pa.ne.e(パネえ)
ここにいる?
アシルテはいるけども。
探すのはリアシュルテだろ。
リアシュルテは女神だろ。
わからなくなってきた。
「ど、どういうことじゃ!探す必要がないとは一体!」
『そのままさ。私はここにいる。この少年の意識の中に、私はアシルテとして生きている』
「転生者にアシルテがいるのは当然じゃ!しかし、何故貴様は意志を持っている!アシルテに意志はないはずじゃ!」
サクラが相当焦っている。
ふと、サクラはこのアシルテが何なのか、もう答えを知っている。そんな気がした。
でも、それを認めたくないから意味のない問いかけをする、そうも感じた。
そして、あっさりとそれは肯定される。
『いや、もうお前は答えに辿り着いているのだろう?私が何か。認めるのが怖いだけなのだろう?そして、何故ここに私がいるのか。それを知りたいんだろう?』
「違う!我はわからない!知らない!知りたくない!お前が何なのかなぞ!」
もう、サクラは否定しかできない。
こんな焦っているサクラ、結構レア。
と、少し嫌な予感。
まさか、こいつは……
『ふーん。そこまで私を拒絶するのか。なら、教えてあげないことはないね』
顔が見えないのに、アシルテがにやあっと笑みをウカベテいるのが伝わってくる。
気持ちの悪い笑みだ。
何かを企む笑みだ。
「な、なにをする気じゃ!」
『何って、決まってるでしょ。そこに行くのさ。キミの前に、ね。』
何が起きるのだろう。
ここに来る?
アシルテは俺の意識の中にいる。
どうすればここに来れるのだろうか。
と、刹那、アシルテが問う。
『キョウヤくん。少し苦しいかも知れないけど、我慢出きる?』
俺の名前を呼んだ。
頭に強く響いている。
「く、苦しい……?」
『大丈夫。ほんのちょっと。ちょーーっとだけだから。ね?ね?』
「じ、じゃあいいですけど……」
「ま、キョウヤ!待つのじゃ!ならん!」
サクラの声は、遅かった。
許可してしまった、その時の俺に死ぬほど蹴りをいれたい。
何故許してしまったのだ、と。
『じゃあ、いっくよーー?』
頭の内側で、大きく「ドクン」と脈が打たれる。
同時に、その内側が捻れるような苦しさが襲う。
「うぐっ!?」
しかし、明言通りそれも一瞬。
次の瞬間、その痛みは消える。
俺は意識を外界に戻した。
すると、小さく黒い渦が俺の少し前あたりの芝の上に出来ていた。
それはだんだんと大きく、速く回りだし。
竜巻のようになった。
黒からどす黒い紫も派生して、その色はまさに地獄。
竜巻が、人1人分くらいの大きさになったとき。
バアアアアンと爆風を起こした。
そして、底から。
人の足が見えた。
竜巻がゆっくりと下から消えていく。
そして、人の姿が露になっていく。
濃い紫の、装飾の多いローブ。
それに包まれた、同じ色の長髪。
どす黒い瞳。
そして右手の、禍々しい槍。
女だ。
竜巻が消え去り、すっとその女性が地に降り立つ。
サクラの顔が、怒りを帯びていく。
女性がにやつく。
そして言った。
アシルテの声で。
「よう、久しぶりだなあ。サクラ。」
サクラが返した。
「こちらこそな、リアシュルテ。」
「この人が……り……リアシュルテ……?」
「そうだよー。私がリアシュルテ。早速覚えてくれて嬉しいよ。」
無邪気な子供のような声色でそう答えられる。
コイツは本当に狂っているのか?
この受け答えからは、到底信じられない。
でもサクラの殺気や目付きからは、完全に「殺す」という意志が伝わってくる。
「何故、ここにあらわれた。」
「決まってるじゃない。お前、女神サクラを消し去るためだよ。あの時、私を消そうとした神々の中で唯一生き残ったお前をね。」
「ふん。それだけの理由でわざわざここまで来るとは。阿呆にもやはり度が過ぎるの。」
冷たい声のサクラに対し、場違いに明るい声で返すリアシュルテ。
そして、さらっとスゴいことをいった気がする。
さっき言ってたあれ、サクラも参加してたのかよ。
さっきは凄い他人事みたいに話してたからびっくりしたわ。
ていうかサクラ、生き残ったってことはコイツより強いんじゃねえ?
強くなくても互角くらいの力はあるんじゃねえ?
「それだけの理由?お前、知らないのか?あの殺戮パーティーに招待されたやつは全員、消えて帰らなきゃダメなんだよ!なのに、お前は、1人だけ、消滅しなかったじゃないか!」
リアシュルテが地団駄を踏む。
「誰もそんな話は聞いとらん。やつらが消滅したのは、単にやつらが弱かったからじゃ。それに我を消せなかったのは、単にお前の力が弱かったからじゃろ。それを今更のこのこ来て、『お前を消す』?白々しい。」
うん、完全にリアシュルテの我が儘じゃん。
我が儘聞いて貰えなかったから殺すーとか、もはやただのガキじゃん。
世のお母様たち、お子さんには十分お気をつけを。
我が儘はちゃんと聞いてあげましょう。
その時。
リアシュルテのほんわかした空気が消えた。
代わりに、純粋な殺気が生まれる。
「もう、いい。お前がどう言おうが、どう思おうが関係ない。今、ここで、お前を殺す!」
リアシュルテが槍を下段に構える。
次の瞬間、その両足が地を蹴った。
リアシュルテが消える。
そして、また刹那。
サクラの目の前に、リアシュルテは現れた。
下段だったはずの槍が、大上段に変わっている。
「あ……!サクラ!」
俺の叫びと同時に。
リアシュルテの槍が落ちた。
地を穿った。
爆風が舞った。
砂埃で、視界が飛んだ。
塵で奪われた視界で、闇雲に動くことが出来ない。
ドォォォォオン……というリアシュルテが放った一撃の残響らしき音のみだけが、何が起きたのかを伝える。
普通槍振り落としただけでこんなドォォォォオンとは言わないんだけどね!
