第八話 『事件現場の部屋』
遠くで昌と慎吾が俺を呼ぶ声が聞こえる。
「おーい、裕也!置いてくぞー?」
「この先に例の事件現場がある部屋らしいから、早く行ってみようぜー!」
「お、おう!」
多分気のせいだ。そうに違いない。
俺は自分に言い聞かせるようにして先を歩く昌と裕貴の後を追った。
ホテル内は至る所がボロボロだった。
床もめくれている所も多く、注意して歩かないと床が抜け落ちてしまいそうだ。
天井は崩れ落ちている所もあって、窓ガラスは割られていて、壁には落書きがされている部屋もいくつかあった。
年季が入っていると言えばそう見えなくもないが、不自然に壊れていたり落書きがされている所を見るに、俺達みたいに肝試し感覚でこの廃ホテルに来た人が悪戯をしたんだろう。
いくら廃ホテルだと言っても、管理している人はいるのに、こういう事をする奴の気が知れない。
歩くたびに落ちている窓ガラスの破片と床の軋みが音を立て、静まり返った廃ホテル内に響く。
俺達は周りに注意しながら、3階の事件現場の部屋へと向かった。
「う~ん…事件が起きた部屋、確か3階の333号室だってネットには書いてあったんだけど…どこだ?」
「暗くてぜんっぜん見えねぇ…!あ、でも3階は他の階に比べて床も抜けてないし、比較的綺麗だな」
ようやく3階に辿り着き、裕貴がスマホを見ながら事件現場についての情報を調べ始める。
ここで俺は違和感に気付いた。
「ん?3階だけ落書きがないな…なんでだ?」
1階と2階の至る所に描かれていた落書きが3階には一切なかった。
経年劣化はしているものの、下の階と比べて壊されているようなものもないし、むしろ比較的綺麗にされているように感じた。
まるでこの階だけ避けられているように。
ここ…下の階と比べて空気が悪い…。
窓だって割られていないのに、かなり肌寒いし、荒らされていないのも不思議だ。
なんでここだけこんなに綺麗な状態なんだ?――おかしい。
辺りを見渡しながら進んでいくと、事件現場の部屋へと辿り着いた。
「お!あったあった!多分ここだ!333号室ってプレートがあるし!」
「よっし!早速入ってみようぜ~!」
裕貴と昌が問題の部屋へ足を踏み入れた瞬間、2人同時にその場に立ち止まった。
「ん?どうした?…って言うか、早く中に入ってくんねぇ?出入り口で止まられたら入れないだろ?」
立ち尽くしたままの2人の間から俺も中に入る。
そして部屋の中に足を踏み入れた瞬間、今までのどこの場所よりも空気が重くなった事に気付いた。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
次回更新まで暫くお待ちください。
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