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 社会においてガンマンが国を制する時代。

 ある者は名声を上げようとギルドに登録をし、

 またある者は国営のガンマンとなり贅沢をしつくしていた。

 この話は

「ちょっと!!人の獲物取らないでよね!!」

 1に金、2に金、3に自分という少女の話。




「あれは私の獲物だったのに…」

 凄みを含んだ目で、男を睨む。

 この男、平然とした顔で歩いている。

 黒の艶ある髪の毛がなびく。伏せ目に長いまつげの目立つこと。

 そのまま見ると嫌味なくらい美しいのだが、

 生憎、そこから覗く漆黒の目は馬鹿にしていた。


「名前書けばいいだろ。な・ま・え」

「モンスターに名前が書けるかーーー!!」

 少女、キャリーの怒声が砂漠にこだました。



「ああ、私のお金…。可愛いわたしのお金…」

 キャリーの黄金色の髪がテーブルに広がる。

 暖かい大地の色が男、クライトを睨みつけている。


「出来もしない仕事を引き受けるからだろ。

 本来ペアで組む仕事だ。それを」

 遮るようにキャリーは叫ぶ。

「そうよ、私よ!二人分の仕事を一人でこなす代わりに

 報酬二倍って言ったのは!!」

「だから俺の女になれば一発でお金持ちだぞ?」

 口の端を持ち上げて笑ったクライト。


 こいつは国営のガンマンだ。

 国が支給する金で生きていける奴で…

 私に付きまとっている所為でとんでもなくお金持ちになりつつある。

 大体国営のガンマンは貴族が多いから、

 こいつが旅をしているのに納得がいかない。

 そもそも、邪魔。

 こいつがいるおかげで収入は1/2!!


 私は目に力を込めた。

「だ~れがあんたの彼女になんてなるもんですか」

「まぁ、冗談だ」


 言葉とは裏腹に、クライトの目は男の色香に満ちていた。

 キャリーの後ろの女性は頬が赤くなっていた。

 しかし、キャリーには効かなかったようだ。


「あんたってホストでもやっていけそうね」

 キャリーは金のことしか考えていなかったのだ。



「そこが面白いんだけどな」

 苦笑いしたクライトをキャリーが怪訝そうに見ていた。

 このつぶやきをキャリーは知らない。



「金ーーーーー!!」

 キャリーはギルドに駆け込んだ。

「ファイブのキャリー、営業妨害だ」

 落ち着いた中年男性が注意した。


「んもぅ、私とおやっさんの仲じゃな~い」

「情報屋と客だがな」

 素晴らしい切り替えしだ。

 まぁ、気を取り直して…

「で、仕事ちょーだいv」

「二人用の仕事だな、待てよ…」


 リストを捲めくり出す。

 ん?今聞き逃せないセリフを聞いた気が…


「待てや、おっさん」

「あ~?なんだ、今忙しいんだ」

「そうじゃなくて、どうして二人なの!?」

「お前の後ろにいるだろ、仲間」


 体を180度回転させ、仲間たる人物を見る。

 そこにはクライトがニヒルに笑って立っていた。


「よぅ、キャリー」

「げっ、撒まいてきたはすなのに」

「俺の辞書に不可能という文字はない」

「ナポレオンかよ!

