ゆ・ゆ・ゆ・夢の中
どれだけ眠っていただろう。
ふと、鳥たちの優しいさえずりが聞こえた。
俺はゆっくりと目を開ける。
心地よい朝だ。
まず俺はいつものように、ベッドの右にある窓を見た。
もうお日様は顔を出している。
俺もそれを見習って、大きく伸びをしながらベッドを降りる。
ふと床の冷たさが足に伝わってくるが、眠気覚ましには丁度よい。
部屋のドアを開け、廊下に出る。
そして右へと少し歩き、突き当たりの階段を降りた。
降りた先には居間があり、そこには先客がいた。
『おはよう、キョウヤくん。』
『ああ、おはよう。』
俺の妻だ。
でもその顔は、何故だかもやがかかっていてよく見えない。
見えるはずなのに。
『朝ごはん、出来てるよ。食べるでしょ?』
『う、うん、、。もちろん。』
だけど、そんなことを気にすることなんてない。
俺は今、夢に見た異世界スローライフを漫喫し、充実した人生を築き上げているのだから。
ああ、なんて美しい生活なんだ、、。
ずっとこのまま、ここにいたい。
何故だかそんな当たり前のことを言う。
俺はずっとここにいるのに。
転生してから、ずっと。
彼女は立ち上がり、台所の皿に朝ごはんを盛り付け始めた。
彼女は俺がこの世界で初めてあった人だ。
それからずっと一緒だ。
そのはずだ。
彼女はいつも俺のことを気にかけてくれる。
それにとても美しい。
そのはずだ。
まさに理想の妻だ。
理想の。
でも。
どうしてだろう。
彼女の名前を言えない。
知っているのに。
知っているはずなのに。
どうして。どうして。どうして。
『ところで、キョウヤくん。』
『どうしたんだ?』
『キョウヤくんは、なんで、ここにいるの?』
全部、消えた。
「!?」
飛び起きた。
顔中が汗でヒタヒタしているのが伝わる。
冷や汗だ。
今のは一体、何だったのだろう。
俺と一緒にいた、アイツ。
一体誰なんだ?
そう考える暇もなく、情況知らずの能天気な声がした。
「あ、ようやく起きたのお、キョウヤ。おはようなのじゃ。」
最悪な朝だ。
朝かどうかは知らんけど。
視界がヒノヒカリに慣れると共に、記憶が蘇ってくる。
そして、アイツの顔が目に映る。
蒼髪のクソ女神の。
相変わらずアホな顔をしている。
気絶前の光景が戻ってくる。
突っ込んでくるクソ女神。
イライライライライライラ
「ん、んんん、、、」
「ひっ!?」
サクラがちょっと引いた。
どうやら俺のイライラが具現化して威圧になっているらしい。
このままだとマッチョに覚醒しそうだ。(?)
顔にひきつり気味の笑顔を浮かべる。
落ち着け、落ち着け。
ひぃ、ひぃ、ふぅ。
ひぃ、ひぃ、ふぅ。
よし。
「な、なあ、サクラ、聞くけど、、俺を落としたのって、、わざとじゃないよな、、?」
「ち、違うのじゃ!我はそんなことせん!誰が好きであんな高度から人を落とすんじゃ、、そんなのただのサイコパスじゃろ。本来はあの後魔方陣で地上に転送する仕様なのじゃ!そ、それに、あれは主宰神さまがやったのじゃ!そなたも見ておったじゃろ、それは?」
え?あの幼女って主宰神だったのか。
日本でいう天照大神ってとこだろうか。
神の中の神があの幼女って、、
笑えねえ。
「まあとりあえず、多分お前が悪くないってことだけは解った。だからその分はもういい。けど。それよりも解らないことがある。」
うん。ほんとにわからんことが1つ。
サクラは首をかしげ、そして肩をすくめて解らないと示す。
ええ?
当人でしょうあなた。
みんなも思ってると思うけど。
「なんでお前、ここにいんの?」
サクラが「あ、、」みたいな顔をする。
そして、
「あ、いや。そのお、、まあ、、そなたが落とされた後すぐに、落とされたんじゃ。ゆうくいん様に。つまりじゃな、我、神をクビになったのじゃ。多分。」
そうもじもじしながら答えた。
ゆうくいんって誰?
あ、あの幼女のことか。
という前に。
クビになった?
クビになった?
神を、サクラが?
ん、んんんんん、、
「あっははははは!あーっはっはははは!クビ!サクラが、クビて!はっはははは!ははは!傑作だ!神が、クビ!あーっはっはははは!はははははは!」
「う、うるさいわい!別にクビだとは言われとらんのだからそうだとは限らんじゃろ!」
「あっはっはっははは!言われてないからって!落ちてる時点でそんなわけないでしょ!はっはははは!あはは!というか、神をクビになるなんて聞いたことないんだけど?あれ、もしかしてもしかして、サクラが初めてだったりして!いや、絶対そうだ!あはははは!」
思わず3度ほどむせる。
けどそれ以上に煽り倒した。
痛シャツのお返しだ。
倍返しにしてやったぜ!
「むむむ、、むう、、」
サクラがなんか泣きそうな顔でこっちを睨んでくる。
怖くはない。
むしろ可愛い。
俺はニヤニヤを強くする。
すると突然サクラのジト目が消え、まるで殺人鬼のような光のない目にかわる。
そして急に背後から悪寒がする。
サクラのまわりをどす黒い妖気が漂う。
ただそれは、「殺す」という明確な意思のみを伝えてくる。
先刻の威圧など比でもないほど、その威圧は気持ち悪かった。
なので俺は瞬時に土下座した。
「ごめんなさい許してください散々笑い者にしたこと反省します猛省しますだからお願いします殺さないでください」
このときの瞬発力は多分世界陸上二十四位くらいの速さ。
なんて軽い頭なんだ。
いや、脳は入ってる。
やがて、すっとその殺気は消えた。
そしてサクラは口を開く。
「ああ、それと。そなたの案内役、ユーではなく、我じゃぞ。」
世界が凍る。
「は?」
気づけば俺は立ち上がっていた。
そして。
気づけば俺はサクラに飛び掛かっていった。