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陰陽道を往く

「陰陽師……」

危機馴染みのある響きだ。日本人なら。

そう思いつつ、ウィンドウを呼び出す。


数秒後。

言われるがまま検索をかけてみれば、なんとびっくり。

トップにえげつないものがヒットした。


祓魔伏霊の陰陽統師

詳細:かつてヒオリの国に存在したとされる、月を読み星を読み、霊を従え魔を祓った狐の子の陰陽師が残した残像。

具現化した伝説は、誰かに受け継がれて生きていく。


固有スキル

「祓魔伏霊の御光」

「陰陽祓術・絶」

「占星術・極」

「式神降呼・絶」

「札術・極」

「霊視」


陰陽師系列の最上位に位置していた職業。

なるほどなるほど、強すぎやしないか?

絶とは一体何なのか。

あれか、ぴえん越えてぱおんとか草越えて森越えた挙げ句に樹海とかそういう感じか。

インフレバトルと化すゲームあるある、難易度の段階多すぎる。みたいな。

ヒオリとは?

A.この世界での日本と推測する。

この陰陽師、多分安倍晴明がモデルなんだろうね。

確か晴明は狐の子とも言われることがあるし、単純に陰陽師と言えば安倍晴明って感じだよね。

道満法師も凄いんだがなあ……

スキル見ていくか。


祓魔伏霊の御光

段階1/1

詳細:種族[霊]系列、所属[式神]、ヒオリ生息の属性[魔]系列の存在に対して発動可能。

全ての敵対行動を無効化し、状態[祓伏]を付与。

行動を支配する。

(なお種族[霊]には一部例外あり)



いきなりチート放り込んできたなおい。

行動支配系のスキルをチートと言わないで何がチートなんだと俺は思う。

これは、この戦で勝てという天啓なのだ。

チートを恵んでくれた神様、どうかありがとう……!

この場合それはリアシュルテになるんだが。

陰陽師になれって言ったのも、あとおそらくこのスキル自体を作ったのも。

うーんやっぱり感謝はしなくていいや。

それでね、気になるのがあるの。

字体を見る限り、一番シュールなのがある。

「札術」

札?

札とはどういう意味なのか。

いや、お札が要るのはわかるけれど、札投げるのに術要る?


札術・極

段階1/1

詳細:陰陽師たるもの、札の心得充分に有すべし。

札と一体になり、札と精神を分かち合う。

さすればはじめて、札とそなたは共にある。


投てき補整(倍率段階3/3)

札の硬化、刃化

札の投てき後自動追尾


札の硬化!?

ここにあるの!?

ふつう陰陽祓術に入れとくべきだぞ。

それと、ここに来ても札による格闘術ってのが意味わかんない。

謎に包まれるって、こういうことなんだろうか……

違うか。


他にも色々気になるんだけど、早くしないと霊が目覚める。

とりあえず成ってみればわかるか。

「転職、祓魔伏霊の陰陽統師!!」

発光、もうこれも馴れてしまったものだ。

そんなに眩しく思うこともなくなったこの頃。

言っても丸2日しか使っていないのにこの図々しい俺の言い様、でもな本当に馴れてしまったのよ。

だからこの旅人服がストーカー服に戻って、さらにそれが消える感覚があるのだけれど、今俺は結局どんな格好してるんだ?と思える程に調子こいてる。

変な話すると、転職したとき下着は変わらんのよね。

転生当初のまま同じものを使用しておりますが、昨夜きちんと洗濯はしました。二度履きなんてはしたないことはやらないぞ。

でもそれでも、この転職の最中って下着の感覚ゼロなんだよな……

もしかして今俺、全裸?

と、刹那に新たな服の感覚が出現する。

はっ!?今下着の感覚あった!

てことは今まで俺は全裸だった!?

ダメよ!そんなの見せられないわ!見られちゃったなんて、私もうお嫁に行けないうわぁぁぁんん!


落ち着け、まだそうと決まった訳じゃないぞ俺。

そういうのが好きな人種だっているじゃないか。

……何かごめん


と、茶番劇はそこらにして、光が薄れ転職が終了する。

視界左上の行動ログに「転職:祓魔伏霊の陰陽統師」と表記が成され、転職が完了したことを示した。

にしても、何かこの服重たいな。

袖とか腰辺りに負荷が強いし、妙に脚がスースーする。

足の親指と人差し指の間が、変。

光が完全に消え、俺はまず足下を見てみた。

き……着物……?

