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An der Oberfläche

少年は、何故かすんなりと家に通してくれた。

埃まみれの居間に入り、部分的に埃を被っていない「道」を先導され、奥のこれまた埃だらけの扉に行き着く。

少年がドアを押すが、ガタガタ言うだけで開かず、埃が派手に舞ったのみ。

俺は咳を一発、ウェルは特大のくしゃみを二発轟かせたが、少年は声もあげずにドアをガタガタ言わせ続ける。

その姿はどこかリアシュルテに似ていた。

ガタガタガタガタガタガタガタガタ、ガシッ。

今までとは違う音を高らかに、ドアがきいーっと開いた。

すぐさま機械的に動き出す少年。

まだ部屋の中は完全には見えないが、陽光が照りつけ飛び交う埃を露にしているのは視認出来る。

次いで部屋に入るウェル、その後ろ姿はいつにもまして姿に似合わない品がある。

これがロリバ○ァって奴?

だとしたら俺のパーティのババァ枠は巨乳ババァに追加で2になる訳だ。

「キョウヤお兄ちゃん、早く入りなよー」

愛してるぞ妹。

前言撤回、これはまぎれもない純真無垢で天真爛漫(?)な幼女です。

おっと、変な想像で足が止まっていた。

思考(もうそう)を一旦止め、テケテケと部屋に入り、一歩踏んだ瞬間。

足下の床でぱふんっ、という音が鳴る。

同時に床から飛び上がる大量の埃。

その量が、この部屋が長い間使われていなかったことを大いに物語っている。

なんなら、一度も使ってないって可能性もあるんじゃないかと思う。

もう一歩踏み、即座に

ああこれダメだ、息するとダメなやつだ。

息をすれば最後、咳止まらないやつだ。

と思ったので俺は今息を止めている。


この部屋、所謂応接室という類いの物だと思う。

あるのは簡素な六人がけのテーブルと椅子、以上になる。

少年がそのうちの一番右奥に歩いていき、椅子に右手を添えながら

「どうぞ、お好きな席に座ってください」

らしからぬ声と台詞で言った。

俺の回り、変なしゃべり方のやつばっかだからなあ……

こういう普通の人って、新鮮。

とりあえず言われた通り手近に左手前に陣取り、ならばとウェルは左奥へ。

少年は右真ん中に座席変更し、俺達が座るのを見届ける。

それからちょこん、と座った。

少年は俺を見つめて、まったく視線を動かさない。

俺はというと何故か照れているのだが、何とか見つめ返そうと努力している。

数秒、その謎の時間が過ぎていった。

そして長い長い数秒の後に、少年は声を出した。

「貴方たちは、誰?」

さて、どう答えるべきか。

試しにウェルに視線を送ると、少し笑っているような目を返してきたので、多分これは適当に嘘を吐けってことだと思われる。

なので

「俺はキョウヤ。でこっちが妹のウェリネア。ウェルって呼んでやってほしい。俺たち、エルルさんの知り合いだ。身分は……そうだな、旅人ってやつかな」

と答える。

すると少年は納得したような、してないような変な表情を浮かべてしばし止まる。

それから頷いて、こう言った。

「そう。僕はヨヅキ。ヨヅキ・オルカンデア。ヨヅキって呼んで。って、もうエルルさんからそういうのは聞いてるか」

苗字初めて聞いたよ?

いやいや、今はそんなことどうでもいいんだ。

エルルさん割と適当なんだなー、ってのは置いといて、聞かなきゃいけないんだ。

「うん。じゃあ、ヨヅキ。いきなりですまないけど、聞きたいことがある。メルナって女の子のこと」



「うん、分かってた」


それから話したのが、先の狂気じみた物語だった。


かな、と1つ締めたヨヅキが、ふうっと溜め息吐きつつ姿勢を緩める。

俺はその目をついまじまじと見てしまう。

彼、話している時のその目、光が何一つとして宿っていなかった。

死んだ魚の目というのがまさに適切適合適言というもの。

今の目も少し光が宿ってはいるものの、やはり半分死んだような感じを受けてしまう。

何故だろう、心までも死んでいるのではないかって思ってしまうのは、人じゃないんじゃないかって思ってしまうのは。

「これだけだよ、これで全部。僕の言えることは」

どこかその声までも、感情のない冷徹機械的に聞こえてきてしまう。

あ、あとさっきからしまうしまうしまうしまうって、片付けられないほど「しまう」の字面が散乱している。


うーん、さて、こっから何を話せばいいのか。

案外早く終わってしまったので、今が何時なのかは知らないが、だからこそ何をしようか悩む。

うーーーーん、何か聞くべきこととかないか?

