ニズリス・ブール
影が消え去って何も残らなかったその地面を、俺は立ち尽くして呆然と見つめる。
アイツは、何がしたかったのだろうか。敵なのか、救いなのか、はたまた何だと分からなかった。
名前すら教えずに消えるし、多分さっきので完全に消えたし、でもこっちを恨んでるようなのじゃなかった気がする。けど、アイツはメルナの両親を拉致した。
まぎれもない事実がそこにある。しかし、本人がどう思ってるか、どんな感情を抱きながらそれに及んだのか、それすら残さずに消えていった影は、まさしくやり逃げ犯だな。
しかし、影さんには大いに助かった。これまで幾らの人間たちや生き物たちを殺しているかはわからないが、今はただ冥福を祈りたい。時に人の側面だけを見ることは必要だ。
胸の前に両手を突きだし、手を合わせる。
本当に消えたのかどうかは知らないが、少なくともいいところに飛べるよう祈る。
そこで、今更エルルさんとウェルが合流した。ものすごい全力ダッシュで来たっぽいが、遅いわ!
「悪い。もう終わってんのかー。やるなお前ら」
軽い、軽すぎるぞ……挨拶がもう無重力やん。
「ごめんね、ちょっと色々あって」
ウェルが謝りつつコソッとエルルの足の方を指差している。見れば、スゴい擦りむいた右足がそこにあった。
「エルルさん、こけたの?」
ドキッ。
「こ、こここ……痩けてなんかないぞー!俺に限ってそんなことはない!断じてあり得ない!痩けてなんかない!」
「そうですか……」
まるで子供のような言い草、というか脳内は子供のままなんだろうか。少々こういうところあるよねー、エルルさんって。
「って、そんなことより!」
エルルさんに会ったとき聞きたいことがあった。
「エルルさん、ニズリス・ブールって何処ですか?あと、それは何なんですか?」
「ニズリス・ブール?何故それを?」
一瞬で表情が険しくなったエルルさん。ニズリス・ブールには何かよくないものでもあるのだろうか。
「さっき、死霊の一人が消えていくときに言い残したのですが」
「ほーん……で、死霊はニズリスが何だと」
「ニズリス・ブールに、全てはあるって」
エルルさんの顔が一層険しく難しくなり、うんうんと唸る。
それから、エルルさんはこう言った。
「ニズリス・ブール。リーデをほんの少し東に行ったところにある街だ。……いや、街だった場所……廃墟だ」
それだけ聞けば、普通の話だ。しかし、違うというのはおのずと分かる。
「それはリーデ以前の街だった。しかし、とある理由で街は全滅した。……殺し合い、と言えばいいか」




