04 艦名・クサナギ (1)
艦長を先頭に、カナリアたちは船へと続く橋を駆け抜けました。
「ヒスイッ、かばん!」
「え、あ、これ?」
船に乗るなりリンドウが叫び、ヒスイは慌てて背負っていたジェラルミンケースをリンドウに渡しました。
「これ、なんなのさー?」
「この船が動くための、最後のパーツさ」
ジェラルミンケースを開くと、直径五十センチはある、緑色の大きなレンズが入っていました。
「こいつには、力を増幅させる魔法が埋め込まれていてね。このバカでかい船を動かすには、絶対に必要なんだ」
レンズに傷一つないことを確認し、リンドウは「よし」とケースを閉じました。
「私は機関室へ行く。みんなは艦長と一緒に艦橋へ!」
「了解!」
「ヒスイ、操縦は任せたよ!」
親指を立ててそう言うと、リンドウは紫色のツナギ姿の妖精とともに、機関室へと走り出しました。
「僕? 僕が操縦するの!? うっひゃーっ、それ最高ー!」
「ヒスイくん、浮かれてないで急ぎたまえ!」
「あいあいさー!」
カナリアたちはエレベーターに飛び乗り、艦橋のある五階へとあがりました。
「カナリア、だったね」
エレベーターを降りたところで、艦長がカナリアに声をかけました。
「あ、はい」
「濡れたままではカゼをひく。着替えてきなさい」
そういえば、海に落ちてそのままでした。エプロンも服も生乾きで、泥だらけです。
ピィッ、とオレンジ色のツナギ姿の妖精が、カナリアを手招きしました。更衣室へ連れて行ってくれるようです。
「うん、わかった」
カナリアは艦長の言葉にうなずき、妖精とともに更衣室へと向かいました。
◇ ◇ ◇
機関室へ向かったリンドウも、ずぶ濡れのツナギを大急ぎで着替えていました。
「各機関最終チェック! 魔導エンジンに火を入れて!」
「ピィーッ!」
着替えながら矢継ぎ早に指示を飛ばすと、妖精たちがキビキビと走り回ります。
フォォォーン、と魔導エンジンの音が響き始めました。
海賊船デュランダルを生まれ変わらせた魔導エンジン。しかし、その魔導エンジンですら、この「星渡る船」を動かすにはパワー不足でした。
「光子エンジン、最終点検! 増幅レンズ持ってきて!」
光子エンジン、それはこの船のメインエンジンです。
理論上、光速に最も近いとされるエンジンですが、動かすためには莫大なエネルギーが必要です。その莫大なエネルギーを、二基の魔導エンジンが生み出す力を魔法が埋め込まれたレンズで増幅させて得よう、というのがリンドウの設計です。
「マレ……借りるよ」
マレが増幅の魔法を定着させてくれた宝石。それを磨き上げて作ったエネルギー増幅レンズ。これがあれば、「星渡る船」は飛び立つことができるはずです。
慎重に、一ミリの狂いもなく、決めた場所へ。
天才と言われるリンドウでも、とても難しい作業でした。爆発音が聞こえてきて気持ちがあせり、手元が狂いそうです。
(ええい、落ち着け!)
リンドウは大きく深呼吸しました。
大きく息を吸い、吐き、それを何度も繰り返すうちに、意識がとぎすまされ、爆発音が遠のいていきます。
あせらず、ていねいに、一つ一つの作業を確実に。
結局はそれが、一番早い方法なのです。
指先に全神経を集中し、頭の中に思い描いた作業を進めていきます。レンズの位置がピタリと合い、それを固定する金具をつけ、慎重に、ゆっくりとネジを止めて固定します。
「……よし!」
ようやく作業が終わりました。
(大丈夫、完ぺきだ!)
何度も点検し、問題ないことを確認して、リンドウはパワーユニットのふたを閉じました。
「オッケー……みんな、準備は完了したね!」
「ピィッ!」
「よし、行くよ!」
リンドウは、ぱんっ、とほおを叩いて、「ここからだ!」と気合を入れました。
「光子エンジン、起動シーケンスに入る! 各自、持ち場につきな!」
「ピィーッ!」
◇ ◇ ◇
艦橋に到着すると、五人の勇者はそれぞれの席に着くよう言われました。
どこに座ればいいんだろうと、首をかしげた五人を妖精が導いていきます。
赤いツナギ姿の妖精に導かれて、アカネが前席右、砲術士席へ。
緑のツナギ姿の妖精に導かれて、ヒスイが前席中央、航法士席へ。
白のツナギ姿の妖精に導かれて、ハクトが前席左、技術士席へ。
青のツナギ姿の妖精に導かれて、ルリが後席右、レーダー席へ。
また、後席左の機関士席には、機関室へ行っているリンドウに代わり、シルバーが置かれました。
艦橋の最後部中央には、艦長が座ります。
「各自、発進に向けて準備!」
「いや、そう言われても……」
艦長の指示に、勇者たちは困惑しました。
見たばかりの船、それも巨大な宇宙戦艦に、いきなり乗って操縦しろ、というのです。できるわけがありません。
「ピィッ!」
そんな勇者たちの手に、妖精たちが触れました。
すると、不思議なことが起こりました。