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自責

反対しないのなら、良いってことだろう。

自己解決で、俺は結界に向かって歩き出す。

ドシュッ

「うぅ……ううう……!」

歩きながら考える。

サクラは悪くない。

これが酷いやり方だとは分かってる。

分かってるからこそ。そんなやり方しか出来ない、たったそれだけのサクラは何も悪くない。

別に好意があるからそう言っている、というわけではない。

断言し辛いが。

だったらリアシュルテが悪いのか。

ここで戦闘を始めたこいつが。

このやり方をせざるを得なくしたこいつが。

神々を裏切ったとかいうこいつが。

サクラの仲間、自分の仲間だったやつを消したこいつが。

違う。

こいつも悪くない。

こいつが裏切り者であろうが何であろうが、ここでは関係ない。

戦闘を始めたのがこいつでも、劣勢だったのもこいつだ。

元に、こいつだってこんなやり方を望んだ訳ではないのだから。

なら、始祖神とかいったあの幼女か?

サクラを結界しか使えなくしたのはあいつだし、サクラを地上に落としたのもあいつ。

けど、違う。

悪いのはこいつらじゃない。

だって。

「悪いのは……俺だ。」

静かに呟く。

悪いのは、俺。

リアシュルテが潜んでいたのは、俺の意識。

それに気付かなかったのも俺。

リアシュルテについて聞いてしまったのも俺。

その前に喧嘩始めたのが俺。寝転んだのも俺。

というかサクラが落ちた原因もきっと俺。

ガチャガチャで案内役を出せなかったのも俺。

この世界を引いたのも俺。

そもそも、サクラの前に転生したのも俺。

もっと言うなら死んでしまったのも俺。

俺として生まれてきてしまったのも、俺だ。

俺。俺。俺。

全部、俺が悪い。

だから全部、俺が背負う。

サクラの全部も。

だから今、歩くんだ。

ザシュッ

「痛い……痛いよ……痛い……!」

結界の目の前で足を止めた。

そんなに距離は無かったが、長く感じた。

ここからだと、結界の中はより鮮明に見えてしまう。

「あ……」

リアシュルテが俺に気付き、幼い声を出した。

俺は見ないようにしながら、裁判長の杖を高く掲げる。

「アブソリュート・ルール」

お経でも読むかのように唱えた。

すると結界からパキ、パキ、と音が鳴り、上部からひびが入っていく。

ひびは徐々に微々にその亀裂を増やし、下ろしていく。

ひびが真ん中あたりに届いた時、ふとその隙間から光が発生する。

それはひびが降りていくにつれ、だんだんと強く輝く。

その光は痛シャツを着たときのものに似ていた。

そしてひびが完全に結界を覆い、光もまた限界まで強く白く輝いたその刹那。

パリン。

結界は、花開くように砕けていった。

リアシュルテの身体は悲惨な状況だった。

血塗れて擦りきれたローブはいろいろと不健全。

右目は抉られて潰され、赤というより黒い。

顔中が血で覆われており、それは足下まで一緒。

全身が黒に近い赤をしていた。

「だ、大丈夫……?」

大丈夫な訳ないのに、そんな事を言いながら。

俺はリアシュルテに左手を差し出した。

でも。

その手をとってくれるとでも思っていた。

予想は裏切られた。

リアシュルテは背中を丸めた状態で立ち上がり。

「ふっ……ふは……ふはははははっ……」

「なっ……?」

肩を震わせて笑い出した。

そして段々と、その上半身は背筋が伸びて。

と思えば、リアシュルテは上体をのけ反らせ。

天を仰ぎながら、両手を頬に食い込ませた。

「あははははははははは!!」

完全に、狂っている。

これが俗に言う、発狂というやつか。

今のリアシュルテはその極みだ。

右目が潰れているのにも関わらず、見開かれた左目の黒目があちこち廻り続け、焦点が合わない。

手は爪を立て頬をまた傷つけ、既に血塗れの顔をさらに赤く染めていく。

口に至っては戻らないのかと言わんばかりに大きく開かれ、そこから奇声ともとれる嗤い声を吐き出している。

「あははははははは!」

「な、なあ、リアシュルテ……!」

「はははははははははは!!」

「おい……!聞こえてるか!」

「はははははははは!」

幾度も呼び掛けるが、通じる気配が全くない。

俺の言葉など聞こえぬままに、血を飛ばしながら嗤っていた。

俺は助けを求めるようにサクラのほうを見やる。

先程まで泣いていたはずがとっくに涙はなく、それを感じさせぬほどその顔は綺麗だった。

その表情はまさに複雑。

リアシュルテの嗤いに呆れているようで、驚いているようで。見放したような冷たさかと思えば、哀しむような冷たさで。

と、俺の視線に気付きその表情は消えた。

それから、俺の「どうしよう」みたいな表情を見て。

サクラはただ、頷いた。

そしてリアシュルテを見、その名を呼んだ。

「リアシュルテ。」

「あはははははっはは、は……はあああ……!」

嗤いが止まる。

左目を指の隙間から覗かせ、ニタァっと目を上弦月のように吊る。

次の瞬間。

リアシュルテが消えた。

刹那。

「ごはあっ!?」

背後で響く呻き。

咄嗟に声のほうを見る。

その方向、サクラのいた場所!

