開戦の鐘が鳴れば
リーデ東主門より北東に徒歩およそ三十分。それまでだだっ広い草原だった景観が一気に転じ、巨大な森に突き当たる。奥に構える山脈に沿い、森は細長く拡がっている。この山脈が、ゼァネールとアーネヴィトルとの国境となっており、つまりはこの森と山脈の何処かに、ニズリス・ブールはあるのだ。
森は近づくにつれ、その姿を鮮明にしていく。もっとも、今は夜なのでよく見えないといえば見えないのだが。
木々が、うねるように生えている。例えるなら、悪魔の腕のよう。夜であるから雰囲気も一層出ている。
何処か古代中生代を思わせるような森だ。もっとも、中生代には生きてないけど。
「なんか……毒でも出そうだな……」
森から毒々しい空気が流れてきて、目と鼻の先の森はもう紫に見える。
「まあ実際、この森自体が溢れる悪性魔力の影響で出来たもんだからな、毒くらい出ててもおかしくないぞ」
エルルさん、あなたそれを平気で言えるほど強くないでしょ……
そのテンションで言っていいのは世界のなかでそこの三人くらいだと思う。
あとね、俺分からないんですよね、魔力云々って。
「悪性魔力って、何なんです?」
問いかけに、エルルさんはポカンと呆けた顔。
「は?お前それ本気でいってんのか?」
「え、あ……はい……」
次いで、引き気味な表情。
え、何魔力知らないと非常識みたいなのでもあるの?
そんなに引かなくても良くない?
「魔力のことも知らないで国で働いてんのか?やべぇなお前、よく生きてこれたなあ」
あ、そういえばそんな設定でしたね。
というかかなり危ういこと言ってるな俺。
よくそれで怪しいと思わなかったなエルルさん。もしかして……チョロい?
これはボロが出ても大丈夫なんじゃないかと思われる。一応、謝罪の意をこめて三人の方を――――――
(テメェ何いってんだオラそれぐらい知ってる風に振る舞えよ)
(なにも聞かずとも良かっただろうにのう、後で仕置きかの)
(主、それはない)
全員、死んだ魚の目。
見なかったことにしておいて、エルルの説明を聞く。
「魔力ってのは、所謂スキルとは別の『魔術』っていうののエネルギーみたいなもの。それを利用して、増幅なり変換なり、魔法とは違う複雑な術式で理を発動させる術が魔術。けど、魔力の意味ははそれだけじゃない。例えば……」
その時。ことは始まった。
「ぎぇぇぇやああぁあぁあ!!」
「!?」
「何!?」
響く咆哮。聞き覚えのあるものだ。
「まさか……お前ら、武器を構えろ!」
リアシュルテの声で咄嗟に陰陽師に転職。これは、奴らだ!
次の瞬間。
森の奥から、飛来物の気配。
「来るぞ」
そして、冷気が体を襲う。
次の瞬間。共に飛び込んできたのは。
「「ぎぇぇぇやあををををを!!」」
「死霊……!」
その時。エルルさんが、呟く。
「魔力は、この世の魔物の根源となるもの……悪性魔力ってのは、より強力で狂ったやつを生み出す……!」
それが、最後の長文。
「行け!」
戦闘は火蓋を切った。