歴史の教科書にあった平安貴族と同じ、狩衣とかいうやつか。

動きづらすぎる。絶対コケると思う。絶対、絶対。

袴から脚が出ていたので見てみれば、案の定下駄だった。

そうか、親指と人差し指の間の違和感はそういうことか。

走りづらそうだなあ。

袖が所謂振り袖ってやつか。無駄に長いのう。

羽みたいで飛べる気がする。

腕、振りづらそうだなあ。

頭には烏帽子。

絶対落ちるだろって思ってた烏帽子、ちゃんと顎紐付きなのは安心だ。

標的にされるんだろうけど。


うーん、この服装特に利点なくね?


でもしかし、この服装はもと日本人としては誇るべきもの。ついでに言うと何か格好いい。



あれ?

こういう記憶は大丈夫なのか?

やれ、まったく分からない……


しかし、一個言いたいことがある。

「陰陽師キョウヤ、ここに参らん!……なんちゃって」

しーーーん

何だよお前ら、冷めた目でこっち見やがって。

ウケてないからってそれはないだろ、悲しくなるんだけど。

……

で何か言えよ切り出しづらいだろ!

何とかこの気まずい沈黙を脱却すべく、俺は後ろで震えていたはずのエルルさんを振り返っ――――

「どうしたんですかああああ!?」

エルルが白目ひんむいて仰向けに大の字でぶっ倒れていた。

駆け寄り、呼吸と脈拍を測る。幸い異常なく、単に気絶か失神でも起こしているのではないかと思われる。

「こいつ、肩の幽霊見た直後からこうだぞ。転職の機密保持になるし、しばらく起きないだろうから放っとけ」

しれっとエルルにキツいリアシュルテの回答を聞き、従ってそのままエルル放置。

うん、よく見たら鼻提灯出してグースー言ってるわ。

殴りたい衝動は押さえなければ。

握り締めた右手をゆっくり抑える。

今は前の敵に集中すべきだ。目的を見失うのはいけない。

「キョウヤ、この『陰陽祓術』は対象があらかじめ指定されている。曰く『活動時』のみだと。そこで、私に提案がある」

ゆっくり、自身を見せつけるかのように歩み寄ってくるリアシュルテ。

止まることなく、耳元に到達し囁く。

(名付けて、祓札早書きチキンレースだ)

……は?

「もうそろそろこの幽霊さんも目を覚ますはずだ。しかし目を覚まされなければ祓術が使えず攻撃を始めようにも始められない。そこで、目を覚ました瞬間に祓札の構築を開始してどっちがやられるかってチキンレースを提案する」

……うーーん……

は?

そんなの反対に決まってるだろ?

「もちろん……強制参加だよぉ……キョウヤくぅん?」

威圧強めに睨まれる。

「はい!もちろんでございます!喜んで参加しますよー!さあ!ほら!いつでもこい!」

「じゃ、待つのも面倒だから蹴って起こすぞ」

この人たちの価値観というかもののみかた、ネジが少々バグってるよな。

蹴って起こす、ヤクザかよ。

「はーいそれじゃカウントするぞ」

「え?ちょまだ早!?」

「ごー」

は?いきなりやれと?俺に?

「よーん」

分からないぞ発動とか表示とかなんにも分からないぞ。

「さーん」

焦る俺に、一人近づく影あり。

彼女はリアシュルテと同じように、耳元で囁く。

(いつもと同じじゃ、あとはシステムに任せるのじゃ。全て上手くやってくれる……はず)

「にー」

はず?はずって言っただろ!?

ああもう問いただす時間ないから無理だ!

行くぞ!