「え……?」

唖然。

消えたリアシュルテの行方は、サクラの目の前。

そして先程の声の主、サクラは。

右脇腹に槍が刺さり、流血し、口から血を吐いて、リアシュルテを睨み付けていた。

事は明白。

リアシュルテはサクラの前に転移し、槍を出しサクラを刺したらしい。

「嘘だ……」

サクラが、それだけで……

リアシュルテはサクラを見下ろし、言う。

「ああ、サクラぁ。楽しい楽しい時間をありがとう。お陰で腹が立てられたよ。だからね。今私は凄ーーくすごーーーーーーく、お前を消したいと思ってるんだ……!」

「ほう。まだそんな口をきけるか。次は内側を壊してやるべきじゃの。」

リアシュルテの呪い文句に、サクラは強がるように出来もしないことを言って脅し返す。

流血はかなり重度だというのに。

「あ、黙っといた方が体のためだよぉ?クソ女神がぁ。出来もしないことを無駄に喋るな。虚言癖かよ……ったくこれだから老害ババァは……いやいやご老体は嫌いなんだよォ……」

裏が完全に出ているリアシュルテ。

幼い声からは想像出来ないほど汚い言葉。

しかしサクラはあれだけ言われたにも関わらず、いたって平常のようだ。

「ババァ?我が?そうか。そんなに老けて見えるか。うむ、顔にはまだまだ自信があったのじゃが……我ももういい年なのかのう……」

「その喋りかただよ。その腹のたつ喋りかたがなぁ、私は心底大嫌いなんだよ……!絵に描いたババァみたいなそれがな……!だから、これ以上喋るな。これ以上喋ったら、死期を早めるだけだぞー……?」

ババァという単語が異常に強調されている。

あと喋らせてるのお前だろ、と言いたい……。

これでキレたりしないサクラのメンタルって天使じゃん。女神だけど。

「ところでリアシュルテ、さっきの結界で分かったぁ?あ、な、た、がぁー……わ、た、し、にぃー……勝てないってこと!」

取り消し。悪魔だわ。

この人喋りかた指摘されたからってリアシュルテの声まねしだしたよ。

こっちのほうが可愛いんじゃねえ?

おっと今のも取り消し。

よくそんな極限状態でふざけられるなあ……

リアシュルテがピキッ、とキレた音がした。

「おい。お前。ふざけてんのか?消すぞ?喋るなって言っただろうが」

「えぇー?ふざけてないよぉ。サクラはぁ、至って真剣だよっ?ただぁ、あなたみたいに喋ってる、だーけ!あは!」

「黙れ」

「えぇー?なぁに?」

「黙れ……!」

リアシュルテが微かに呟く。

かと思えば、リアシュルテは突然肩を震わせ叫ぶ。

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れババァ!!私の前で喋るな!!」

幼い感じが一変し、狂気となる。

「嫌じゃ。何度でも話してやろうぞ。お前の気が滅入るまで狂うまでの」

「私の身体にいくら痛みを与えようが、私自身に害はないんだよ!だからどれだけ痛めつけようと、私はお前には負けない!やるなら内臓でもなんでも潰せばいい!痛めつけるのも何でも好きにしろ!今のお前と同じように槍を刺せ!刺してみろ!だから兎に角喋るなクソババァッ!!」

声を戻したサクラが、信じられないほど悪役を演じている。

いつの間にか流血は収まりつつある。

リアシュルテに至っては結界に閉じ込められた時と同じように頭を掻き廻し、頬を覆い喚いている。

そして、サクラが追撃する。

「ふむ。なら、あの時の叫びは何だったのじゃ?我にはあの声、嘘のようには聞こえんのじゃがのう。」

「うぅ……うううううううう……!!」

ついに言葉を失い、唸りだしたリアシュルテ。

「まあ、どうせ痛くないなど嘘であろう?所詮ただの格下女神が。あ、そういえば、虚言癖は嫌いではなかったかの?だとすれば、今のお前と我は同じじゃな。やったなリアシュルテ!」

「う、うう……ううううううあああああああああッ!!」

怒りが強まり、強まり、強まり。

天井へと届き。

突き破った。

「もういい。黙らないのなら、お前もこの少年も、この世界もろとも全部、消し去ってやる!!」

リアシュルテの"右目"が、赤く黒く光った。

そして、嗤いながら言い放った。

「烙印、押してやるよ……!」

その言葉をきっかけに、あたりが急に暗くなる。

かと思えば、リアシュルテの血を彷彿とさせるどす黒い赤に。

雷鳴が轟きだし、赤い光が視界を点滅する。

咄嗟に俺は空を見る。

黒雲、そして赤に染まったその空。

雷が幾つも発生し、それは白ではなく赤い。

地獄の空色とは、このことである。

リアシュルテが両手を拡げる。

さすれば、彼女は空へとゆっくり浮上しだした。

その最中、彼女の黒いローブが、赤い血の色のラインを宿していく。

同時に同じように黒い髪も、赤く染まっていく。

身体中を覆っていた血はいつしか消え。

右目は白目のはずが黒く、黒目のはずのところが赤く変わっており、顔に黒い紋章のようなラインが浮き出ていく。

彼女は7.8メートルほど上昇したところで止まり、その右手を天に掲げた。

俺はサクラの隣に行った。

「大丈夫か!?」

「ああ、案ずるな。しかし当分は戦えなそうじゃ。リアシュルテ相手ともなれば」

刺さったままの槍を抜きながら、サクラがふいに呟く。

「あれがあやつの司るスキル、その1つである『烙印』。そして、多くの神々を葬り去った災厄のスキルじゃ。あれに当たると、神であろうと世界であろうと存在そのものが消える。まあ、一言で言えば即死技アンド除外技ってとこじゃな。っと、これ以上の説明はあとじゃ。このまま放っておけば世界が終わる!止めるぞ!」

「お、おう!あんまよくわかんなかったけど……って、誰のせいでこうなったと思ってんだよッ!」

「えぇー?知らなーい!」

完全にこいつが悪い。

俺達は行動を始める。

しかし直後、リアシュルテが唱えた。

「烙印、この世界を……消してしまえ。」













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