Lüge
物心ついた頃からずっと、僕の記憶は彼女で埋め尽くされてた。
僕の母が彼女の母と仲が良く、二人が会うたび僕は抱っこされて連れてかれてたらしい。
彼女も同じ理由で、そこにいた。
それがいつしか、抱っこからおんぶへ。
そして歩いて行くように。
じーっと睨み合ったりきゃっきゃと笑い合うのから、二人追いかけ合ったり、やっぱりあははって笑い合って。
連れていかれたのから、自分で行きたいと言いだすまでに。
母たちの話すのを見つめるのから、逆に母たちが僕たちの遊ぶ姿を見つめるように。
二人一緒に、二人同じように育っていった。
まるで兄妹、いや、どちらかと言うと彼女のほうがお姉さんしてたから姉弟か。
年は同じだけど、彼女のほうがちょっと大人っぽい。
僕はちょっとネクラ気味で、彼女はそれを母のように真似て叱る。
逆に彼女はちょっぴり天然で、時々僕が先生になる。
二人は一緒だから、知ってることも一緒がいいって。
きらきら目を輝かせてる彼女を見ると、僕はとっても嬉しい。
このままずっと、こんなのが続く。
そう思ってた。
父が死んだ。
病気も怪我もしなそうな頑強で屈強な父が、病気で。
なんかよく分からない名前の病気だった。
なんでかかったのかもよく聞かなかった。
それで、母も危ないと言うのも、聞いていなかった。
少しして、母も死んだ。
最後まで「大丈夫」って言い続けてたらしい。
僕はそれに立ち会えてない。
うつるといけないから。
父の友人だったエルルさんの家に住ませて貰ってた。
その間、彼女とは会ってない。
彼女と会う気力も何もなかったから。
だから母が死んで、もうほんとに何もする気がなくなった。
もう嫌だ、もう僕を虐めるのはやめてって。
あんな年で、僕も死のうかなとか考えたこともあった。
それだけ、怖かった。
けど。
彼女が来た。
僕は会いたくなかった。
もう嫌だった。
これ以上僕の周りの人を痛めつけて殺すのはやめてほしかったから。
けど。
彼女は何も言わずに、抱き付いてきた。
長く、長く、長く。
それから、そっと言ってくれた。
「私がいるよ」って。
僕は生き戻った。
笑顔が戻ったらしい。
もうどうでもいい。
そう、もうどうでもいいんだ。
嫌だとか痛いとか虐めとか、そんなの。
また二人で笑い合って、からかいあって。
時にはエルルさんまで巻き込んで。
走り回って、寝転んで。
とにかく楽しいこといっぱいで、毎日満ち足りて。
このままずっと、またこんなのが続く。
そうなる……
エルルさんの誕生日が近いから、二人で何かしてあげようってことになった。
二人長いこと考えた結果、花束をあげようってことになった。
どうせなら、自分達で摘んだ花でって。
僕の提案だった。
二人で街を出て、草原で花を摘んだ。
それから森に入って、花を摘んだ。
それからまた草原に戻ってきて、花を摘んだ。
また森に入って、草原に出て。
ふと振り返ると、そこに彼女はいなかった。
夕方になって、日が落ちる直前まで森を出たり入ったり、声を出したりして探し回った。
まさか僕をからかって先に帰ったのか、と思って街に戻った。
二人だけの秘密の路地裏秘密基地に、いつも帰ってきたら行くのが絶対。
相手がいくら遅くても、そこにいる。
ずっと守ってきた約束。
二人一緒、約束は一つも破ったことはない。
そこに彼女はいなかった。
何も言わずに、僕は「僕の」家に帰った。
何も言わずに何もせずに、ベッドに入って寝た。
1日、2日、3日。
彼女は現れない。
それから、死霊の噂を聞いた。
もう何人もの人が拐われたり、殺されたりしたらしい。
それから僕は、一度もこの家を出てない。
もう、何もかも……
また嫌になったから。
もうほんとに、虐めるのはやめてほしいから。
今度はきっと……
いや、ううん。
もう、考えない。
もう、何も見ない。
そうしたい。
いっそ、僕も死んでしまいたい。
けど、何故かな……
出来ないんだ。
やっぱり、怖いんだ。
臆病なんだな、僕は。




