帰依せしや
蒼白の火炎に包まれながら、か細い断末魔と共に死霊がしゅうしゅうと消えていく。
立ち尽くしながら、あっけない最後を見届けて。
「終わった……のか……」
汗を拭い、肩から息をしつつ、側に佇むリアシュルテに投げる。
「おい、周りを見てみろ。これが終わりに見えるか?」
その答えを貰って初めて、拡がる惨状を見渡し。
結界の中、そこにはまさに地獄が広がっていた。何故今の今までこれが見えなかったのか、俺の視覚を疑う。
戦闘序盤とは桁の違う、まさに大隊規模とでも言える数のアンデットが結界の硬直で外周に固められている。それだけではなく、まだまだ、まだまだその数は増え続ける。
結界も範囲を拡大せざるを得なかったらしく、かなりの広範囲でエルルさんとウェルが二機にて全ての相手をしている。
これだけの継続と大量の硬直の維持。さらに自衛用の結界をも発動し続けるサクラも、額に汗がにじんでいる。
俺達が死霊を相手にした長い時間、これを維持し続けたのだ。
それなのに、俺は一体何をしている?たかが一体の死霊、一体でこの有り様。無様。彼女たちに休みはないというのに。
「行かなきゃ……!」
次の瞬間、体を無理矢理動かし、俺は足を踏み切る。
しかし。
「待て」
二歩目を踏んだところで、俺はガシッと掴まれて止められる。
リアシュルテが、俺をそのまま無理矢理に向き合わさせる。
「落ち着け。今のお前の状態じゃ、行ったところでかえって足手まといになる。落ち着け、冷静になってみろ」
「で……でも……!」
でも、それじゃウェルたちに限界がくると……!
「おい」
言葉と同時に、空気が重くなる。
リアシュルテの拳に、赤黒いオーラが戻ってくる。
この人は今、怒っている。
「今、この姿でお前が突っ込んだところで何ができる?言ってみろ。何も出来ないに決まっている。アンデットに札なんざ通用しない」
「う……うん……」
戦闘時よりも強いオーラだが、言葉は制御されている。この人なりに、我慢している。
それに、言っていることは何も違っていない。俺が、無知なのだ。
「今のお前の心では、何も出来ない。焦りは敵。身に潜む最悪の、な。だからこそ、いちど落ち着け」
俺はそのまま、目を閉じ深呼吸。落ち着くんだ。心を整え、平静を取り戻す。もう一度、深呼吸。
心をからっぽにする。すっと焦りは消えていく。
戦闘時だって、落ち着いていたじゃないか。
ほら、もう大丈夫。
「キョウヤ。あいつらを助けたいか?」
沢山の意味を込めた、簡潔な問い。
答えは決まってる。
「ああ」
「二度と、浅はかな考えで飛び込まないか?」
「ああ」
一時の間。それから、最後の質問。
「もう、お前は私を怒らせない。そう誓えるか?」
「……ああ」
「そう言わなければ殺していたんだがな」
怖っ!この人怖!やっぱり怒ってたんだ……ほんと、絶対怒らせないようにしよっと……
「なら、必要なものを与える」
そう言ったリアシュルテがふいに自らの右目をひっつかみ、引きちぎってぐしゃっと潰した。
「おい……!何やって……!」
右目のあった場所から、血の海が再生される。
みるみる拡がる血に、恐怖を覚えた。
「静かにしろ。怒るぞ」
「ごめん……」
「分かればいいんだ」
そう言いつつ、当人の右手から光が。
みるみると形を現したそれは、まさしく刀のそれ。
黒い刀身が現れ、赤のラインを見せつけ、刀はその姿を晒した。
「右目を媒体として創った怒りの刀……これ使え」
「え?でも殴るだけじゃ効かないんじゃ……」
すれば、リアシュルテは大きく溜め息。
「誰がこの刀に不思議パワーがないと言った?神の右目で出来た刀だぞ。怒りの力くらいこもってて当然」
リアシュルテはまた無邪気に笑顔。
「さあ、行け。"魔導騎英"」
「おう……任しとけ……!」
転職、魔導騎英……と唱えて。
魔法と剣の頂点として、俺は転職した。
「ほれっと」
投げつけられた剣を掴み、いざセカンドだ。
というかそんな危ないもの投げないでくださる?
まあ、走り出した。