 最悪、また分け前が減るじゃない…」

「なるほどな、ファイブのキャリーの名声がめずらしく上がってきたのは

 相方が原因か」



 ファイブ、ガンマンに就く位だ。

 下から、ファースト、セカンド、サード、フィフス、ファイブ

 シックス、セブン、エイト、ナイン、テン。

 ようするにトランプを思い浮かべて欲しい。

 その中で私はちょうど、ど真ん中。

 この位は国営のガンマンのスタート地でもある。



「凄い奴がついてるな」

 おやっさんが口端を持ち上げた。

 クライトの国営ガンマンの印のエンブレムが光る。


「俺は昔スペードのナイトだったんだがな。

 前の代のクイーンを守ってた。クイーンを見たことあるか?」

「あるさ、沢山な」

 男達はニャリと笑いあう。

「すっげー美人だよなー!!」

 がはははと笑うおやっさん。


「ナイトだか何だか知らないけど、仕事ちょーだい」

「おまえさん、ナイトも知らんのか。世間知らずだなぁ。

 ナイトってのはな、国営ガンマンの位の1つ。

 テンより強い者がなるんだ。

 テン、ナイト、クイーン、キングという順にな。

 ナイトのみ四つの記号があって、スペードは四記号のうち最強だ。

 つまり俺は強かったんだ」


「ふーん」

 どうでもいいので聞き流す。

 つまらなかったらしく、おやっさんは拗すねた。


「はいはい、仕事だろ。」

 出された仕事は野党退治だった。

「行ってきまーす!!」

 キャリーは資料を掴んで出て行った。



「あの仕事は、セブンの仕事だよな?」

 クライトは確認するかのように言う。


 嘘は許さない目だ。


「ああ、あいつはいつもセブンの仕事をしているんだ。

 体を傷だらけにしてな…」

 おやっさんはクライトを見る。

「いつもなら渋った仕事なんだが…、おまえさんがいるから渡した。

 守るんだぞ」

「言われなくてもするさ」


 エンブレムの裏を見せて去っていく。


「やっぱりな」

 後には笑うおやっさんがいた。



「ファイブの名において取り締まります」

 キャリーの掲げるエンブレムが大きく見える。

 ローマ数字で確かに5と書かれていた。

 そのエンブレムに野党は恐れ、キャリーに空気が傾いた。


 この仕事、やれる―!!



「たかがファイブだ。こっちにはセブンがいる」

 お頭らしき人が奥を見やる。

 奥から7の字を持ったガンマンが出てきた。

 ニタニタとこちらを見てきている。

 わざとエンブレムを見せるのが頭に来る。


 何がセブンよ!

 私だって昇進試験を受けてれば6か7くらいは…!

 悔しい、

 お金がないから昇進出来ない。

 お金がないから大切な人を救えない!


 男は優位を示すかのように笑う。

「7の字にびくったか~?」

「何がセブンよ!上等だわ」

 キャリーはすばやく銃に手を伸ばした。


 火蓋が切られる。





 キャリーの自信は強さと見合っていた。

 そして男の強さも7と見合っていた。

 あまりに均衡しすぎて勝負がつかない。


「本当にファイブか?」

「ええ、ろくに昇進試験も受けていないけど」


 強く地面を踏み切り、接近しながら打つ。

 だが、掠るばかりで致命傷は与えられていない。


「ちっ、うっとうしい弾ばっか打ってきやがって!

 次で最後だ!」

 真っ向から向かってくるキャリーの心臓に向けられる銃。

「終わりだ」

「遅い」


 男の頭蓋骨が嫌な音をたてた。

 間違いなく男の後ろにはキャリーがいる。

 男はごくり、と唾つばを飲み銃を落とした。

 地面に転がって回転する銃をキャリーはしっかり見つめた。


「大した早さだな。ファイブ。

 おめえがセブンじゃないのが惜しいぜ」

「そう言ってくれると嬉しいわ。

 さて、皆さんも降伏―」


 肉を切る音がした。





「何を…」

 信じられなかった。

 でも、目の前を赤い血が舞っている。

 崩れるのはセブンのガンマン。

 認めたくなかった、仲間を殺すなんて。

 目は真実を写す。

 自分が見たものに偽りなどないのに、どうして目をこすったんだろう。


「お前、用済み」

 野党のお頭は下劣な笑いをして、告げた。

「どうして…」

 左胸を押さえたガンマンが問う。

 多くの血が地面に染みている。

 もう、助からない。


「だってお前、負けたじゃねぇか。

 うちには弱い奴はいらないんでね。

 野郎共!ファイブを生かしておくな!!」

「「おー!」」

 男達のむさくるしい叫びにキャリーは後ずさる。

 野党はざっと30人いたからだ。



 *


 クライトは馬を使っていた。

「はい!」

 足掛けで馬の胴を強く叩く。

 馬の悲鳴の入った嘶いななきが返った。

「くそっ、もっと急げ!」

 柄にもなく焦る。

 俺がいるからくれた仕事=キャリー1人では無理な仕事 だからだ。


 死なせたくない、生きて欲しい、俺が守る!!

