ゲイトを開く神伴者
俺たちとニズリス・ブールを隔てるもの、血祭りを拒むものは、最早この大門のみ。
無機質にこちらを見下げるような佇み。睨み返されているようで、「ここは通さぬ」と退かぬようで。少し躊躇ってしまう俺は、まだまだ弱いということか。
歩み寄って、門に触れてみる。
特に特別なものもない、普通の鉄鋼製の普通の大門。
高さは推定で十メートル程。戦いにまみれたこの地を守り抜いた勇者、そして内乱から逃亡を許さなかった魔王とも言える門。ラスボスの城の構えとして不足なし。
試しにぐっと押してみるが、両扉はびくともしない。
「エルルさん、交代してください……」
今度はエルルさんに押してもらう。
「ふぬぬぬぬぅっ……!」
……まったく動じるようすはない。
まったく表情を変えぬ門扉が、俺たちを拒み続けている。
はあ、とエルルさんがリタイア。
「サクラ殿、頼む……」
「頼まれたのじゃ」
サクラが前に出て、自信満々に肩を回す。
一度、二度、三度。
そのままの勢いで、腕を門扉に押し付けた。
「ていやああああっ……!」
……一ミリたりとも動かず。
「交代なのじゃ……ウェル……」
早々にギブ、任されたウェルも突撃したりタックルしたりしてみるが、結局。
「無理だよぉ……リアシュルテに交代!」
意味もなく温存させておいた最終戦力を出陣させる。
「中に入れればいいんだろ?」
そういってニヤつくリアシュルテ。背筋に悪寒が走った。嫌な予感がする。
そして、嫌な予感は適中する。
門扉から何故か少し離れた場所まで下がり、そこから手振りで「門から離れろ」と伝えてきた。
言われるがままに移動すれば、リアシュルテのほうから何やら声が聞こえてきたのだ。
「燃え盛るや烙の焔よ、身に刻まれしや幾多の傷よ。妬ましいか、妬ましいであろう。烙の焔、刻むに値せん。狂えるや自らや己や、いざ焔。時満ちれり!!」
リアシュルテが掲げた右腕に幾多の赤い魔方陣が浮かび上がる。十も二十も、魔方陣は現れる。
イヤな予感は大正解らしい。そう。この人はあの『烙印』を、ここで作るつもりだ。
たかが門、されど門。その言葉を、間近に体験した気がする。
「烙印、目標を設定」
右腕に指されたのは大門。すっかりあの黒ローブに変化したリアシュルテが、たがが門に本気を出している。
「さぁて……始めろ」
リアシュルテの体の前に、一度見た巨大な魔方陣が出現。その外周を、十の縮小された魔方陣が囲う。
前回の烙印とは少し違う。前回は一つの大魔方陣だったが、それよりも更に強そうな雰囲気がある。
と、魔方陣ひとつから、突然中心の魔方陣に向かって火線が射出。
また一つ、また一つ。全ての外周に位置する魔方陣が中心へと軌道を見せた直後。
十の火線の交点に、焔が集結する。
三角錐のごとき姿。その頂点から、直後。
門に向かって、ターゲットラインが描かれる。
一度見た光景と重ね合うその姿に、前に感じた終わりへの恐怖なんかじゃなく、頼もしさを感じた。
鳴り響き出した、あの痛い音。
ぎーーーーーんと耳に響く不快な音。
だんだんとクレシェンドしていく音。
何かが込み上げてくるように感じる。
来る。烙印の再来だ。今回は敵ではない。仲間として、同じものを目指すため、この力を目の当たりにする。
往け。オーバーキルなのは明らかだが、これが俺たちの宣戦布告だ。
ぎんぎん響く音の中、負けぬほどに大きな声が響く。
「烙印!!其のもの消し去れ!!!」
それを合図に、紅の光が発射。爆発音がロングトーンを鳴らす。光がターゲットラインを通り、門に直撃。
刹那、門がまるごと消え去った。
それだけでは飽きたらず、そのまま数十メートル一帯を焼きつくしていく。
灼熱の紅光、その柱が、前に在るもの全てを焼きつくしていく。
その光だけは、俺たちと敵対したあの時、其のときのものと変わりなかった。
焼きに焼き、焼きつくした潮時に、ようやく光は薄れ、やがて消えた。
そこに残ったのは、灰の山と白い地の花道。
一帯をごっそりと消し去った後ようやく、門は歓迎してくれたようだ。
とにかく、俺たちは門の中へと足を踏み入れたのだ。




