往こう、例えどんな場所だとしても
何処か心の片隅に、あの少年たちの顔が映っている。
俺の行動にはたして意味があったのか、今一度問いただしたい。
カテネアとドーラットへの言伝ては、意味を成しているのだろうか。キョウヤたちは、はたして上手くやれているだろうか。
朝、リアシュルテ殿が「メルナさんの両親に会ってきます」と伝えに来たとき、正直に言えば不安しかなかった。おかげで拍子に二、三時間ほど頭を抱えた。
特にアイツらの失言とか、態度とかそういうのが不安だったのではなくて、ただ不安だった。
不安であり、それ以上でも以下でもない「不安」だ。
率直に言うと、何か怖い。って感じだ。
また何か起こるのではないか、というむしろ「恐怖」に近いだろうよくわからない感情が、この数時間俺の頭に渦巻いている。
だからだろうか、環境音に気付かなかったのは。
ノックが聞こえなかった。
次の瞬間には家の玄関ドアが蹴破られそうなほど強く開けられた。というか殆んどぶっ飛ばされた。
幸い蝶番は正常のままだ。
「誰だ!?」
咄嗟に常装備の腰の剣を抜刀。しかし、それは無駄に終わった。
そこに駆け込んできたのは、ウェル嬢。
やけに焦った顔。
何かあったのか聞こうとしたが。
「カテネアさんたちが!」
その必要はないらしい。
「そのまま!次を左!その通りは右!」
的確な指示はリアシュルテから。
その右目は禁忌に呪われたように赤赤としている。
俺たちは影にこびりついていたごくごく僅かな記憶を辿って、現在絶賛追跡中。
リアシュルテ曰く、相手の負の感情は記憶に残り易く探知しやすい。怒りを司るリアシュルテならばなおさらだ。
影の記憶は、この空間に微々として残っている。
リアシュルテの記憶術の一つ「空間記録感受」
その名の通り、空間に残された記憶を閲覧し痕跡を算出出来る。
しかしその算出出来る記憶には限界があり、三分前までのものしか算出出来ない。
だから、俺は全速ダッシュする。
別に俺のストーカーを使っても良かったと思ったが、どうやらストーカーは死霊のような不確定概念には機能しないらしい。
だが、リアシュルテは神。それくらいは容易い。
通りを幾つも曲がる。走り抜けては、曲がる。
人の目なんて気にしちゃいけない。人の命が懸かっている。そんなのに比べれば、俺の恥じらいなんて軽い。
走れ。走れ。走れ!
往け。往け。往け!
何処だろうと、何処だろうと、往くんだ。
往け、例えどんな場所だとしても!
走れ、走れ。
どんな道でも、どんな形でも!
走れ、例え道がなくても!
「リアシュルテ!影は何処に向かってる!?」
「東方向へ!東に真っ直ぐだ!……は!?」
何かに気付いたリアシュルテ。
「何!?」
「まさか……こいつ!ヨヅキの方へ向かってるぞ!」
ダメ、ダメ!
これ以上、失ってはいけない!
「絶対に救う!」
走れ、走るんだ。
メロスなんかとは違うけど、走るんだ。
「キョウヤ、このままでは間に合わない。転職しろ!」
「え!?」
「韋駄天だ!韋駄天になるんだ!!」




