グレイ、オブ……
「ヨヅキは可愛い子です。私はそれを知っているの。小さな頃から父親と母親にくっついて歩き回って。二人がお空に向かってからは、メルナにくっついて離れないようになったんです。
人一倍に綺麗で不純のない子で、誰であっても手を差し伸べて。
まさに美少年って感じだったね。
いつでもどこでも、メルナの右裾を引っ張って後をついていくの。メルナのほうが男らしかったね」
語り始めたカテネア、しかしこの部屋何故だろう、何だろう、妙に違和感と嫌悪感がある。
本能が危険だと訴えてくる。しかし、集中したい。話を聞きたいが余り、俺はこの警告をないものとして忘れようとした。
語りは続く。
「でも……どうしていなくなったの……何にも言わずに……
理由くらい教えてくれたら、幾らでも受け止めるのに……
怖いのかもしれないね。これ以上人を殺めるのはダメだって、怖がってるのかも。
メルナがいなくなったのは、べつに君のせいじゃないのだからね、もっと笑顔だよ。笑顔で過ごすほうが皆にとって救いになるかもしれないんだから」
このとき、俺は気づかなかった。
カテネアたちが座る側の壁、その丁度影の部分。
何かが蠢いていたことを。
何故、気付けなかったのか。一生悔やむことだろう。
されど、やはり話は続く。
悲劇の結末に向かって。
「私たちが、メルナがいなくなった後どうしてたか?
まずは一杯いーーーっぱいに泣きました。それから叫んで怒ってまた泣いて。
自暴自棄ってのにもなっちゃった。
けど、気付いたの。私は気付いたの。
泣いてるだけじゃ、メルナに顔が上がらないなって。
それじゃメルナが悲しんじゃうなって。
だから、私はずっと笑顔でいるよ。
メルナが喜ぶ顔、見たかったな……」
回りの空気が重々しかった。俺は気付いていない。
環境が早鐘を打つようにBGMを掻き立てる。
その音は、まさに不協和音のコード。
影の大きさが増す。
だんだん、ゆっくりと、影が二人に近付いていく。
それを知る由もない。
神々すら、知ることのない結果。
近づく。近づいてしまう。
「私たちはメルナがいなくて悲しいの。
けど、メルナの残したものは生きてる。
だから、忘れないの。
だから、メルナが言ってくれた言葉を、ずっとずっと守り続けるの。
いつか、笑い返してくれるその日まで、何十年だったとしても……ね?」
そういい放った瞬間。
カテネアさんが、大きくて真っ黒い影に包まれた。
そして、すべてをねじ曲げる嫌な音。
ぐしゃっ。
大きく膨らんでいた影が、小さくへなへなとなった。
「は……っ!?」
「カテネア……?カテネア……!カテネア!!」
ドーラットさんが現状を認識して、ようやく叫び出す。
影はまだ蠢いている。
まだなんとか出来る。
「キョウヤ、陰陽師!」
「わかってる!」
リアシュルテに呼応して、転職!
その間を埋めるべく、ウェルとサクラが影に突撃。
「うおおおおおおりゃああああ‼」
「ふーーーっ!!」
しかし。
遅かった。
俺が転職を完了し、旅人から陰陽師へと切り替わった瞬間。
そしてウェルとサクラが、影のあった床を同時に蹴り、拳を飛ばした瞬間。
少し部屋が静まる。
影は、叫んでいたドーラットさんを飲み込んだ。
「やめろおおおおお!!」
気付いたときには俺が影に襲いかかっていた。
無意識のうちに札を出現させ、字を書いて。
切りつけるように札を突きつけた。
しかし。
嘲笑うかのように、影は四散して消えてしまった。
「っっっあっ!!」
「キョウヤ!?」
駆け出し、行く先も何も分からないままにドアへ。
無我夢中で走って、ドアを勢いよく開け放ち外へと飛び出す。
通行人の目なんて気にせず、通りに踊り出る。
そこで俺は、正気を取り戻した。
今ここでがむしゃらにしていようが、あの影になにかできるか。出来ないからだ。
格段動いた訳でもないのに、息が荒い。
通りの真ん中に立ち尽くす俺、後から駆け寄ってくる三人。
なぜ、何故今。
何故二人が。
何故、何故。
何で……




