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個性を追求したい少女と紫の「魔女」

作者: 青木幽鬼

彼女とは2回しか会ったことがない。正確に言えば、2回しか彼女を見たことがない。私が生きてきた、この15年の中で2回。しかもほとんど一瞬しか見たことの無い彼女を忘れられないのは、彼女はまさに、「魔女」のような出で立ちだったからだ。

私は、小さい時から人見知りが激しかった。幼稚園、小学校低学年の時は何を言われてもうなずくか、首を左右に振るかで答えていたような気がする。嬉しい時は笑い、恥ずかしいときは頬を赤らめ、怒った時は泣き叫ぶというような自己主張が行動や表情でしか表せないような子供だった。だから、「ありがとう」、「ごめんなさい」、「おはよう」というような生活に必要な挨拶はなかなか言えなかった。恥ずかしさもあり、言えても小さい声で「あっありがと」と言うくらいしか出来なかった。周りは人見知りで小さい子だから大目に見てあげようということからか何も叱らなかった。あの時、少しでも叱られていれば、いまの私は少し変わっていたかもしれない。

こんな幼少期を過ごしていた私は、友達がなかなかできなかった。小学一年生のときはクラスの男子のからかいに何も言い返せず、もどかしい日々が続いた。何も言い返せないときの私の必殺技は泣くことだけだった。泣いて、先生に助けてもらう。それしか方法がなかった。泣けば、助けはくるがもちろん周りの注目を浴びる。泣いて解決しようなんて赤ちゃんみたいだと笑う人もいる。男子は、そんな私を見てまたからかう。それがやるせなくて、恥ずかしくて、自分の無力さを感じていた。

そんな私は、現実世界ではなく、物語の世界に入っていこうと考えた。毎日図書館に通い、本を読む。そうしているうちに、物語に出てくるキャラクターのような「個性」を持ちたいと思うようになった。

小学校中学年、高学年になると友達がクラスに毎年2人くらいは出来ていた。「親友」とも呼べる仲の友達もでき、挨拶も以前よりはきちんとできるようになった。毎日が充実していたような気がする。しかし、私は毎日図書館に通うことはほとんどかかさなかった。図書委員にもなり、本に触れる機会が以前より増えていった。

私は、読書好きで割と勉強もできた方だったし、係の仕事もきっちりこなしていたから、周りから「真面目」のイメージをつけられるようになった。いま思えば、周りから真面目と思われるのは良い事だと思うが、当時の私は納得がいかなかった。

「真面目=普通=個性なし」という解釈を当時の私はしていた。 私が小学六年生のころちょうどテレビドラマの「今日から俺は!!」が流行った。クラスの男子たちは、ヤンキーごっこをして遊んでいた。私も例外ではなく、このドラマにハマっていた。だからこそ、「普通」つまり、「個性なし」な私は、ドラマで活躍するツッパリ達に憧れた。

私は、さすがに真面目キャラから脱却し、ツッパることはできなかったが、1つの趣味を見つけた。それは、歴史だった。

「真面目キャラ」から徹底的に「真面目な人間」になってやろうと思った私は、学校の図書館ではなく、区民図書館へ向かった。

いつもお母さんと行く、子供の本コーナーではなく、あえて大人が多い歴史コーナーに直行した。

もともと、歴史が好きだったがさらに詳しく歴史を知ろうと思った。わざと難しそうで厚い本を選び、学校で表紙を見せびらかすように読んだことも多々あった。ただ、書いてある漢字がほとんど読めなくて、雰囲気で読んだ。こうして私は、1つの自分で納得がいく「歴史ヲタク」という「個性」を作り出したのだった。


彼女と出会ったのはちょうどその頃だったような気がする。

コンビニで買い物をした帰り道。私の後ろのほうから、シャコシャコと自転車をこぐ音が聞こえてくる。振り返ると、髪を振り乱した女の人がハイスピードで自転車をこいで私の前を通り過ぎた。一瞬、月曜日から夜ふかしに出てる桐谷さんかと思うほどの速さだった。

彼女は私の前を通り過ぎたものの、目の前の信号が彼女を通せんぼするかのように、赤信号に切り替わった。

信号待ちをしている彼女をよく見てみると、彼女はハイスピードな自転車を漕いでいる割には、結構なおばあさんだった。

黒髪混じりの地面につきそうなほど長い白髪はパサパサで、顔に深いシワが刻まれていた。腕は鶏の脚のように細い。その細腕でしっかり握りしめていたのは、ペットボトルがたくさん入ったゴミ袋。自転車の後ろのカゴにも前のカゴにもペットボトルが入ったゴミ袋が積まれていた。服は、紫の長いワンピースに何故かメイドのエプロンをつけていた。まるで、芥川龍之介の羅生門に出てくる檜皮色の着物を着た老婆のような印象だった。彼女は口でなにかもごもご言いながら、少しイラついたような態度で信号を待っていた。通行人たちは、突然現れた、紫のメイドの老婆に驚いていた。彼女を見た彼らは目を細めたり、鼻をつまんだり。私は、彼女に魅力を感じた。彼女をもっと観察したかったが、信号が青に変わるとすぐに遠くにシャコシャコ行ってしまったため、観察はできなかった。

確かに少し変わった人ではあるが、「個性」というものをありありと彼女から感じた。颯爽と自転車に乗る彼女はから何か意志のようなものを感じた。また会いたいと願った。

それから私は、歴史以外にもアニメや数学など別の分野にも興味を持つようになった。

彼女に再び会ったのは、中学生のころだった。今度は後ろからではなく、前から。ゴミ袋は持たず、自転車に乗っていつもの紫のワンピースにメイドのエプロン。長い白髪は振り乱し、颯爽と私の横を通り過ぎる。その横顔を見た時、一瞬彼女が魔女に見えた。ほうきに乗って空を飛ぶ魔女。颯爽と風を切って空を飛ぶ魔女。


あれから、私は彼女がどこへ向かっているのか想像した。最初に会った時は、彼女はゴミ袋をもって、魔女の館へ行き、大鍋にゴミを入れてかき混ぜ、毒リンゴでも作り、2回目に会った時は、作った毒リンゴを白雪姫の元へ届けているのかもしれないなと。私は、彼女の弟子として魔女の館で働きたいな。と自分の「個性」を彼女の元でもっと見つけてみたい。と、願った。





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