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悪役令嬢に転生!?



「お前は、無理……」


残業をしている大好きな会社の先輩に、勇気を出して差し入れを渡しながら想いを伝えた。相田さんが残業していると知って、お店が閉まる前に急いで彼の大好きなお菓子を買って来た。相田さんとは部署も違うし、挨拶程度しか言葉を交わしたことがなかったから、OKされるなんてありえないのは分かっていた。私はただ、私という存在を認識してくれたらという思いで、彼に告白をしただけだったのに……


まさか、告白の返事が『お前は、無理……』だなんて、あまりにショック過ぎて、言葉が出て来ない。そんなに、嫌われるようなことをした覚えはない。さっきも言ったけど、挨拶程度しか言葉を交わしたことがないのだから、嫌われることなんてないはず。


「……理由を聞いても、いいですか?」


彼は面倒くさそうにため息をつきながら、私の方を見た。


「お前、鏡見たことあんの? お前みたいなブスが、俺と釣り合うわけないだろ?」


確かに私は、美人な方じゃない。だけど、ブスではないと思って、23年間生きて来た。好きな人に、ブスと言われること程ツラいことはない。


「もう、いいか? 仕事したいんだけど?」


イライラし出す彼に、これ以上何も言うことが出来なかった。確かに、仕事の邪魔をしたのは私だ。声を絞り出して、『お疲れ様です』と言ってからその場を離れようとすると、『チッ!』と舌打ちをされた。


佐倉莉音(りお)、23歳、初めての恋で初めての失恋。


私が好きだと伝えた時の、彼の嫌そうな顔が頭から離れない。


早く家に帰りたくて、会社を急いで出る。

考えれば考えるほど、腹が立って来た。あいつは、何様!? 確かに、相田さんはイケメンだけど、人をブスだなんて言っちゃう奴は、クソ男じゃない!! 少しくらいモテるからって、調子に乗り過ぎ!! 私は、付き合いたいなんて、言っていない! ただ、好きだと伝えたかっただけなのに、何であんなこと言われなくちゃいけないの!?


イライラしながら、早足で歩く。

相田さんに初めて会った時、凄く笑顔が素敵で、優しそうな人だと思ったのに、全然全くこれっぽっちも優しくなかった。私って、見る目ないな。


「危ないっ!!」


考え事をしていたからか、赤信号に気付かずに道路に飛び出していた。猛スピードで近付いて来るトラックが見えた瞬間、私は宙に浮かんでいた。

どうやら私は、トラックにはねられたみたいだ。


そのまま、意識を失った。



***



目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。すごく天井が高くて、とても豪華なシャンデリアが見える。


ここは、どこ?


辺りを見渡すと、病院には見えない。

トラックに、はねられた記憶はある。死んでいないのなら、ここは病院のはずなんだけど……


アンティークみたいな家具が沢山あって、ものすごく広い。どうして私は交通事故にあったというのに、こんなに冷静なのだろう。理由は、簡単だ。あんな振られ方をしたのに、何もなかったフリをして会社へ行く自信がまだなかったからだ。

あの時……トラックにはねられた時、正直ホッとしていた。別に、死にたかったわけじゃない。明日、相田さんに会わなくてすむと思っただけだ。


ここがどこか分からないまま、部屋のドアがノックされる。返事をすると、中に入って来たのはメイドのコスプレをした女の子。こんなコスプレをしてるなんて、どういう病院なんだろう……


「お嬢様、朝食の準備が出来ております。旦那様も奥様も、すでに食堂にいらっしゃいます」


この子、何を言ってるの?

もしかして、メイド病院!? 患者は、ご主人様的な?? ……そんな病院あるかっ!

だいたい、私はケガをしてるのよ!? それを、食堂に行けだなんて……あれ? どこも、痛くない。


ベッドから起き上がって、自分の身体を見てみると、どこもケガしてる様子はない。よく見ようと、鏡の前に立つと……


誰!?


鏡に映っていたのは、私ではなかった。

それどころか、日本人でもない。髪は青みがかった銀髪、透き通るように白い肌、瞳の色は燃えるような赤。鏡に映っている美しい女の子は、いったい誰なの……?


「ミシェルお嬢様? どうかされたのですか?」


メイドのコスプレをした女の子が、私の行動に首を傾げている。

ミシェル……聞き覚えがあるような?


思い出した!

この容姿は、私がやっていたゲームのキャラにそっくりだ! しかも、名前はミシェル!


「私は、ミシェル・バークリー?」


名前を口にすると、メイドは不思議そうな顔をしながら、コクンと頷いた。


ということは、やっぱり私は『恋する乙女令嬢』という乙女ゲームのキャラになっているらしい。それに、ミシェルはヒロインじゃなく、ヒロインを虐める悪役令嬢だ。



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