03 勇者・カナリア (2)
「これは……リンドウ君が見つけたのかね?」
ハクトが問うと、リンドウは腕を組み、大声で笑います。
「見つけた? なーに言ってんの、私が作ったんだよ」
「作ったぁ!?」
「いくら探しても見つからないなら、作った方が簡単だと思ってね」
「それを簡単と言うのは、リンドウさんだけのような気がしますが……」
「まあね、私、天才だし。ま、みんなにも手伝ってもらったけどね」
「みんな?」
「ピィーッ!!!!!」
船を見上げるカナリアたちを、大歓声が包みました。
妖精です。
たくさんの妖精が「星渡る船」の上にいて、勇者の到着にわき立っているのです。
「私たちはこれに乗って、シオリを助けに行く」
「これに乗ってかね? しかし、私たちでこんな船を操れるのかね?」
「大丈夫さ。妖精たちが助けてくれる。それに、頼もしい艦長がいるからね」
「艦長?」
コツ、コツと、静かで力強い足音が近づいてきました。
その足音に、みんなが一斉に振り向くと。
白い軍服を着た、女の人が歩いてくるのが見えました。
※ ※ ※
その人を見た瞬間、すぅっと、カナリアの意識が遠くなりました。
背の高い、女の人でした。
白い軍服に身を包み、長い黒髪は一つに束ねています。
口元に笑みを浮かべ、優しいまなざしでカナリアたちを見ていますが、その瞳の奥にはゆるぎない強い光がありました。
──どうして?
心の奥底で、疑問が生まれました。
どうして、なんで、という疑問が泡のようにふくらんでいきます。やがて疑問は心の奥底から浮かび上がり、カナリアの口ではじけました。
「どうして……大人が、いるの……?」
※ ※ ※
「カナリアくん?」
カナリアの様子がおかしいことに気づいたハクトが、声をかけてきます。
「どうかしたのかね?」
「え、あの……だって……」
あれ、と思いました。
ハクトの顔を見た途端、カナリアの中に生まれた疑問が消えてしまい、何を疑問に思っていたかすら忘れてしまったのです。
「あ……あれ? 私……あれ?」
カナリアが戸惑っていると、リンドウが前に出て、女の人に敬礼しました。
「艦長、遅くなりました!」
「お疲れさま。よくやってくれました」
リンドウに敬礼を返し、女の人がねぎらいの言葉をかけます。
あっ、とカナリアは思いました。
その女の人の声に、聞き覚えがあったのです。
そう、「世界を滅ぼす魔女」を撃ち抜いた、あの白い光が放たれる前に聞こえてきた声です。
「ようやく会えましたね、勇者のみんな。ずっと、待っていましたよ」
「……リンドウくん、説明してほしいのだがね」
さすがのハクトも困惑顔です。アカネも、ルリも同じような顔で、ヒスイは「わけわかんないよー」と頭をガシガシかいています。
「まあ、そりゃそうだね」
リンドウが肩をすくめ、説明しようとした時でした。
ドォンッ、と大きな爆発音が聞こえてきました。
わずかですが、基地が揺れます。
妖精たちがざわめき、何人かの妖精が素早く動いて基地の外へ向かいました。
「リンドウ。その時間は、なさそうです」
天井から落ちてくる土ぼこりを見て、艦長の顔が厳しいものになりました。
爆発音は、二度、三度と続きました。アンドロイドを迎え撃ちに出た妖精たちは、押し切られてしまったのかもしれません。
「くそっ、敵を連れてくることになっちゃったか」
「そうですね。しかし、間に合わなかったわけではありません」
カツン、と艦長の靴音が響きました。
たったそれだけで、ざわめいていた妖精が静まり返ります。勇者の到着に沸き立っていた空気が、ピン、と張りつめたものになり、妖精たちが引き締まった顔で艦長を見上げます。
「これより、発進準備に入る! 総員、配置につけ!」
「ピィーッ!!!」
凛と響いた艦長の声に、妖精たちが勇ましい声で応えました。
「行くぞ、勇者たち」
がらりと変わった艦長の雰囲気に、カナリアたちは息を呑みました。
ついて来い、ときびすを返し、走り始めた艦長。その背中は、怖いというよりは、とても頼もしいものでした。
「ほら、グズグズするんじゃない、置いていくよ!」
「わ、ま、待ってよー!」
艦長に続いて駆け出したリンドウを、ヒスイが慌てて追いかけていきます。
「行きましょう!」
「ああ、行こう!」
「うむ、行くしかあるまい!」
ルリが続き、アカネも駆け出し、ハクトもシルバーを背負って走り始めます。
「あ、ちょ……ちょっと、待ってー!」
カナリアも慌てて駆け出しました。
そうです、ぼーっとしている場合ではありません。たくさんのアンドロイドが、勇者を消そうと押し寄せているのです。グズグズしている時間はないのです。
「ほら、早く!」
立ち止まって待ってくれたアカネが、追いついたカナリアの手を取りました。
その手をぎゅっと握ると、アカネもぎゅっと握り返してくれます。
「行くよ、勇者・カナリア!」
「うん!」
勇者・カナリア。
そう呼ばれたことが、何だかくすぐったくて、嬉しくて、とても誇らしくて。
カナリアは「やるぞー!」と、気合を入れてアカネと一緒に走り出しました。