはなくなったんだ」

「共有って、相手の思ったことが分かるやつだよね」

シェッドが加わる。


「そうだよ。僕は僕だって分からなかったこともあって危険だった。

だからよかった」


想像以上に重い話だ。


「さて、地図を書き出すよ」

本人の明るい声に救われた。





作戦が立ったのですぐに出発する。


「姉さん、僕も後から城下町に行くよ」

今日も体調のいいシェッドがお見送りに来てくれた。


「別に来なくていいわよ。危ないし」


心底呆れたようにシェッドはため息をつく。


「僕が手術するのは城下町なんだけど、忘れた?」

「あは、忘れてたわ」

「まったく姉さんは…。

セント、姉さんを頼むよ」

「分かったよ」

セントは快く返事をする。

了解の言葉に口を緩めるシェッド。


シェッドは見えなくなるまで見送っていた。


「姉さんが本当に望むのなら名前を教えてもいいと思うんだ。

相手がキングじゃなければの話になるけど」





「助っ人を呼んであるんだ」

突然セントが言い出す。

「誰?」

後ろを指す。


にっこり笑って手を振るその人は


「おばさん!?」

「また、会ったわね」

任務中に出会った、あのおばさんがそこにいた。

「このおっかない剣をもったおばさんが僕の母です」


にっこりとセントと並ぶ。

そういえば、顔のつくりが似ている。


「おばさんがセントのお母さん~!?」





おばさんも仲間に加え、城のふもとに立つ。


「さて忍び込むとしますか」

キャリーが弾の確認をする。


「私が裏から、セントは表からね。

キャリーしっかりやりなさいよ」

おばさんがキャリーの方を叩く。

「プレッシャーね」

「あったほうがいいじゃない」

豪快に笑うおばさん。

この陽気さがセントに影響したのだろう。

笑い合って肩の力が抜ける。


大きく息を吸って告げる。

「ゲームスタート」





まず乗り込むのはセント。

正面切って動揺を誘う。

キングと間違えて国営ガンマンが捕らえようとしていた。


時間差でキャリーとおばさんが同時に乗り込む。

キャリーは静かに、おばさんはわざと騒がしく、である。


「よっと」

キャリーは城壁を昇って東から三番目の部屋に足をかけて進入する。

ここは城内でのセントの部屋らしく、今は誰もいないだろうということで

「っ!!」

向けられる銃。


ちょっとセント、人がいたけど、どうしてくれんのよ。

しかも見つかった相手がクイーン、カトレアなんですけど。


早くもピンチ。




小さい頃、セントが馬鹿みたいに明るくなる前。

私とセントはよく遊んでいた。

城下町で隣同士だったからだろう。


「なぁ、カトレア。俺は国営ガンマンになりたいんだ」

夢を追いかける眼差しに吸い込まれそうだった。

「じゃあ私もなるわ!」

あっと思った時にはすでに口から出ていた。


「げっ、少しくらい守らせろよ」

「やーよ」

あの暖かな日々はない。


「おはよー、カトレア!

僕、国営ガンマンになったんだよ!位は6なんだ!」


消えたのだ。ある日突然。

そして今も消えている。


カトレアはセントの部屋の机に塵が積もるのを見て、そっと机を撫でる。

線が残った。


「最近的にしすぎたから帰ってこないのかしら?」

口とは裏腹に寄せられる眉。

そんな時、背後で音がしたのである。


セント!?


そこにいたのは、最近昇進したキャリー・ファナーレだった。


言葉もなく銃を向ける。


彼女がホルスターに手を伸ばそうとするのを見て、警告する。

「この銃が目に入らないの?」

「あ~、視力2.0以上の目にはしかと見えますが。

でもしなきゃいけないことがあるのよ」

不敵に笑う。

実力者、クイーンに対面しているというのに。


「提案があるわ。

このまま帰ってくれないかしら?

その場合、私は撃たない」

「答えが分かっているのに問うのは愚か者のすることよ」

「交渉決裂ね!」


幕開けというように、二人が同時に発砲する。





セブンのキャリー、戦いなれている。

革命時に前線に並んだ私と同様。

何故。

このままじゃ、お互いに無事ではない。

命をかけた戦いだから。

血が怖い。またあのような血を見るのか。

けれども、勝てばクライトと結婚できる。

やっと、長かったんだから!!


戦いが嫌いな私が、ここまでのし上がったのは


クライトの隣に立ちたかったから!!

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