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ウィルソン様が……



ここは、ゲームの世界……そう思っていたけど、違うの? 髪の色と目の色は違っているけど、どう見ても相田さんにしか見えない。二重の大きな目、形のいい唇、目の下のホクロまで……

どうして相田さんがここに居るの?

ゲームの中のウィルソン様は、金色の髪に青い瞳で、いかにも王子様といった容姿だった。金色の髪に青い瞳は、ゲームのままだけど、顔立ちは相田さん……この状況は、いったいなんなのだろうか。

わけがわからず固まっていると、彼がこっちに向かって歩いて来た。


「それでは、私はこれで失礼します」


案内してくれた執事は、彼を見て去って行く。ということは、彼がウィルソン様ということになる。


「ミシェル、まだ支度を終えていないのかい?」


ウィルソン様は、私の格好を不思議そうな顔で見る。どこかに出掛ける約束でも、していたのだろうか。


「あの……支度とは?」


「何を言っている? 今日は学園の入学式だってことを、忘れてしまったのか?」


入学式!?

それならそうと、執事が教えてくれてもよくない!? この状況は、ウィルソン様がミシェルを迎えに来たのね。


「申し訳ありません! うっかりしていました! 今すぐ着替えてまいります!」


私は急いで部屋に戻り、制服に着替えて、彼の待つ庭園へと走った。庭園に着くと、彼がまだ待っていてくれた。なんとか迷子にならずにすんで、ホッと胸を撫で下ろす。


「はぁはぁ……お待たせ……はぁはぁ……しました……」


全速力で走ったからか、息が苦しい。


「あはは! そんなに急がなくても、良かったのに。少し早めに来てしまったから、君と少しお茶でもしようと思っていたんだ」


そう言って笑ったウィルソン様の笑顔は、少し若いけど相田さんそのものだった。私の大好きだった笑顔……そして、大嫌いな笑顔。


「そうだったんですね。朝の貴重な時間を、台無しにしてしまって申し訳ありませんでした」


「気にすることはない。行こうか」


優しい、ウィルソン様。相田さんに瓜二つなウィルソン様。彼は、私を裏切ってヒロインと婚約をする。それでも構わない。私は、相田さんと同じ顔をしたウィルソン様を、好きになることは出来そうにない。ウィルソン様に、媚びを売って婚約維持作戦はやめた。彼は、ヒロインにノシつけてくれてやるわ!


ウィルソン様と一緒に、馬車に乗り込み学園へと向かった。馬車の中でも、私を気遣ってくれる優しいウィルソン様だった。学園の入学式に、ヒロインとウィルソン様は出会う。

ヒロインの名前は、ローリー・ダナドア。準男爵令嬢。貴族が通う学園に、準男爵令嬢が通うなんて普通ならありえない。一代限りの準男爵の令嬢が、学園に通ったところで、あまり意味がないからだ。学園は、婚約者を見つける場でもある。準男爵令嬢と婚約したい令息なんて、普通ならいない。だけどこれは、乙女ゲームだ。主人公は気弱で大人しい性格。見た目は可もなく不可もなく。それでも、モテてしまう。主人公には、絶対勝てないシステム。

それならば、さっさとウィルソン様をヒロインに譲って、私はヒロインと仲良くなり、邸を追い出されないように次の婚約者を見つける。せっかく、ゲームの知識があるんだから、利用しないなんてバカよね。

それにしても、分からないことがある。どうして、ウィルソン様は相田さんにそっくりなのだろうか。この乙女ゲームをやり始めたきっかけは、攻略対象の王子様が相田さんに似ていたからだけど、ここに居るウィルソン様はどこからどう見ても相田さんそのものだ。私の願望が、転生先に反映されちゃったとか? そんなわけないか。願望なら、私はヒロインになっていたはずだし、フラれた相手を婚約者にするなんてありえない。


「着いたみたいだね。降りよう」


差し出された手を取り、馬車から降りる。

前の私だったら、彼の手に触れるなんて考えられなかった。


「ありがとうございます」


冷たいと思っていた彼の手は、凄く温かかった。

式が行われる講堂へと向かう途中で、ヒロインに出会うことになる。


「離してください!」


早速、出会ってしまった。

準男爵令嬢のヒロインは、どうしてこの学園に来たのかと他の生徒達に虐められている。


ここで、ウィルソン様が助けに……


「準男爵令嬢ごときが、俺達に逆らう気か!?」

「このブスが!!」


ピキピキと、私のこめかみの血管が浮き出て来た気がした。その瞬間、私は虐めていた生徒達の前に立っていた。


「いい加減にしなさい! この学園の生徒でいる限り、生徒は皆平等なはずよ! 身分で差別するなんて、許されないわ!」


そして、思いっきりヒロインを庇っていた。

私……何しちゃってるの!? ここは、ウィルソン様がヒロインを助ける場面なのに、私がヒロインを助けてどうするのよ!!

いきなり、全生徒を敵に回してしまった。これで、邸を追い出されたら私は殺されること間違いなしだ。


でも、許せなかった。女性に向かってブスだなんて言っちゃう男はクズよ!


「ミシェル様!? 申し訳ありませんでした!」


生徒達は私に怯えている。ミシェルは、とても怖い人物だったみたいね。


「カッコイイね、ミシェル。君、大丈夫だった?」


ウィルソン様がローリーに声をかけると、彼女は頬を赤く染めた。結局、ゲームと同じ流れに戻ったみたい。


「ありがとうございます。あの……お名前は?」


ローリーはモジモジしながら、ウィルソン様に名前を聞いた。


「僕は、ウィルソン。彼女は、ミシェルだよ」


ゲームでは、私の名前なんて言わなかった。私が助けちゃったから、私のことを紹介したのね。

それにしても、ヒロインの雰囲気が誰かに似ているような気がする。気のせい……かな?




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