「いーち」

リアシュルテが大きく足を挙げて

ドグシュッ、と音をたてた。

「きいいいいいいい!?」

さて、戦闘開始ぜよ。


陰陽祓術・絶

詳細:陰陽術による悪霊、未練、呪いの切除または退散を行う。

また、「札術」系統スキルを保有している場合、別スキル「祓札筆入」を発動可能。


「祓札筆入」:陰陽祓術には札が欠かさない。

陰陽の札を作成することができる。



祓術・絶

それは伝来の歴史である。

歴史であり、最先端だ。


「さあ、試合開始。お前が無能じゃないことを照明しろ」

遠巻きにリアシュルテの声が聞こえて、一層気を引き締める。

「相手の全てを見るのじゃ。一点に気を込めているのは、気を抜いているのとなんら変わらない。今のお前を見せてみるのじゃ」

サクラも観戦を表明、その忠告は心に刻んでおく。

「主、頑張って!」

ウェルの幼い微笑み、多分言うことなくて咄嗟に考えたんだろうけど可愛いから許す。

「三手以内に終わらせる」

死霊と睨み相対し、お互い探りあいになっている。

「きいいい……きゅりぃいいい……」

どちらが先に動くか、譲り合いだ。

と、視界左上に通知が入る。

「祓札生成可能1/1 意識算出により具現化」

つまりは、念じればよいと。

強い意思さえありゃ何でもいいってか。

上等だ、かかってこい。

「きゅうう……きぃぃいい……ぎゃぁああああ‼」

幽霊の、幽霊らしい無策な突撃が襲ってくる。

勿論当たるわけがなく、俺は大きくステップを飛んだ。

が、幽霊もまた少しはやるようで、さらに連続して突撃をかましてきた。

幾度、幾度と繰り返されるが、無難に避け続ける。

無謀、無策で無意味な爪の攻撃は、まさに幼稚。

避けるのなんて簡単であった。

避け、避け、避け避け続け。

そして、死霊が大きく一撃を外した瞬間。

そのまま、脳裏に「祓札」を浮かべて、

「祓札生成!!、構築!!」

体前に開かれる少し和風な魔方陣。

さすれば、勝手に動く両腕。

何もないところから一瞬で現れる筆。

そしてまた虚空から現れる長方形の紙。

そこに意識なく右手の筆が文字を刻んでいく。

直筆サインとでも言うべきか、それは戦場でするようなもんでもないけどな……

なんてかいてあるのかはまったくわからないし、どうやって書いたかもわからない。

けれど書き終えた瞬間、紙が強く光輝き、メラメラと上から赤い紋章が刻まれた。

やはりなんてかいてあるのかはわからないが、祓札の完成である。

そのまま次の段階へ移る。

再び襲い来る死霊の爪アギト。

力任せの攻撃は、受けるほどに値しない。

が、だんだんとその威力と速度が上がっていっている。

「ぎしいいいぃぃいゃぁあ!!」

声からも、その攻撃の挙動からも、焦っているというのが明確に伝わる。

負けるというのを覚悟しだしたらしい。

なら、盛大に負けさせてやる。

「祓札……祓え!!」

いつのまにか消えた筆で自由になった右手を前につきだし、左手を後ろに引いて構える。

精神を集中させろ……意識を全身に駆け巡らせ、それなら札の一点に注ぐ……全てを遅く感じて……全てを停滞として見て……俺だけが早い、そうだ俺だけが早いんだ……

目を開けろ。

そして。

飛べ、斬り込め、引き裂け!!

「喰らええええッ!!!」

「ぎいいいいいいいっ!!!」

同時に飛び出した二方。

札を刀のように振りかざし、切り込んだ。

勝負は、ついた。


「よくやったの」

残ったのは、ばらばらと落ちる死霊の欠片。

刀の如く切断した札は、赤々と燃え散った。

夜に明かりを灯しつつ。



欠片に歩み寄りながら、俺はふと思う。

あっけなかったな、と。

だからだろうか。

その時、俺の耳にこんなことが聞こえた気がしたのは。

『そ……そよ……は……嘘……よ……』

「……!?」

「ん、どうしたんじゃ?」

振り返っても、特に不自然なものはない。

疲れたせいだ、きっと空耳だ。

「いや、何でもない。気のせいだったみたい」

忘れよう。


「死霊、悪魔、怨霊、その他諸悪の権化と吟われるもの。それらに共通した弱点が、さきで言えば白爆発の"光"。だが、これだけでは決定打どころか時間稼ぎにしかならない。だからこそ、最大の弱点であり最大の敵である"陰陽師"の祓魔術が存在する」

消えていく幽霊の遺骸を横目に、リアシュルテが説明を飛ばす。

「古来より伝えられる、闇と対をなす光とは違い後世、数少ない需要のため人為的に織り成されたのが陰陽術。

しいては陰陽師だ」

俺を見据えて視線を強くするリアシュルテ、それに釣られる一神と一匹と一人。

なぜエルルが何食わぬ顔で参加しているのかは敢えて無視しよう。

リアシュルテの話は続く。

「こと昔、世に悪霊と魔が蔓延った闇闇の時代。世界はそれに光でもって対抗していた。しかし、光が"闇"という部分と相対するが故、完全に排除することが出来ずじりじりと負ける現状。根本的な解決案を必要とされ、かつてのヤマトガ……今のヒオリという国……いわゆる日本だが……そこで数々の呪い、秘術、魔法を掛け合わせた独自の術が完成した。それこそが"陰陽術"であり、同時に発現した職業こそ『陰陽師』だとされている。その職を初めて受けた者、それが今のお前の職業を形成した者……祓魔伏霊の陰陽統師、陰陽研究の主導者『亜伊』だとも」