んんんんーーー、んんんん……

ないな。

かといってのこのこ帰ったら残り物二人の手伝いになるんだろうというビジョンあり。

それは嫌だ、仕事なんて嫌だ。

嫌だからウェルに意見を求めようと、その方を見たのだが。

声を掛けるそのつもりだった刹那、その方から声を出した。

「ねえ、ヨヅキ……さん……」

「どうしたんですか」

どうしたんですかの"か"の疑問符が存在しない、棒読みな「どうしたんですか」が不協和音のようにこの部屋に響き渡る。

「貴方、嘘はダメだよ」

「……どういうことです」

少しの苛立ちが言葉に出、少し投げ槍な感じを受けた。

そして次の瞬間、俺はさらに呆然とすることになる。

ウェルが言い放った言葉は、それを与えるに相応していた

「隠してること、あるでしょ?」



「ふっ……」

笑った、ヨヅキが笑った。

「そうですね……素晴らしい、そんなことまでお見通しなんですね……」

その言葉を発するヨヅキ、かろうじて声は薄く笑っていて、けれどその目はやはり死んでいて。

「最近、夢を見るんです。メルナの夢です。メルナに……呪われる夢です。ひたすら、なにかを囁いてくる。何かを伝えたいみたいだけど、僕にはそれを思い出せない」

その答えもまた、決して笑えるものではなかった。



「もしかするとまた来るかもしれません。その時は宜しくお願いしたい」

「ええ。僕はいつでも、ここにいますから」

「それでは」

パタン

これ以上ここに留まったところで何も得られないだろうと感じたウェルが、では私たちは、と切り上げてくれた。

その上でこの状況、30分と経っていないほどで俺たちはヨヅキ家を出た。

予想の斜め下、やけにあっさりとしたものだった。多少の違和感や幾つかの疑問はあるにしろ。

それに、まだまだ聞けてない質問なんて山とあるのに。

あの詩は何なのか、何故唄うのか、秘密基地ってのはどこなのか、夢と死霊との関係性とか。

思えば思うだけ、まるで枯渇しない永遠のオアシスのように、疑問というのは湧いてくるもの。

しかも湧いてくるのはほんの一部で、オアシスを去ったころに振り返り、初めて湧きだす疑問の尊い水だってある。

しかし、俺たちはそれを振り返ってばかりだと、前には進めない。

この胸の奥の変な靄は消えないが、まずは今日の仕事、家庭訪問は終了した。

という訳で、残りの一人30人とかいう鬼畜スケジュールを率先して頑張って楽しんでるお二人を助けてやるしかなさそうですな。

「ウェル」

「なぁに?」

「今からサクラたちの手助けするか、帰って寝るか、どっちにする?」

あってないような2択だ。結局手助け行きになるのは目に見えてる。

ウェルならそうな――――

「帰って寝るね!」

幻聴かな、ついに耳まで老けだしたか。

「え?」

「帰って寝る!」

このガキが何を言っているのか、今の僕には理解できない。

というか一番最後まで寝てたやつが家庭訪問1つ終えた瞬間にもう一度寝るとか言い出してんだなあ。

「っておいおい待て!帰ろうとするなよ!?」

帰る気満々で宿のほうへと帰ろうとするウェル。

「何やってるの?早く宿に戻るぞ!今なら……二人っきりだよ?」

俺に幼女を苛める趣味はない!

ずかずかよっていき、そのままウェルの首根っこをキャッチ!

