背を向けて
皆様、おはようございます。
風間キョウヤ、ただいま起床致しまして。
非常に困っております。
なにが起きてんだと。
おさらいしませう。
リアシュルテが頭の中に入るときのこと。
何やらリアシュルテは「きょうちせんたい」とか何とかと言って、そうしたら吸い込まれるように俺の頭目掛けて特攻。
半透明っぽかったあたり、幽霊化でもしてたんだろうか。
兎に角、まあ。
入ってくるときのあの感覚、大嫌い!!
吐き気、吐き気、吐き気のオンパレード。
で時々虚無感付き。
薬物の副作用ってこんなのだろうなーって思った。
で。
まだそこらへんは正直どうでもいい。
許容する。
何も困らない。
数時間前まで殺しあってた女に脳味噌明け渡した状態で一夜眠るとか、それも結構鬼畜だけど、まだ辛うじていい。
いや、死の危険は大いにある。
あるけど、別にそこまで困らないし、許容はしないといけない。
あくまで俺の使いだから、そんなことできないってのはわかってるんだけどね。
だからこそ。
これは困っております。
この状況、普通に気まずい。
現状報告。
朝起きたらサクラが横で寝ていた。
どうしよう。
現状報告。
サクラが寝ぼけてる。
「キョウヤぁ……えへえっ……!?」
これはキツい。
個人的に、寝言で人の名前言ってるやつは大体ヤバいと思ってる。
ましてやそれ対象が俺ならなおさら。
結論。
死刑。
現状報告。
今スゴくこの場から出たい。
けど、出られない。
何故ってそりゃ、離してくれないからだ。
今、俺の頭はサクラに抱かれている。
ちなみに顔はそとを向いている。
バックハグを寝転んだ状態でやった感じだも。
「ふみょう……」
うおえあっ!?
こいつ、俺の頭なでなでし始めやがったな!
ゆるさん。呪う。
と、どこからか「くすくすっ」という笑い声。
しかしすぐに、口つぐむかのように消える。
それは、俺の頭の中から聞こえていた。
リーアーシュールーテーーー!!!
お前だろ!
俺がここにいるのもお前のせいだろ!
絶対そうだ!
お前俺の体操ったりしたんだろ!
俺には分かる!
返答なし。
シカトするつもりだろ!
むむむむ……!
こうなったら……!
「うわああああああああ!!!」
「何じゃあああああ!!?ってキョウヤあああああ!?」
「へやあああああ!?」
三人三色、叫んだ。
数分後。
叫びに叫んだサクラと俺は、疲れてベッドに倒れ込んだ。
リアシュルテも静かにハァハァ吐息を響かせている。
寝起きでいきなり汗をかいた。
昨日寝る前は気力なく風呂行ってないし、この際今から行ってもいいと思う。
そっと立ち上がり、寝室を後に。
廊下を入口に向かい、ドアへ。
ドアを引き、一歩踏み出した……その瞬間。
ぐにっ、と足が何かにぶつかる。
柔らかいとも、固いとも。
部分的に違う感触。
おかげで躓きそうになり、その拍子に下を見た。
俺の足に当たっているのは、真っ白い青目の猫だった。
「……猫」
ふいにそう言ってしまったが、そんな変に声が出るほど美しい子猫だ。
「かわいいね」
そう言いつつ子猫を抱き上げ、
「よしよしよーし!いい子だいい子だ!」
わしわしと揺さぶる。
気持ち良さそうだ。
そのまま、
「どこから来たんだ?迷子猫か?」
聞いてみるが、勿論答えはない。
「ま、分かるわけないよな……」
当たり前だ。
「それにしても可愛いなー!子猫ってのは君見たいな人ののことを言うんだろうなー」
わしゃわしゃ強め。
それなのに……
「あの馬鹿ウェルは何やってるんだか……何処に消えたんだ……」
《馬鹿にしないでよー!》
「へ!?」
喋った。
猫が、喋った。
《夜通しずっと君たちのために寝ずのばん》
「いや、ちょ、エ?」
《私だよ!ウェルウェル!》
「はぁっ!?」
え、あり得ない。
「はあ!?」
繰り返す。
「はあっ!?」
抱き上げたままの猫を見る。
と。
「……っ!?」
ビカーーーンと手の内で発光する腕。
転職の時と似ている。
ずしりと急に重たくなる猫。
光ってるからよくわからないけど、体型も変わってくる。
ああ、これやったなウェル。
光がシュッと納まる。
視界が戻ってきた。
見えてきた。
案の定、俺はウェルを抱き上げてる構図になっていた。
「にひぃ……!」
可愛い。
が!
「どけええええ!」
ウェルをすっ飛ばして廊下ダッシュ。
一階に下りる。
ようやく風呂にたどり着いた。
ということで入っていく。
ぜーんぶ脱ぎ捨てた。
GO!!
ドアを勢いよく開け放った。
真っ先に目に写った浴槽。
それしかないからだけど。
なので浴槽に飛びこんだ。
そういや、
シャワーって概念が存在しない世界観だから、広い。
平泳ぎで外周回れそう。
一周、二周……
と。
浮きながら変なことを考えていれば。
がららららっと聞こえるドアを開けた音。
キョウヤはまだ知らない。
ここが混浴だってことを。
「のう、キョウヤ。げん……」
「うおわあああおおおおお!!?」
《表示できません》
えー、俺は何も見てない。
ここ二分間の記憶はない。
俺自身が消去した。
だからサクラの裸体は見てないし、カウンターにと胸にストレートは撃ってないし。
それが自前の結界「隠れ雪」で無効化、そのままたわわな膨らみの間にぺたんとフィット……なんてことにはなってないし?
きょとん顔でサクラがこっちを見てくるので余計羞恥心が増して風呂場から飛び出してないし?
