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過去の話

人の、まして子供の寝顔は好き。自分の"意識本体"がこんな幼い見た目だからって言うので、親近感があるのもそうだけれど、実際子供の寝顔を見ると、母性本能が擽られる。

すやすやと可愛い寝顔をさらけ出すヨヅキを、屋根裏の吹き抜けから見下ろす。柱に腰掛けて足をぷらぷらさせるのは、幼さを見せる仕草。

曲がりなりにも何百年と歳を重ねてきたのだし、人間の子供を見るとむしろおばあちゃんから見た孫、みたいな感覚に襲われる。

まあ人類、皆私の孫みたいなものでしょう。孫の立場にもなってみたかった。

この体を主体にしたのは最近。というかこの間、三日前だ。

最初生まれた時、私は所謂キメラという部類の異形だった。真っ黒で、紫で、苔色で。紫のうねうねした触手が覆っていたり、絶え間なく血を流していたり。ぐちゃぐちゃしていて、見るだけで吐き気がするだろう。何の生き物なのか、どう表せばいいのか、まったくもって分からないような見てくれ。脚は幾組もあったし、手は黒々して尖って汚くて。大きさは大体その辺の一軒家、ヨヅキの家くらいだった。

そう、私は人間に造られた存在。400年前、世界の北の果てにあった、冬国ロウルシアの狂った人間たちによって、望まなかった生を貰った。

境遇はどうやらリアシュルテ神に似ている。どちらも人間の自業自得の自己窮地の末に、身勝手な理由と方法で産み出された。リアシュルテ神は救いを、私は殺戮と破壊を望まれて。

それに、結末も同じだ。私を産み出した奴らは私を失敗作と虐めて、実験台にした。だから体はもっと醜く酷くなった。だから、壊せた。

実験台として数々のものを掛け合わされた結果、私の力は増大していった。それこそ下手すれば手に負えないほど。私はそれに気付いた瞬間、行動した。それに気付かなかったあのやつら、ちょっと暴れただけでバラバラ壊れていった。

私はその研究施設を消し飛ばした。ビームっぽいのとか魔法弾とか、何でも使えたから私は負けなかった。

だから、ここを造ったこのロウルシアまで壊してしまおう、そう思って、ロウルシアを壊した。なんか人がぷちぷち潰れた音が沢山した。

潰して、壊して、ぐちゃぐちゃにして、最後の一塊を綺麗に消し飛ばした時、目の前の焼け野原に人がいた。

『君、綺麗な体欲しい?』

それが、始祖神様だった。

私をやさしく包むような空気で、けれど包むように、縛り付けているような、隠れた恐怖。笑顔の裏にある、どうしても笑えないというような気配。

悟った。これには勝てないって。

『喋れないもんね、いいよ、あげる』

優しい声で、始祖神様は私に触れた。そう、触れた。

醜くて汚くて、触ると変なのがつく私に、あの人は優しく触れてくれた。何かが変わった気がした。

『はい、これでいい。もう好きに生きな、"少年"』

「……ありが……とう……」

自分の声。

自分の声?

耳を疑って、自分の体を見た。

知らない小さな人の体が、私に成っていた。

「何で……?あ、待って、これは!?」

『「変換」っていうの。願えば、好きな「自分」になれる。それで自由に生きればいい』

もう一度、手のひらを見つめた。

「あ、あなたは……?」

視線を戻したら、もうその人はいなかった。


言葉を、発してる。言葉なんて知らないはずなのに。


これが、少年という"私"。


それから、いろんなことをした。いろんなとこにいって、人のために人を倒したり、国を変えたり。衝動的に「あの人のような笑顔」を求めて、私は200年生きた。

いろんな人の笑顔をみた。いろんな人の声を聞いた。いろんな「私」になった。

それから、私はサクラ様に出会った。殺されそうになったけど、その時思った。

『この人といればきっと、もっと笑顔が見れる』

だから、私は剣になった。

その時、サクラ様に服従した。だから、私はさいきょーになった。

そこから200年、私はサクラ様と生きた。

斬って、斬って、斬って、感情なんてとうに捨てて、喋ることすら止めて、ついには考えることも止めてしまった。それでも、斬って、斬って、斬って。

けど、あの時、変わった。

あの技、あの剣筋とあの気迫。私を握って空を駆けるその軽やかな少年に。私を抱き締めた変な寝顔の少年に。強くて優しい少年に。私はそう、恋をした。

数百年振りに変換して、気付けば助けていた。それだけに、魅力的だった。私の求めていたものだった。

彼の笑顔こそ、私の求めていた笑顔だった。

独り占めしたい。この笑顔をずっと見ていたい。そのためなら、なんだって。だから私は、ここにいる。

「ありがとう……」

ヨヅキの毛布に、高い場所から落とした涙が滲んだ。一滴、二滴、三滴。

変だよね。分かってるよ。

普通の恋とはちょっと違うかもしれない。けど、それでいい。それが、私の恋だから。

ありがとう、ありがとうって、それしか言えないんだ。

好きだよキョウヤ、大好き。

君のことが、大好き。

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