表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/169

舞戻の勇者

目を開けて、状況を把握する。

っておおおおおい!?

地面に激突しちゃ――――

わないわ。

何故かスピードが急激に落ちて滑空してる感じだ。

それでもかなり速いというのは黙っておこう。

ていうかそもそもの意味がわからない。

何がどうなったんだったか。

しばしシンキングタイム。

ちく、たく、ちく、たく、ちん。

あああああ!!

俺の胸の傷は!?

ない!

跡形もなく消えている!

破れた服は変わらないけど!

なんか胸のあたりが開かれてて、ダンディーって感じ。

ダンディーの意味はよくわからんけど。

まあ、いい。

それよりもずっと大事なことがあるんだ。

俺の背中だ。

なんか肩のあたりが妙に重いしムズムズするしで、不快感に気付いたんだ。

あとデジャヴ感が少し。

だからね、俺振り返ってみたの。

そしたらね。

翼が生えてるの。

見たことあるやつね。

俺が転生後に生やした落下機動装置とかなんとかってやつと瓜二つ、てかもうまったく同じやつ。

でね、持ってたはずの刀が消えてやんの。

あ、持ってたっていうよりか、刺してたってのが正答か。

まあ兎も角。

傷もなく刀もないっていう意味不明状態だけど、俺、ちょっと分かったかもしれない。

この翼、ちょっとほんのちょーーーっとだけ左よりになっていたのだ。

確証はないけど。

そして、これも確証ないけれど、その翼が生えてる付け根のところ、あれ多分俺が刀貫通させた穴のあった場所っぽい。

確証ないよ?

憶測。

そして、それらが現してるのはそう。

刀が翼に変わったのではないか。ってことだ。

普通の刀ではまったくの嘘になる。

けれどこれ、サクラの刀だからなー。

つまり神の刀だから。

あり得る。

現にリアシュルテの槍折ってるし。

あり得る。

そもそもこの刀が俺の胸ブッ刺してたし。

大いにあり得る。

アリエル。

あり得すぎて最早ありえないことを望んでいる。

まあ、そうならとっくに俺は死んでただろうけど。

で、この俺の考察。

簡単に証明する方法がある。

俺はふわっ、と懐かしい芝生に降り立った。

ここで空の旅は終わりだ。

つまり、翼が要らなくなる。

ならばこの刀はどうするのか。

答えはすぐにやってきた。

翼がライムグリーンに輝きだし、その火で緑に燃え上がった。

そして、背中が軽くなり。

翼は消滅した。

さて、ここから。

そう思った瞬間。

ストン、と右腰に重みがかかる。

軽めの負荷。

俺は見やる。

すると。その腰に、それはあった。

化竜転鬼、それが、そこにあった。


うん、やっぱりね。

翼の正体はこの化け刀さんだった。

つまり俺の心臓をブッ刺したのは、そこから翼を生やすためだったってことだ。

じゃないと体とくっつかないから。

いやー、怖いね。

生きるために死ぬのは。

実質死んでたんじゃない?

心臓刺されたときはまさに死ぬほど痛かったし。

死ぬほどって言ってんだし、死んでたってことにしとこうな。な。

で。

俺はその仇で命の恩人、いや恩刀の通称化け刀さん(さっき始めて呼びました)を抜き、見つめる。

てかこの刀、鞘ないのに吊り具に吊られてたんだけど。

それ、鞘を納めるやつなんだな。

直に納めるやつじゃないんよな。

だからさあ、ほらちょっと傷ついてるやん?

考えようよー……

刀になに言っても喋んないから意味なし。

まあ許すからいいけど。

あと、愛着が沸いてきたってのは黙っておこう。

刀に恋してるってなっちゃうと、変な路線に走っちゃうからね。

いや、恋愛の形は人それぞれだからね?

君たちは好きにしてね?

俺は刀と結ばれないけど。

まさに禁断の恋(笑)。

という訳で、愛した他人の刀を構える。

なればリアシュルテが、空中を優雅に歩きながら、螺旋階段を往くように舞い降りてくる。

何か俺が使ってたやつみたいだね。

てか、俺もあれ使ってたらよかったくね?

いや、魔方陣にいた時点で走り出してないと意味ないわ。

だとするとリアシュルテのやつは有能だ。

あの人落ちるとき座ってたしね。

なんか無性に腹立つなー。

と、リアシュルテの足が大地を踏み、着陸。

こちらを向いて深呼吸した。

そして、ニッコリ嗤ってこう言った。

「その刀、邪ーー魔ッ!」

その瞬間、ドウッと風を撒き散らしながらリアシュルテがこちらに跳んできた。

「やばっ!?」

咄嗟に右へ俺も跳ぶ。

リアシュルテの拳が、俺の元居た場所目掛けて突っ込んだ。

あと一秒でも回避が遅ければ、顔面に風穴が空いていた。

ひー恐ろし。

と、ちょっと気を抜いた隙、すかさずリアシュルテがこちらに追撃してくる。

先よりも速い!

一瞬にして、拳が顔前に迫る。

まずい!

「ふっ」

「ぐいいっ!?」

奇怪な声を上げながら、体を反らして拳を避ける。

軽いリンボーみたいな体勢になった。

そう。リンボーの体勢。

つまり、すごくバランスがとれない。

そして、素早く次の行動が出来ない!

ここを狙い、リアシュルテが空振った拳をすぐさま戻し俺目掛けて振りかぶる。

「死ーーーねえええッ!!」

そう高らかに叫ぶそなたよ!

誤ったなリアシュルテめ!

振りかぶるのはナンセンスだ!

「やだああああ!!」

意味不明に叫び散らし、俺史上最も腹筋をフル稼働させて上体を起こす。

名付けて、光速復帰!

腹筋だけに!