「は、はあ……」

亜伊、そんな名前だとは知らなかった。

てっきり晴明とかそういうのだと思っていたし、そもそもこんな過去があったとは思いもよらなかった。


もう霊の残物は完全に燃えて、カス1つ残さず散っていた。


「そして、私が言いたいことはその『亜伊』についてだ。基本的に謎。後世に伝えられているのは名と出身、職業くらいだ。この者が陰陽師の祖であることは、現状我々神ぐらいしか覚えていないだろう。私のこの情報でさえ小耳に聞いたものなのだし。であるからこそ、お前には知っていてもらいたい。キョウヤ、今何が聞こえた?」

「……え?」

さっき、さっきと言えば霊を燃やした。その時に聞こえたもの?

メラメラ焼却音?

歩く脚の音?

「私の推測が正しければ、お前は……頭の中に響く人の声を、聞いているはずだ」


まさか。

いやそんなはずはない。

あれはそうだ、空耳なんだ。

空耳のはずだ。

まさか、人の声な訳がない。

でも、

でもたしかに、頭の中から聞こえてきた。

やたらモヤモヤとした感じで、揺らいで現れ、また揺らめき消えた。

嘘だ、と。

「嘘……嘘だって、言ってた……」

「そうか……どうやら、私の推測は正しいらしい」

ここで声のトーンが一変し、より強く張った声へと換わる。

「この霊の過去を見た。継ぎ接ぎだらけで読み取れるものは少なかったが、この者は生前……女性であった」

確信。

つまりそういうこと。

「俺に聞こえたのも、女の人の、声……」

「やはり。キョウヤ、お前に教えてやる。お前には、『霊話』というスキルが備わっているらしい。これは、その職『祓魔伏霊の陰陽統師』の非表記スキル、裏スキルだ。これは、霊の言葉を聞き霊と会話する能力を宿すもの。『亜伊』は、このスキルを宿した最初の人間なのだ」

このジョブには、何やら隠れコマンドがあるのはよく分かった。

が、解ったところで……というべきか。

死霊と会話出来る、だからどうしたということだ。

俺のやることに変化はない、断じて。

何故なら、その死霊の声を聞いたとて何か変わるか?と、だからと言ってその死霊を倒さないのか?とそう思うからだ。

たとえ死霊が命乞いをして来ようが交渉を持ちかけようが、死霊を消すことに変わりはない。

心底どうでもいいからな。

俺は、一度承けたものは絶対に最後まで確実正確に遂行する。しかしそれ以外はどうでもいい。

だって幽霊怖いもん。


生憎にも、死霊はその日もう一度現れるようなことはなく、夜は呆気なく幕を閉じる。


エルルさんは、気絶というか寝ていたのを叩き起こされ、早々に家に帰らされた。


「嘘……」

結果。

哨戒任務(笑)にて、俺は喋ることなく歩くだけの者と化していた。考え事のせいだ。

何も得られずに帰りついた宿、既に時刻は3時を過ぎ我々の疲労が限界。

宿の部屋に入った途端、頭を過るのは三文字の言葉。


嘘だ

嘘だ

嘘だ

嘘……

嘘だ

嘘なんだ……

それは……

嘘……


嘘って、何なの?


この期に及んでまで変な思考回路をしている。

しかし、それもすぐにブラックアウトする。

宿のドアを開き、リビングに突入した途端。

前列のサクラ&ウェルが突然に倒れて、何事かと思えば釣られてリアシュルテも同様にダウン。

よくよく耳をすませば、聞こえる吐息。

さっきのエルルと同じだ。寝ている。

いかにこいつらだって無理をしているんだ……というのを知らしめられた。


俺まで巻き込まれて寝てしまうとは。

翌朝まで、しばしの休息だ。


死霊に情け?

そんなのはどうでもいい。

邪魔だから消す。

それくらいとしか、俺は死霊について思うことがない。

単に邪魔なら消えろと思うし、必要ならばそれこそ「霊話」でも使ってさしあげよう。


だから俺は、今のこの依頼に忠実に、死霊を問答無用で消す。

それが最優先事項、なんだけど……

今は寝かせてくれ……

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