正しさの本当
一瞬、何が起こったのかわからなかった。私を囲んでいた哀れな人の成れの果てが、一度に全て消滅したのだから。
歩み寄ってくる少年の姿があった。その顔に浮かべる暗い苦い表情から、私はようやく悟った。
主がやったんだと。
思い返される記憶、主との記憶。
私が刀として共に戦ったリアシュルテとの死闘、あの時の記憶。
そう、あの魂を壊すやつを使ったんだ……
歩み寄ってくる主にまとわりつくベトベトした闇色の気配。それを感じ取って、少し主が怖くなった。
「ウェル、大丈夫?」
「う、うん……!私は大丈夫だから、早くその穴を!」
何故か少しどもりつつも根源を指し示したウェル。
「わかった。何とかしてみる」
礼を伝えて、さほど遠くない根源へと歩く。
今、結界内の地表にアンデットはいない。アニマ・ワルツィングは余程効果的であったということか。
……それがいいのか、悪いのか。
「……正しい決断じゃった。あの状況では、そうするしかあるまい。辛かったじゃろうが、よく耐えた」
「……サクラ」
まったく気配なく俺のとなりに現れたサクラに、俺は抱きつきたい、泣きつきたい衝動に駆られた。
無理矢理それを押し込みながら、理性を保って答えを。
「サクラ……俺は、本当に……正しかったかな……?」
震える声を絞り出した。耐えろ、理性。
サクラは答えに困った顔。そりゃ、そうなるのは当たり前だろう。
しかし、次の瞬間答えはやって来た。
サクラではない者の。
「誰かにとって正しいもの、それは違う誰かにとって悪となる。違う誰かの正しさは、誰かの悪になりかねない。いくら正しさを求めたところで、帰ってくるのは屁理屈だけだぞ」
「リアシュルテ……」
サクラと同じように、まったく気配を感じさせずに俺のとなりにやって来た。つくづく、神ってのは恐ろしい……
「ま、一つ言えるとすれば、後悔するならそれは完全に正しいとは言えないぞってことだな」
「うん……そう」
「あ、ああ、気にするなよ……?」
後悔という単語が響いた途端、再び気落ちしていく。
返答が心なきものになり、心ここにあらずと言ったところだ。
再び沈黙が三人の間を襲う。
俺はものすごく後悔している。しかし同時に、むしろよかったとすら思えればいいというのに。
しかし、さらにまた沈黙が破られる。
サクラでもリアシュルテでもない、その男の足音によって。
「いやー、キョウヤの技、格好良かったなあ!特に刀でぶったぎる方!後でもう一回ゆっくり見せてくれ。俺も出来るようになるぞ!」
「あ、ああえっと……」
エルルさんが、ずかずか大きく寄ってきた。
いきなりの話の転換に答えに困ってしまう。あたふたと答えを探す中、さらに声がした。
「主、偉い偉い。後でご褒美にちゅっ、てしてあげる」
投げキッスの形を取りながら、いつのまにか合流したウェルが投げ掛けた。
「ならば我もやるのじゃ!我もご褒美にくちずけを!いやいや、それだけでは薄いじゃろ。よしウェル、脱ぐのじゃ!」
「へ!?いやいや!おかしい!」
げ。気まずい会話だ。聞かない聞かない。
聞いてないことにしよっと。
「あ、俺その話参加できねぇや……キョウヤ、俺のキス要るか?」
「要らないです」
「うお、なんか辛い」
需要のない男同士は最早悲しい。
内心笑ってしまったのを、今すごく隠したい。
本の少しの息抜きの時間なのに、長くて。楽しくて。
三方から上がる笑いを眺めていると、リアシュルテが囁いてきた。
「これを見て、後悔しているなんて言えるか?」
答えは決まってる。
「いいや、俺は正しいんだ」
この苦しさは忘れない。この間違いも忘れない。
でも、間違っていても、俺は正しい。
矛盾してるけど、それがどうした。
ちょっと心が軽くなる。
もう休息は終わりそうである。




