結果発表
ナンシー様は、あの後ミスコンを棄権した。
「騒ぎを起こしてしまった私には、ステージに立つ資格なんてありません」
とのことだ。
彼女は、案外強いのかもしれない。
自分を見てくれなくても、アーサー様を好きでいると決めた彼女は凄く魅力的で、女の私でもキュンとしてしまった。
「お待たせしました~! 集計結果が、出ました!」
ミスコン出場者達は、もう一度ステージの上に上がった。
ローリーが居なくなった時点で、ミスコンの結果にこだわる必要はなくなった。パトリック様がローリーと結ばれることがないのなら、私が破滅することがなくなったということだからだ。今は、応援してくれた人達の為に、優勝したいと思っている。
「今年は、ちょっとしたハプニングがありましたが、素晴らしい出場者の方達が集まりました。しかしながら、残念なことに優勝出来るのはたったの一名です。負けてしまった方も、お気を落とされませんように! では、優勝者を発表します!」
副会長は、一枚の紙を広げた……
「今年の優勝者は……エントリーナンバー7番! ミシェル・バークリー嬢!!」
副会長の発表と共に、大きな歓声と盛大な拍手が私を包み込んだ。
「私が……優勝?」
ミスコンに優勝する為に努力はした。だけど、まさか本当に優勝するなんて思っていなかった。
「ミシェル嬢、こちらへ!」
副会長が、ステージの前に来るように促した。ステージの前に立つと、学園の生徒達だけでなく、会場中の人達が笑顔で私を見ていた。
生徒会の女子生徒が、私の頭にティアラを乗せてくれた。そして、生徒会長が花束を渡してくれる。
「今のお気持ちは?」
「凄く、嬉しいです。皆様のおかげで、私は今、ここに居ます。本当に、ありがとうございました!」
素直な気持ちを伝えた。今の私が居るのは、大切な人達のおかげだ。感謝という言葉では足りないほどに、私は色んな人達に助けられていた。
歓声と共に、ミスコンは幕を閉じた。
「お疲れ様、ミシェル。そして、おめでとう」
ステージから降りると、ウィルソン様が出迎えてくれた。アーサー様は、ジョナサン様に引き止められて、少し離れたところで手を振っている。その隣には、ナンシー様が寄り添っている。
「ありがとうございます。ウィルソン様や、皆さんが、応援してくださったからこその結果です。それに、また庇ってくれて、本当に嬉しかったです」
私は、ウィルソン様を誰より信頼している。ローリーが私を陥れようとした時、冷静で居られたのは彼のおかげだ。私のせいで、戸ヶ崎さんは命を失ってしまった。それなのに、彼はずっと私の味方でいてくれて、ずっと愛してくれていた。こんなに素敵な人が、私のそばにいてくれる。
「君は、誰かを傷付けたりしない。庇ったのではなく、事実を言っただけだよ。なんて、カッコつけたけど、君のためならなんだってする。君は僕の全てなんだ」
こんなに愛情たっぷりに、甘い言葉をずっと言ってくれていたのに、信じなかった自分にびっくりだ。
「私も……」
素直になろうとした時、
「ミシェル嬢、優勝おめでとう」
後ろから、声をかけられた。
振り返ると、そこにはパトリック様が立っていた。
「……ありがとうございます」
「邪魔をしてしまったなら、ちょうど良かった」
パトリック様はそう小声で呟き、ゆっくり歩いて来た。
「聞こえているよ? 邪魔をしたことがちょうど良かったとは、悪趣味だな」
気のせいだろうか……?
二人の間に、バチバチと火花が散っているように感じる。
「ああ、聞こえていたのか。ミシェル嬢があまりに美しいから、ウィルソンから奪ってしまいたくなってね」
この状況は、一体何!?
ウィルソン様の好感度が低い時だけに現れる隠しキャラ……のはずの、パトリック様が、悪役令嬢の私に好意を持つなんてありえない。だけど、ありえないことが起こりまくって来たのだから、ありえないなんてことはありえないのかもしれない。
そもそも他国の王子が、この国の王太子の婚約者を奪うと宣言することは、両国の国際問題になってもおかしくはない。
「言ってくれるね。残念ながら、ミシェルを渡すつもりはないよ」
そう言いながら、私の肩を抱き寄せる。あまりにも近くて、鼓動が早くなる。もう私の目には、パトリック様は映っていなかった。
「はぁ……ミシェル嬢の目に、私は映っていないようだ」
ため息をつきながらそう言ったパトリック様の言葉も、私の耳には届かなかった。