 らしくない感情に、自嘲の笑みが零れた。


 *


 銃と剣。

 いつも銃が勝つ。

 それは一対一の時に通用する。


 ごほっ、ごほっ。

 口の中が血まみれだ。

 体には刀傷が沢山。

 今回ばかりはやばいかも。

 野党らの剣が鋭く煌きらめいた時、目をつぶった。


 連続で銃声がした。

「キャリー、立て」

 いつも飄々顔のあいつは汗を幾筋か流していた。

 キャリーを取り囲む野党らは倒れている。

 大丈夫か、と聞かないのがこいつらしい。

 思わず笑いながら立ち上がる。

 けど、いつも颯爽と助けてくれるのだ。

 プライドさえなければありがとうと言っていただろう。

「ギルド法には投降させて連れて行く方法と、

 首を持っていく方法がある。

 おまえらはどっちがいい?」

 お頭が剣を投げた。

 それに習う部下たち。

「―聞いてみただけだけどな。

 おまえらむかつく。死刑」

 クライトの笑みは恐ろしく、この時でさえ美しかった。


 *


 その後、報酬をもらった。

 人は脆く、死にやすい。

 その一瞬を―

 クライトは支配した。



 報酬は二等分されたので減ったが、

 いつもの収入より多かった。

「おやっさん、3000イェン多いわ」


 1イェン=1円


「セブンに勝った分も入れているからな。

 頑張ったじゃねえか、キャリー」

 目頭が熱くなる。

「おやっさん…」


 感動を胸にお食事処へ。



 *


「はぁ、久々の肉料理だわ」

 感嘆のため息をもらす。

「お前は俺がおごるって言っても聞かなかったからな。

 尊敬に値するぞ。最も尊敬すべきは俺だが」

 キャリーは自分のものは自分で、がモットーである


「はいはい、あんたが一番」

 呆れたように肉料理をたいらげていく。

 久しぶりなので箸が進む。


 向かいに座るクライトはスプーンとフォークを使って食べている。

 肉を口に運ぶまでの一連の動作が、嫌味を感じさせない上品さを持っていた。


「おい」

 話しかけられてやっと、魅入っていたのだと気づく。

「何かしら」

「この街にはどれ位滞在する予定だ?」

 今まで聞かれた事のない言葉だ。


「はぁ?何かまずいことでも?」

 キャリーは最後の一切れを食べ終わる。

 そして豪快に水を一気飲みした。

「ぷはー!うまっ!」

「お前といると気が抜けるな」

 肩をすくめてみせる。

 そしてナイフとフォークを皿に置いた。


「あと三日で国営ガンマン統括部が来る」

「統括部、要するにキングとクイーンとナイトのこと?」

「ああ、もし三日後もここにいるなら俺はハッターに行く予定だ」


 ハッター…山岳部の帽子が有名な町だ。ここから一番近い。


「何の為に来るのかしら。

 で、どうしてまずいの?答えてないわ」


 ちっ、と舌打ちの声がする。





「俺は国営ガンマンだ。

 しかし、その国営の名に恥じる行いをした。

 キングの護衛の失敗。

 俺が油断した為にキングは今も背に大きな刀傷を負っている。


 処分は俺の降格および『顔も見せるな!』だ」





 そういって、国営ガンマンの印のエンブレムをキャリーに投げる。

 キャリーは両手でキャッチし、エンブレムの裏を見る。


 国営ガンマンは普通のガンマンと違い、裏に位が書いてある。


 そこにはナインと書かれたローマ数字。

 そして―


 上からナイフで切りつけられていた。


 罰が下った者の証。


「じゃあ、一時期有名になった“黒影こくえいのガンマン”はあんた?」

 口の端のみ持ち上げて笑った。

「そう言う訳だ。俺はこれからハッターに行く」

「じゃあ、これでさよならね」

「また会うだろうな。

 その時にはお前の名前を教えろ」


「私の名前は“キャリー・ファナーレ”よ」

「違う」

 クライトの整った顔が近づく。


「お前の本当の名だ」





 この国は王政が行われていた時から、女性には別の名前があった。

 昔の文化の名残だ。

 女性の名は漢字で記され、昔あった東国の響きで呼ばれる。

 自分が愛すと決めた男に。


 その名は自然界の祝福を受けているため無闇に扱えないのだ。

 だから生涯を誓い合った者しか知らないということになる。





「本気?」


 キャリーがこう尋ねても仕方のないことだ。

 ここで冗談だと返されることを祈って。


「覚悟はさっき見せたはずだ」


 しまった。あの秘密は本人にとって到底話したくないこと。

 つまり覚悟。

 それを知らずに聞いてしまったのだ。


「分かっている答えを聞くのは馬鹿がすることよ」

 悔しさを隠し、強く切り返す。


「それでも聞きたいと言ったら?」

 クライトは未だに真剣な顔をしている


「私は生涯恋人も、伴侶も作らないことにしているの。

 この誓いはあんたでも崩せない」


「俺は諦めない。お前は俺に惚れる」

 クライトの冗談まじりの告白は、すでに本気の告白に変わってしまった。


 そのはりつめた空間の中、

 慌ててお食事処に駆け込んできた者がいた。




「ファイブのキャリー、ここにいたのか」

 おやっさんは少し汗をかいていた。


「もう、いい加減ファイブのキャリーは止めてよね」

「いいじゃねぇか、ファイブなんだから」

 おやっさんは服で汗をふいた。


「おまえさんに客だ。

 小間使いが来ているんだが、えらく小奇麗でなぁ。

 いいとこの使いと見た」

「金ヅル!!」

「まー、そういうこった」

 早速支度を整えるキャリー。

 同じく、クライトも。


「あんたも来るの?」

「キャリーが無茶しないようにな」

 そして何故か咳をする。


「さっきのは訂正だ。

 …お前が心配」


「何?聞こえなかった」


 後ろでおやっさんが苦い顔をしていた。



 受け取れないんだから、仕方ないじゃない………。

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