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プロローグ
温かい目で見て下さい
昔、誰かが言った。
『青春とはもともと暗く不器用なもので、明るくかっこよくスイスイしたものは、商業主義が作り出した虚像にすぎない…』
当時この言葉を聞いて、なるほどと感服したのを覚えている。またそれと同時に頭をガーンと殴られたような衝撃を受けた。
それまで青春とはカラフルに彩られた美しいものだという概念が俺の根底に存在した。
人は青春を美化したがるものである。
自身が過ごした日々が決して紙屑のような無駄なものではなかったと信じる為に『青春は美しい』と皆口々に言う。
小説や映画でも、青春というのは一生に一度きりの黄金時代であるという表現がなされている。それは人々が現実という重苦しい世界を逃れて、このような理想の青春時代を謳歌したかったという思いの表れである。
青春は全くもって美しいものではない。
濁った泥水の様な複雑な色をしている。
そして俺はそんな泥水の真っ只中に居た……。