かーらーのーーー?

ウルトラ石頭!

ごーーーーん、と鐘でも鳴りそうな音を響かせて、俺とリアシュルテの頭が目一杯ぶつかった。

「っああ!?」

「ってええええ!?」

お互い頭を抑えてよろけ、下がる。

チラチラと視界に星が瞬く。

どうだ!痛いだろ!

こっちもかなり痛いんだよ!

石頭なんて嘘だからな!

ずきんずきん言ってるし。

いちゃい。

けど、これで少し距離と時間が稼げた!

痛みを堪え、俺は刀をリアシュルテに向ける。

あちらはまだ復帰できてない。

目を回してよろけ、仰向け状態。

叩くなら、今!

叩くっつっても、斬るんだけどね!

少しあった距離を走って打ち消し、間合いに入る。

かーらーのーー……

ジャンプっ!

刀を逆手に構えて、突き落とす形に。

「お返しだああああ!!」

そのままリアシュルテのがら空き胴体目掛けて落下!

刀は、リアシュルテの腹を切り裂……

かなかった。

刀がその体に触れる刹那、リアシュルテが消えた。

どーーんと刀はそのまま地面にゴールイン。

派手にクレーターを作った。

速すぎだろ!

チートだ!

早急な対処を要求する!

俺は落下の反動を無理矢理耐えて立ち上がりながら、リアシュルテが何処に行ったかとふと後ろを振り返った。

幸か不幸か。

その目に映ったのは、突進してくるリアシュルテだった。

「うお!?」

拳がまっすぐ飛んでくる。

全力で避ける。

不意討ちはズルいよー

あれ?俺もやってたんじゃ?

知らん知らん。

と、またリアシュルテが拳を飛ばしてきた。

速すぎ!

流石に避けきれず、刀で受ける。

相殺とまではいかなかったけど、なんとかダメージはない。

普通逆のはずなんだけどなー。

「おいやっ!」

で、またまたリアシュルテパーーンチ!

大きめに弧を描いた特大!

やっべ!

刀を逆手に、立てた刃で迎え撃つ。

これなら痛いっしょ?

が、拳とぶつかった刀は押しかえされた。

「へえ!?」

体勢が崩れる。

そこを狙われた。

「死ねやオラアアアッ!!」

「ごわあっ!?」

拳が俺の腹目掛けて飛んでくる。

速すぎるんですが!?

あと口調が随分汚いんですが!?

ああああ気をそらしたいけどもう無理だああああ!

当たるうううう!?

抵抗空しく。

灼熱のリアシュルテの拳が、俺の腹にぶちこまれた。

どごーーーーん、って感じ。

遅れて、どーーーーん……

衝撃音。そしてものすごい衝撃波。

ああ……俺は今ごろ吹っ飛ばされて痛みに叫んで……

ないね。

あれ?

痛くない。

動いてない。

何で?

え?え?

というか、リアシュルテも動けてない。

ていうかこれ硬直してるのか?

ん、あれ?

硬直?

なんか聞き覚え。

俺はリアシュルテの拳のほうを見る。

俺の腹のど真ん中で、その右拳は止まっていた。

赤色に燃えているけれど、よく見るとその先端、少し違う。

琥珀色だ。

咄嗟に俺は腹を見た。

何か琥珀色の膜が、体のほんの少し手前で拡がっていた。

腹の拳を受けた部分だけね。

琥珀色だ。

と、ここでついぞ思い出す。

あ。

あいつ。




同刻。

数メートル先。

サクラは両手を胸前で広げ、魔方陣を展開していた。

傷が再度開き、かなり血が出ているのは秘密だ。

キョウヤの1度きりの命の為ならば、自分の肉体なぞ軽い。

「桜下残雪……隠れ雪」




結界、サクラのやつだね。

色でわかるわ。

傷も完治してないだろうにこんなことを……

って、あいつ俺に結界くっつけてたんか。

ストーキング……?

全科あるしな。あり得る。

人魚姫。

で、確認のためサクラを探す。

すると、リアシュルテの肩越しに遠くその姿が目視出来た。

やっぱり何か構え取ってるっぽい。

はい、というわけでこの結界はサクラのストーカー技術の結晶でした!

うーん、恐いね!

リアシュルテは囚われの右拳を引っ張り、押し。

そして叫ぶ。

「んのクソババァ!次から次へと余計なことばかりやりやがって!」

大元余計なことしてんのはあんただね。

結界を左拳で何度も打ち付けながらリアシュルテは続ける。

「このっ!放せっ!クソッ!あのっ、ババァッ!死ねや!死ね!殺すっ!殺すっ!」

おう恐い。

まじでこの人恐いよね。

めっちゃキャピキャピだった、と思えば狂うし、叫ぶし、泣く。

情緒不安定?

きっとそうだ。

追い付けないね。

ていうか、ちょっと試してみたいんだけど。

俺がこの結界に「反」って叫んだらどうなるんだろ。

発動するのかな?

いや、でもこれサクラが結界操作してるし、無理かなー……

「反!!」

言っちゃったーーー!?

どうっ!

リアシュルテが五メートルほど吹っ飛ばされた。

あ、あら?

サクラのほうを見てみる。

困惑した感じで、突っ立っている。

どうやら結界で自分の操作が効かなかったらしい。

つまり、俺が横からそれ奪った感じだね。

盗った覚え?ないなあ。

うん。

リアシュルテが、よろめきつつ立ち上がる。

そして言った。

「へぇ……君、あのババァから支配を奪い取ったのか……。案外凄いんだねえ」

支配?なんそれ。

あ、コントロールってことかな。

はい、それなら獲りました。

盗ったけど、そんな小話に付き合ってられるほど暇じゃない。

次の瞬間、俺はリアシュルテに斬りかかっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