ほんとの最後に向かって
ただ、振り返ることもない。ただ、前を向く。
「転職!韋駄天!」
門から一直線に伸びる大街道を、ひた走る。
きっと、この街道で幾つもの時代、幾多の人間が血を流し、数多の人間が己の信じた正義を背負って立ち続け、そして命を散らしたのだろう。
その道を俺たちは抗うかのように、必ず引き寄せる明日のために生きて走る。
止まりはしない。ここで志を叶えられず倒れた者と共にはならない。
止まりはしない。誰も、止めさせない。止められない。
少し前に烙印で焼かれた範囲から外れ、今はかつてのままの街道。
その大街道に沿って連なる隙間のない民家の群。
この通りから見る分にはまだ美しさが残っている。
しかし、それは表立っての話。きっと裏は血塗られている。お互いの正義の誤差として流れ出たその血で。
そう考えつつも、速度を上げていく。
城までの距離は大して変わっていない。
しかし、進んでいるのは事実だ。
実際もう既に、目の前には上層と下層を隔てる大門の姿が視認できる。
民家も、上層に近づくにつれて大きくなり、角ばり尖っていく。
未だ追撃はない。不自然なほどに。まるで、何かを狙って待ち望んでいるかのように、なんの気配もしない。
ふと不思議に思えば、ふと怪しめば良かったものを。
気の緩み。完全に、気が緩んでいた。
「このまま、何にも起きずに到着しそうだ」
ウェルに担がれたエルルさんがふとそう言った。
ん?ウェルに担がれたエルルさん?
そう。俺の韋駄天の早さに追い付けないエルルさん、ほんとは置いていきたいとこなんだけど、リアシュルテに連れていかなければと言われたので、仕方なく肩に担がれて頂いた。
字面だけ見ても想像しても、何にしても結局シュール。
よくその格好でなにも起きてないとか言えたな。
あとね、エルルさん。
「そういうの、俺たちの世界じゃフラグって言うんですけど……例えば……」
その時、前方で奇怪な音。
縄を捻ってちぎらせる直前のような危機感の音。
次の瞬間、街道の先に魔方陣が3つ出現。
俺の肩と同じくらいの高さに浮遊し、回転を重ねている。
次いで黒々とした魔方陣が、いっそう黒い煙を放つ。
中から、何かの毒々しい腕のようなものが見え……
「こんな感じのことをフラグ回収っていいます」
刹那、3つの魔方陣から同時に3つの影が出現する。
「死霊……!」
「今は相手出来ないっつーのに!」
俺は軽く舌打ち。
ここで止まることは出来ない。こんなものに時間を割いていれば、この先一生進めない。
ここで相手に、止めても無駄だと示さねばならない。
死霊との距離、凡そ百メートル。
決断しなければ、もう猶予はない。
ならば、こうするのみだ。
「ウェル、少し下がって俺の後ろへ。剣に近づくな」
「了解ぃ!」
指令を与え、ウェルにぴったり後ろへと回らせ。
死霊との距離60にして、深く息を吸い込む。
距離50。そこで叫ぶ。
「転職!魔導騎英!!」
白を帯びたローブを纏わせ、腰に吊った怒りの剣(仮)の束に手をかけ。
距離30で音高く抜き放つ。
この速度、無理に減速すれば反動を受け、ろくに立ち回れず伏せるのみ。
ならば、その速さを媒体にすればいい話。
この速度を最大限活用し、かつ更に加速し一気に3匹を斬り伏せられる技。俺はそれを知っている。
距離20、間合いは十分。もう鐘は鳴った。
右肩寄りに突き出すように刀を構え、詠唱を。
「リューゼ……グラエ!!!」
紺青の輝きが刀を、視界を覆い、地面を穿つがごとく踏み切り、神速で距離はゼロへ。
真ん中の一体は反応すらせず声もあげず、その胸の中心へと刀が接し。
青き炸裂と爆波が、三体を巻き込み無へと返した。
それを振り返ることもせず、
「転職!韋駄天!」
俺は余計に上がった速度を宿し、ただ走り続けるのみなのだ。