砂埃が晴れてくる。
埋めていた顔を上げた。
「大丈夫、サク……はっ!?」
驚愕した。
そして、絶望した。
サクラは消えていた。
そしてサクラがいたはずのその場所は、景色を一変させていた。
振り落とされた槍を起点に長さおよそ5メートルほど、草地が抉られていた。
それがあの斬撃の衝撃から発生したものだと、信じたくはなかった。
槍を振り落としたまま立っていたリアシュルテが、ふいに構えを解いて此方を向いた。
笑いを浮かべて。
「ひ……!」
俺は恐怖で一歩後退る。
サクラが、やられた?
あの人が、やった?
俺も、やられる?
俺も、消される?
怒るべき時かもしれない。
斬りかかるべき時かもしれない。
逃げるべき時かもしれない。
でもそれ以前に、怖い。
あんなの……勝てっこない……!
そう思い、また一歩後退りしようとした、刹那。
リアシュルテの肩越しに、微かな青い光が見えた。
幾度となく目にした、あの女と同じ色の。
俺は後退ろうとした足を止める。
そして、見慣れた蒼髪が目に映る。
「っ!?」
俺が無意識に笑みを浮かべていたこと、それに気付いたのは俺ではなくリアシュルテ。
俺の視線から一瞬で何が起きたかを理解したらしく、瞬時に振り返った。
ほぼ同時に、サクラが先程は持っていなかった長刀でリアシュルテに斬りかかる。
リアシュルテの槍のようにまっすぐ振り落とされた刀は、しかし咄嗟に出された当の槍で受けられる。
キィィィィインと威勢のいい金属音が響く。
だがそれも束の間、サクラは刀を戻し今度は横薙ぎに右側から振り払う。
「セイッ!」
「ぐっ……!」
リアシュルテは槍を逆手に持ち、それを受け止める。
結構負荷がかかっている。
しかしサクラは止まらない。
つづいて、左上からの両手斜め斬り。
リアシュルテは飛び退って回避。
距離をとってどうにかするつもりらしい。
が、かえってその距離を使い、サクラは斬り終えた体勢のまま地面を蹴る。
低く飛びながら体を限界まで時計回りに捻り、そのまま空中でコマのように横一回転。
先程とまったく同じ斜め斬りの構えになる。
「セヤアアアアアッ!!」
そしてリアシュルテまでの距離が帳消しになり、サクラが刀を叩きつけた。
「イッ!?」
確実だった。
が、刀が下ろされた途端。
リアシュルテの体が消えた。
かと思えば次の瞬間、サクラの数メートル背後に現れる。
うわ、何コイツズルい!
ピピーッ!
反則だ!
おい審判!レッドだレッド!退場させろ!
ん?いや待てよ。
サクラも初撃のときこれ使ってたよな?
じゃあお互い様だね。
レフェリー!今の取り消し!
サクラは重撃を空振り、地面に刀をぶつける。
途端、その一帯が穿たれる。
怖。
どんだけ力入れたらそんな薄っぺらい刀でこんな破壊力が産み出されるんや。
エグい。けど、その分サクラは瞬時に動くことが出来ない。
それを待っていたのかリアシュルテが右手を突きだし、魔方陣を宿らせる。
サクラのは蒼だったが、リアシュルテのは赤いラインの入った黒。
どうやら色は人によって違うらしい。
と。
「生!」
リアシュルテが叫び、魔方陣を中心に無数のこれまたどす黒い球みたいなのが5-6個出現する。
そして。
「立!」
と言えば黒い球がうねり、その形を小さな龍のように変化させた。
「ビャアアアア!」
と龍たちは鳴く。
と、ここでようやくサクラが立ち上がる。
しかし、そこまで。
「往!!」
リアシュルテが唱える。
「ビャアアアアアッ!!」
龍たちは一際強く鳴き、サクラのほうへと突っ込んでいく。
それと同時に、サクラもリアシュルテに向かって走り出した。
このまま行けば、龍たちはサクラを襲うだろう。
あの早さとあの量。
そしてあれらがリアシュルテの造ったものだということ。
簡単には勝てっこないはず。
普通は。
その時はもう目の前に迫る。
だが、キョウヤは恐れていない。
何故って?
一度この身をもって体験しているからだ。
彼女の力を。強さを。
サクラと龍たち、その距離が。
ゼロになる。
「食らえ!!」
リアシュルテが叫ぶ。
龍たちは一斉にサクラに食らいつこうとした。
しかし。
次の瞬間、龍は一匹残らず消えていた。
「何!?」
リアシュルテが驚き、焦る。
そのほんの僅かな間に、サクラはリアシュルテに詰め寄る。
そして、静かに唱えた。
「桜下残雪、映水。」