そのまま首根っこをリードにして引きずり回し、俺は面通りまで歩いていった。


「お前、ほんとにサクラに泣いてすがった剣なんだよな?」

「なにそれ、おいしい?」


裏路地から大通りに出たところで、ようやくはて何処に行けば二人に会えるのか、と思った。

良かった良かった、まだギリギリ思考回路はイカれてないみたいだ。

サクラとかいう馬鹿に出会ってからずっとこの調子、頭のネジが緩んでいる。

まったく、前世の俺を見習ってほしいもんだ。

だって前世の俺は、

俺は、

だって、前世の俺は……


うう……

思い出そうとすると頭が痛くなる。

そこまで痛い訳でもないのに、それで思考が遮られ思い出すのを止めざるを得ない。

ノイズが走って、記憶に靄が掛かり見えも聞こえもしない。

をけれど思い出すのを止めようとすれば、同期して痛みも靄もノイズも遠ざかっていく。

推測するに、これは記憶……ことさら過去について働くスキルか何かだと思われる。

そんなものを扱えるようなヤツ、この世界には一人しかいない。

つまり元凶はあの馬鹿2号だ。

クソ……ここはどうでもいいし、思い出すのは止めるしかないか……


痛みが引くまで待ちながら、別のことを考える。

あの二人をどうやって見つければいいのか……あ。

俺はやっぱり頭のネジが緩んでるな……少し考えれば分かるようなこと、俺には高校英語と同じように聞こえる。

えー皆さん、有りましたこの状況を打開出来るスキル。

「転職」しましょう。


リストを開き、それっぽく「味方の位置が解る感じのやつ」なんて唱えたり、そしたらほんとに出てきたり。

ざっと10~20くらいはあるのではなかろうかと思われる。

記者シリーズたるものや、ストーカーなんていうヤバいやつ、人事課なる明らかに身バレ確定なやつとか。

ちなみに記者シリーズが圧倒的に多量。

新聞記者、ニュースリポーター、ジャーナリスト、週刊誌記者などなど。

週刊誌記者とか嫌われてるんだろうな……


人事課に関しては、2つだった。

課長と下っ端。

けど、スゴく効果的だったのは確実。

なんでも行動統制がどうの、人事異動がこうのって説明文長すぎて、使う気にはなれなかったが。

ということでこれボツ、次!


なんだけど、ストーカー……

ねえ?

どうやら俺は、変人の職業もしくは変態の職業に恵まれる傾向があるらしい。

自宅警備員、懐かしいなあ……

いや、いやいや過去は思い出そうとしないほうがいい。

リアシュルテのこと、十中八九変なもの仕掛けている気がする。

今はとにかくストーカーだ。

試しにステータスウィンドウを立ち上げてみる。


ストーカー

詳細:愛してる、一方的だとしても、叶わないとしても愛してる。

追尾の最高峰を手に入れ、あの子のためにその力は覚醒する。

そこに不純なものなんてないと信じて。


所持スキル

「追跡・極」

「尾行・極」

「隠密行動・極」

「環境馴化」

「探索」

「捜索」

「拘束」


拘束……?


触れないほうがいいやつだね、うん。

見なかったことにしておこう。


追跡・極……

気になるので詳細を確認する。


スキル「追跡・極」

段階1/1

詳細:対象の痕跡を発見・自動照合し、位置を割り出す。

対象の指定は段階によって細かくなり「追跡・極」の場合、必要な前情報数は1となり第三者からの情報も許諾される。

追跡の正確度、照合の正確度、リアルタイムでのラグは段階によって正確となって行き「追跡・極」では遅延なく位置特定半径は1mとなる。

追跡可能範囲は初期でおよそ半径500m。段階毎に範囲+500、「追跡・極」では範囲制限が撤廃される。


追い求める物は、者は、はたして正しい結末か。

与えられたこの力の先は、私欲か、大義か。

前者であれば、君はもう終わりだということだ。


結論から言うと、凄く有能で素晴らしいスキルだと思います。

特にこの「追跡・極」のヤバさが半端じゃないと言うの、解るだろうか。

目だけで見れば、「追跡」の段階10と「追跡・極」の差はたった一段。

しかしその力の内を見てみれば、その差はまさに一目瞭然、天と地ほどの差がござる。

俺の使用したスキル史上最長のスキル説明文だと言うことからも解るだろうにこのスキル、普通なら相当の苦労しないと取得出来ないやつだと思われる。

ましてやこのストーカーとかいう職業、固有スキル見れば解るけどそういう「・極」シリーズが大量にある。

全部ストーキング関連の、というのが要るけど。

それってつまり、この職業、日夜年中幾年もストーカーという卑劣な行為を繰り返さないと手に入らないのでは?と言うことである。

職業のストーリー部分ですらかなり腐った文になってるし、後戻り出来ないとか言ってるし。

しかーし!俺は迷子のサクラ達のため、躊躇うことはないのだ!

大通りからまた裏路地に戻り、人目のないことを確認して、

「転職……『ストーカー』!!」

唱えた。

体と旅服が光り輝き、中から現れたのは。

「え……主、それはヤバいよ……」

黒のキャップ、サングラス、マスク。

グレーのパーカーにさげたポーチ、そして黒ジーンズ。

ストーカーというより、不審者な俺が立っていた。

この異世界という地でパーカーとか、違和感しかないし目立つから絶対ストーキング出来ないだろ。

「普通に、怖いな……」

「うん……」

この不審者すぎる格好、何とかなりませんかねえ……

このままじゃ街中でドン引きされて人生が終わるのよ。

人生終了二回目が二日なんて、笑えねえからな!?


と、ふいに一つの画面に俺の目が留まった。

スキル「環境馴化」のところである。

字だけ見ると、何か役立ちそうなものなのだが……はたして中身はどうか。


「環境馴化」

段階10/10

詳細:状況に合わせた服装や所持品を自動選択、または手動で衣装設定を行える。

段階上昇に応じて、自動選択の精度が上昇かつ衣装設定にて選択可能な職業衣服のラインナップが増加する。


うん。

「環境馴化!」

今回は手動で。


「やっぱり主はこれかな」

旅人服の俺は、大通りに繰り出した。

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