苦しさを押し込めて
「昨日のリストにあったもので、唯一訪ねにいかなかったところだ。ここは皆で行くほうがいいと思って取っておいた」
両腕をピロピロしている。
なんだこいつ、気が利くのか効かないのか。
どっちなんだ。
「エルルには朝イチでこの旨を報告してきた。『マジで変なことを言うんじゃないぞ』だと」
エルル氏の予感は高確率でヒットする。
変なことを言う変な人って誰なんだ?
あ、言うまでもなくいたわ。真横に。
サクラはいつものようにすました顔。
まったく動じないその表情と言葉のトーンは尊敬レベルだ。
……言ってしまえばそこしか能がないってのはナイショ。
ってもしかして、動じないんじゃなくて、何にも考えずに呆けているのが正しいのでは?
じーっ……
「おいサクラ」
……。
「サクラ?」
……。
ピキッ
「おおおおおおい、サクラ!!もしもしいいいい!!」
「……っはい!?何何なのじゃ!?」
確定、こいつ馬鹿な顔して突っ立ってただけ。
「……なあ、イチャイチャしてるとこ悪いんだけど、そろそろ突撃なんですけども」
ここでリアシュルテのツッコミ、これまたイラッとした。
しかしこんな良家の前でぎゃーぎゃーな話をするのは流石にヤバイ。
失礼、どころか下ネタだともはや変態。
扉を叩く時がやって来たのだ。
「キョウヤ、頼んだ」
「了解」
指名で、俺はドアに歩み寄る。
メルナさんの家は、昨日の街とは反対の場所に位置する区画『カーノ街』にある。
同じような住宅街だが、このカーノはそこまで軒数が多くない。
しかし面積は大きい。
つまりは、一軒に対する土地が拾い。
高級住宅街ってことだ。
メルナさん、金持ちやったんか……令嬢ってことか……
本当にヨヅキの幼なじみなのかどうか、スゴく怪しくなる。
だって、玄関が通りから生えてるのかと思いきや割とデカイ前庭が待ち構えてるんだぞ?
上流階級ってスゴいねえ。
いいなあとは思わないけど。
しかし、今はそれを気にしなくていい。
今はその扉を叩くのだ。
ごんごん。
ライオンの口に引っかけてあるあの丸っこいのをドアに打ち付けて、
「すみません」
小さめ控え目に言った。
数秒の沈黙、その後、一つの声が
「貴女がたは……もしやエルルのご友人で?」
「はい、エルルの親友サクラです!」
ドア越しのくぐもった声に、やはり最後はこの女だった。
嘘つけ、お前大親友どころか邪険だろ。
ガチャっ
邪険、今の撤回。よくやった。
「どうぞ、お入りください。キョウヤ様がた」
ん?
「何故、自分の名前を……?」
現れたご婦人、口角が上がり。
「私は何でも知ってるんですよー」
いきなり意味がわからない。




