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婚約者のウィルソン様



どうして、こんなことに?

私は事故にあって……まさか、死んだの!?

死んで、ゲームのキャラになるとか、ありえるの!?


夢! そう、夢かもしれない!

そう思って、思いっきり自分の頬っぺをつねってみる。


「いひゃい……」


これは、現実のようだ。

現実だと分かったけど、私の異様な行動をメイドがじっと見ている。なんとか誤魔化さないと、変な人確定になってしまう。


「怖い夢を見ていたの。痛いから、これは現実ね。すぐに食堂に行くから、下がっていいわ」


私の言葉を信じたのか、メイドは頭を下げて部屋から出て行った。


とりあえず、食堂に行ってみよう。

理由は、お腹が空いているから。お腹が空いてたら、まともに考えることも出来ないし、その『旦那様』と『奥様』とやらに、会って話を聞かなくちゃ。


……困った。

メイドを引き止めておくべきだったと、後悔した。着替えはなんとかすませた。だけど……


ドアを開けた瞬間、長い長い廊下が続いているだけのこの建物から、食堂を探すなんて無理だー!


とりあえず、右に行ってみよう。

ゲームでは、邸の中のことまで詳しく説明なんかなかった。ヒロインなんだから、悪役令嬢の邸なんか把握する必要なんてなかったし。

そもそも、これは転生なの? ミシェルとしての記憶なんて全くないし、いきなりゲームの世界のキャラになっている。私の記憶は、佐倉莉音として生きて来た記憶だけ。佐倉莉音として、ゲームをしていたこの世界の記憶はあるから、ミシェルを演じることは出来そうだけど……ミシェルをそのまま演じて行くと、悪役令嬢らしい末路が待っている。


きっと、私はあの事故で死んだ。だとしたら、今存在しているミシェルとしての私が、現実だということになる。それなら、ミシェルとしてそのまま生きるわけにはいかない。だって、死んじゃうから!


今がゲームの序盤なら、これからヒロインに出会い、ミシェルはヒロインを虐め、婚約者のウィルソン殿下に婚約を破棄される。婚約を破棄されたことで学園の生徒達から嫌われ、学園に居られなくなる。そして、バークリー公爵家の恥晒しだと、邸を追い出される。追い出された後、ミシェルは、それまで虐げて来た生徒達によって殺されてしまう。よく考えたら、なんてクソゲーなの!? ミシェルが、可哀想じゃない!

ミシェルの人生は、今は私の人生になったんだから、最悪なバッドエンドを迎えるわけにはいかない。


右をずっと進んでいたら、メイドを見つけた。さっきのメイドじゃないけど、食堂の場所を聞いてみることにした。


「ねえあなた、食堂はどっち?」


もちろん、不思議そうな顔をする。自分の邸なのに、食堂がどこにあるか分からないわけがない。


「あの……この先を左……です」


答えてはくれた。もう迷子になりたくない。


「案内してくれる?」


この無駄に広い邸は、まるで迷路のように思えた。もう一人で迷いたくなかった私は、メイドを逃がしたくなかった。


「……かしこまりました」


彼女からしたら、だいぶおかしなことを言っているのは分かってる。それでも、疑問を口にしようとはしないところをみると、ミシェルはメイドに評判が良いとは言えなそう。クソゲーだと思ったけど、自業自得の結末なのかもしれない。


食堂の入口に着くと、メイドは頭を下げて去っていった。


さて、悪役令嬢の両親とご対面といきますか。


食堂に足を踏み入れると、長いテーブルに『旦那様』と『奥様』とやらが、並んで座っていた。


「遅くなってしまい、申し訳ありません」


二人は、こちらを全く見ようともしないで、食事をしている。これが、親子なの?

席に着いても、何の反応も見せない二人。こんな両親なら、ミシェルの性格が歪むのも無理はない気がする。


私の……莉音の両親は、幼い頃に離婚した。お母さんが、女手一つで育ててくれた。二人きりの家族で、仲は良かった。裕福な家庭じゃなかったけど、何不自由ない暮らしをさせてくれたし、何より私を愛してくれていた。

この二人からは、ミシェルに対しての愛情が感じられない。確か、ミシェルには弟が一人居たはず……


食事をしながら、二人を観察していたら、一際明るい声が食堂に響き渡った。


「父上、母上、おはようございます!」


声の主は、二つ歳下の、弟のデイビス。

デイビスの声を聞いた瞬間、両親の顔が明らかに明るくなり、笑顔になった。


「おお! デイビス、おはよう。良く眠れたか?」


「デイビスは、今日も美しいわね」


三人は、私を完全に無視して話し始めた。


どうやら、この邸に私の味方は誰もいないみたい。

食事をすませて席を立っても、こちらを見ようともしない三人。もしかしたら、ミシェルはもう婚約を破棄されているの?


部屋に戻ろうと廊下に出ると、男性の使用人が声をかけてきた。身なりからして、執事だろうか。


「お嬢様、ウィルソン殿下がお見えになっています」


朝から邸に会いに来たということは、まだ婚約は破棄されていないみたい。それなら、婚約を破棄されないようにウィルソン様に媚びを売りまくろう!


執事のあとを着いていくと、花々が咲き誇る美しい庭園が見えて来た。そこに立つ男性が、私の気配に気付いてこちらを振り返る……


う……そ……

こんなの、ありえない……


私は、思いっきり目を見開いた。

振り返った彼の顔は、ウィルソン様じゃなかった。ウィルソン様じゃないどころか、よく知っているあの顔。私が告白してフラれた、相田さんの顔だった。



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