気持ちを伝える方法
「お兄様は、バカにされていい方ではありません! 皆様、失礼ではありませんか!?」
「シルビア!? なぜ、お前がここに!?」
どうやら、彼女はパトリック様の妹のシルビア王女のようだ。さっきのやり取りを聞いて、激怒しているみたい。……バカにされているように感じてしまったのね。
「お兄様に内緒で、お父様にお願いしたのです。今日から私も、この学園の生徒ですわ!
ところで、ミシェル様という方はあなたですの?」
シルビア王女は、私のことをまるで値踏みするように上から下まで見る。
「初めまして、シルビア王女殿下。ミシェル・バークリーと申します」
「……合格ですわ! なんて美しいのでしょう!? 兄が夢中になるのも、分かりますわ! 私のことは、シルビアとお呼びください。ミシェルお姉様!」
「お姉様?」
「シルビア! ミシェルが困っているだろう! それは、気が早い!」
「……パトリック、ミシェルは僕の婚約者だと何度言ったら分かるんだ?」
ウィルソン様はシルビアに気を使っているのか、静かに……めちゃくちゃ怒っている。
「ミシェルお姉様には、婚約者が居るのですか? お兄様なら、大丈夫ですわ。奪ってしまいましょう!」
この兄妹……変。
「シルビア王女、それは聞き捨てなりませんね。ミシェルは僕の婚約者ですし、パトリックなど相手にはしていません。分かったら、とっとと教室にお行きください」
ウィルソン様……女の子相手に大人気ない。アーサー様は、ウィルソン様を見て笑いを堪えている。
「そんなにムキにならなくても、よろしいんじゃなくて? まさか、愛されている自信がないのですか?」
シルビアは、どうしてそんなにウィルソン様を挑発するのか……
ウィルソン様は、急に暗い顔になった。
「その辺にしてください。私は、ウィルソン様の婚約者です。それは、この先も変わることはありません。遅刻してしまいますよ、教室に行きましょう」
「お姉様がそう仰るのでしたら、教室に行きますわ。だから、嫌いにならないでください」
大きなクリクリの目をうるわせながらそんなことを言われたら、可愛いと思ってしまう。シルビアは、素直に教室に向かった。悪い子では、なさそう?
「ミシェル~! アーサー様! 皆様、おはようございます!」
シルビアが去って直ぐに、ナンシーの明るい声が聞こえた。
「なんか雰囲気おかしくありません? 何かあったのですか?」
キョトンとした顔で首を傾げるナンシー。
「ナンシー、遅い! 話は後! 遅刻しちゃうから、教室行こう!」
愛されている自信……か。
好きだと言っていないから、ウィルソン様にあんな辛そうな顔をさせてしまった。
どうにかして、彼に想いを伝える方法を考える……思い付いてしまった。私なりの、伝え方を!
授業が終わると、ウィルソン様の手を引いて走り出す。
「ミシェル?」
とにかく急いで、邸に帰りたかった。
「ウィルソン様、急いでください! 帰りますよ!」
わけが分からなくても、彼は素直に着いて来てくれる。いつだって、彼は私を信じてくれる。どんな時も、彼は私を守ってくれる。こんな素敵な人は、たとえまた生まれ変わったとしても出会うことは出来ない。そんな彼に、あんな顔は二度とさせたくない。この世界が、ゲームだろうが知ったことではない! これは私の現実であり、私の人生だ! 大切な人を傷付けてまで、ゲームに付き合ってあげる気はないから覚悟しなさい!
邸に帰ると、ウィルソン様には庭園のベンチで待っていてもらい、ザックを探した。
「ザック!」
ザックを見つけると、急いで駆け寄る。
「お嬢様、お帰りなさいませ。そんなに慌てて、どうされたのですか?」
「お願いがあるの!!」
ザックに、ウィルソン様を温室に連れて来て欲しいと頼んだ。その間に、私は温室に向かった。
温室には、沢山の花が咲いている。前世の私は、花も好きだったけど、花言葉も好きだった。ウィルソン様が……戸ヶ崎さんが、私のことをずっと見てくれていたなら、そのことを知っているかもしれないと思った。だから私は、花言葉で気持ちを伝えることにした。
「お嬢様、殿下をお連れしました」
ザックはウィルソン様を案内すると、そのまま温室から出て行った。
「理由も聞かずに来て下さり、ありがとうございます」
彼に背を向けながら話す。
「当たり前だ。君が望むなら、いつでもどこへでも行くよ」
顔を見なくても、笑顔で居てくれているのが分かる。
「私が、前世で花が好きだったことはご存知ですか?」
「知っている。いつも昼休みになると、花言葉の本を読んでいたよね」
やっぱり、知っていてくれた。私の知らないところで、大好きな人が私のことを見ていてくれたと思うと、胸が熱くなる。
「この場所は、私が一番好きな場所なんです。庭園の花も好きなんですけど、ここに咲いている花がすごく好きで……この花、知っていますか?」
ウィルソン様は、私の隣に並んで、咲いている花を見る。
「胡蝶蘭だね」
隣に立つウィルソン様の顔を見上げ、ニッコリ笑う。
「はい。ピンクの胡蝶蘭です。この花の花言葉が、今の私の気持ちです」