服引っ付かんで全裸びしょ濡れの状態で廊下に飛び出てないし、そのまんま部屋まで戻ってきて正面にいたリアシュルテとウェルは風間の風間を直視なんてしてないし?
ゴミを見るような目で見られてはないし?
なってないなってない。
俺は知らない。
ということで何故かはまったくわからないのだが俺は現在寝室のクローゼットで全裸待機している。
何故裸なのかはよく分からない。
着ればいいのだが、プライドが俺をここから逃がさない。
あとこの宿今日の朝には出るって言われてたし、見つかるのは時間の問題。
何故か勝手に全裸かくれんぼを始めていた。
まァ、始めたからには最後までやるしかないな。
相手は女神なんスけどね。
でもそれだからこそ、こういう簡単なところは見過ごされ……
「みぃつけたァ……!」
「ぎいぃぃぃいゃああああぁぁぁあ!?」
あっさり見つかりました☆
「おい、ちょっと談話室まで来るのじゃ。二人が何かキョウヤに謝罪が必要だーとか言っておったぞ」
「いやだ……」
プライドが「まだだ!」とか言ってるのでまだ。
と思ったのに。
「よいっ」
「はにゅん!?」
右足引っ張られてクローゼット強制退場。
そのまま引きずられる。
「お前、服くらい着るのじゃ。いくら暑いからといって、朝は寒暖差が激しいのじゃぞ。特に、風呂上がりなどな」
あ、こいつ最後の皮肉だろ!
煽ったなコノヤロー!
あとサクラが普通に服着てるのも腹立つ。
俺とら五分くらいずっと全裸。
誰のせいだよ!
ほとんど俺だったわ!
……はい。反省する。
ドアを越して談話室へ。
俺の変わらない格好を見てまた死んだ目をかましてくる二人。
そして部屋の中心に投げられ、囲まれる。
カツアゲ……?
「おいキョウヤ、お前の息子を見て人生損した。土下座しろ」
「主、私たちにそんな気起こす人だったのか……土下座して」
「服を着るのじゃキョウヤ」
「おいキョウヤ私でヤろうとしたんだろ、土下座しろ」
「主、そんな趣味の人……嫌い」
「と、とりあえず服を……」
服はべつに……
とりあえず……
「申し訳ございません!!」
土下座した。
「もう二度とこのようにはさせません!!」
と、その時。
ガチャっ。
「お前らー、おは……」
ばたんっ。
『俺は何も見てない、俺は何も見てない』
ドア越しに聞こえる暗示。
部屋に渡る沈黙。
ドカドカとエルルが立ち去る音。
1、2、3歩……
と、遠ざかっていく音が止まる。
次いでバッ、という音。
反転した……?
ドカドカと、今度は足音が戻ってくる。
1歩、2歩、3歩……
こいつ、無理矢理全部やり直すつもりだ。
流石に無理が過ぎるだろぉ……
言ってるそばから、コンコン……とドアがノックされる。
『は、入ってもいいか……?』
返答に困るんだが。
そんなときは相談するのがいちばん。
「なあサクラ、これど……」
いない。
あの三人、一瞬にしてとんずらしやがった!
どこ行きやがったあの馬鹿共!
逃げるなよおおおお!
あとおい、エルルがドア開けると目に写るのは俺の裸体になるんだが!?
俺にここから一瞬で消える手段とかないんだが!?
どうすればいいんだよ!?
寝室クローゼットに行くか!?
いや、この部屋がもぬけの殻だとそれはそれでダメだ!
あれ……俺……詰みじゃね?
『入るぞー?』
あ、マズイ
詰むぞ、これは詰むぞ。
不審者扱いで牢獄行きだ!
人生二度目にして刑務所で生きるとかは絶対嫌だ!
ガチャ……と取っ手に手をかける音。
さらにガチャっと。
ドアノブがゆっくり回される。
まずいまずいまずい!
あの三人のいない理由とか考えないと!
ってかそもそも服着ないと!
でも見る限り着替えなんてない。
俺の旅人の服は……
しまった!クローゼットの中だ!
どうするよ。
ベッドで寝たフリでもするか!?
無理があるだろ!
まずいまずいどうしようどうしよう!
ガンっと、ドアノブが回りきった音。
次いで、詰みを告げる音……
キィィイ、とドアがゆっくりと開けられていく。
ああ、終わってる。
終わりだ終わりだ俺の安泰人生。
ドアの隙間からエルルの姿がちらりと見える。
確実に終わりだ……
と。
『キョウヤ……ちょっと待ってろ』
脳内に響く知った声。
そして次の瞬間、その声がドア前に顕現する。
「ああ、エルルさんではないですか」
「リアシュルテ殿!それにウェル殿サクラ殿!」
三人がドア前に現れたらしい。
と、再び響く声。
『暇なら服でも探して着てろ』
器用なことをするなあリアシュルテは。
じゃあ服でも取るか……あ、いや……これがどうなるのか見届けておきたいや。
ということでエルルのターン。
「何故三方は外に?キョウヤ殿は何をしてんだ?」
ターンエンド。
疑問という攻撃だ。
ごもっともな質問ばかりだ。
それに対して、三人はどう出るか。
「キョウヤは寝ていますよ。昨日は色々ありましたから、疲れてよく眠ってますよ」
サクラがまず俺の弁明。
けど、あの人見てるからね。
そこんとこどうするんだ?
こんどは……リアシュルテか。
「私たちが外に出たのは……」
声色が替わる。
「あんたの記憶を改竄するためだ」
と、バタンッと大きな音。
次いでドアがバーーンと開け放たれる。
三方が入場する。
ウェルが担いでいたのは、白目を向いて気絶するエルル氏だった。
「だから、服着てよ」
何が起きている?




