04 艦名・クサナギ (2)
「え……?」
五人の勇者が、驚いて声をあげました。
まばたきの間に、見たこともない機械の使い方がわかるようになったのです。
たくさんあるスイッチ、レバー、ダイヤルが、それぞれ何を制御するものか、パネルに映った数字や図形が何を意味するか、そのすべてがわかります。
「な……何が起こったのー?」
「いつまでも戸惑っていてもらっては困るぞ!」
艦長が鋭い声をあげました。
そうです、今、基地はアンドロイドの攻撃を受けているのです。ぐずぐずしている暇はありません。
「みんな、各機関のチェック、よろしく頼むよ!」
「了解!」
ハクトの指示に、全員がうなずき、準備を始めました。
『艦橋、こちら機関室!』
機関室からの通信が入りました。
急いでハクトがスイッチを操作し、通信に答えます。
「こちらハクト、どうぞ!」
『光子エンジン、起動シーケンスに入るよ! そちらでモニターできるね!』
「オ任セクダサイ」
答えたのはシルバーです。
いつのまにか操作パネルとケーブルを接続し、全機関のモニターを始めています。
「魔導エンジン二基、全エネルギーバイパス、正常ニ稼働ヲ確認」
「魔導エンジンより制御系へエネルギー供給開始。索敵機能、起動するよ!」
「了解。船外モニター起動、映像、正面パネルに映します」
ハクトに答えたルリの言葉とともに、艦橋正面の大きなパネルが点灯しました。
船には乗り込まなかった妖精たちが映し出されました。どの妖精も完全武装で、心配そうに船を見上げています。
「全武器管制、起動します! え、これ……」
「どうした」
アカネが困惑したのを見て、艦長が問いただしました。
「主砲四基、エネルギー回路接続できない。使えないよ!」
『すまんアカネ。修理、間に合ってないみたいだ』
アカネの報告に、機関室からリンドウが答えました。
『ちょっと無理して、全力で撃っちゃってね。エネルギー漏れがひどくて、回路をカットしてる』
「ひょっとして……僕たちがマレと戦ってたときの、あの光ー?」
ヒスイは、アゾット号で飛んでいるときに見た光景を思い出しました。
「世界を滅ぼす魔女」となったマレに圧倒され、追い詰められたデュランダルと勇者たち。その危機を救ってくれたのは、闇を貫き粉砕した白い光でした。
「そうだ。あれが、この船の主砲だ」
艦長がヒスイに答えたときでした。
ドォンッ、とひときわ大きな爆発音が聞こえ、基地が大きく揺れました。
正面パネルに映る妖精たちが緊迫した様子となり、武器を手に隊列を整えます。
「ルリ、状況確認、急げ!」
「はい、艦長! ハクトさん、基地の監視機能と接続できますか?」
「まかせたまえ!」
ハクトが素早く操作すると、ルリの手元に次々と情報が映し出されました。
「アンドロイドが、基地正門を突破! 基地内に侵入しています!」
「発進路の全隔壁を閉鎖するよう連絡! 時間を稼げ!」
「了解!」
「リンドウ、光子エンジン始動までどれほどか?」
『起動に必要なエネルギーがたまるまで、あと四十分はかかるよ! だけど……』
「どうした?」
『エネルギーのメイン回路が、どうしても開かないんだよ! 原因不明、調査中!』
◇ ◇ ◇
「なに?」
リンドウの報告に、艦長は眉をひそめました。
エネルギー回路が開かなければ、船は動くことすらできません。もしもこの状態でアンドロイドがここへ来たら、なすすべもなく破壊されてしまうでしょう。
『ああもう、なんなんだい、どこもおかしくないのに!』
「コチラデモ、確認……異常個所、見当タリマセン」
「ううむ、こちらでも異常は認められない。どういうことだ?」
「アンドロイド、第二隔壁に到達しました。突破されるのは時間の問題です!」
「メイン回路が開かないと、機銃も撃てないよ!」
勇者たちもあせりを隠せず、なんとかしようと右往左往しています。
どうする、と艦長は静かに正面パネルを見ました。
発進路内の監視カメラがとらえた、アンドロイドの姿が映し出されています。すごい数のアンドロイドが次々と基地に侵入し、第二隔壁を壊そうとしています。
『艦長!』
艦長の頭の中に、声が響きました。
勇者たちにも聞こえているのでしょう、驚いた顔をしています。
パネルが切り替わり、立派な軍服姿の妖精が映し出されます。この基地の司令官です。
『お伝えすることがあります』
司令官は敬礼し、申し訳なさそうな顔をしました。
『星渡る船が飛び立つために、どうしても艦長にやっていただかねばならぬことがあります』
「私に? なんですか?」
『この船に……どうかこの船に、名前を付けてください!』
「名前?」
「星渡る船」ではないのかと問い返そうとして、艦長は思い出しました。
初めてここへ来た日、サインを求められた書類。あの書類には確かこう書かれていたのです。
艦名:星渡る船(仮)
そう、「星渡る船」は、この船の正式な名前ではないのです。
「……事前に言っておいてほしかったのですが」
『申し訳ございません』
文句は言いましたが、なんとなくわかりました。
きっと、このタイミングでなければ、艦名を決められなかったのでしょう。
なぜなのかはわかりません。尋ねても答えてはもらえないでしょう。これ以上文句を言っても、仕方ありません。
「艦名、か……」
艦長は指先で、コツン、と机をたたきました。