03 勇者・カナリア (1)
ガツン、と衝撃を感じ、カナリアの意識が叩き起こされました。
(あれ……?)
海に落ちたはずなのに、息ができます。
助かったのでしょうか。
ここはどこでしょうか。
あれからどうなったのでしょうか。
「ピーッ!」
悲鳴のような妖精の声が聞こえ、カナリアの意識が一気にはっきりとしました。
自分を背負ってくれている、リンドウが見えました。
リンドウの向こうに、腕を剣にしたアンドロイドが見えました。
そして──アンドロイドの剣が、リンドウの胸に突き立てられているのが見えました。
「ひっ……」
うそ、なんで、どうして、と、カナリアは血の気が引きました。
でも、よく見ると。
アンドロイドの剣は、見えない壁のようなものに阻まれて、リンドウには届いていませんでした。
「刺さら……ないよ!」
リンドウがうめくように言い、アンドロイドをゲンコツで殴り飛ばしました。
殴り飛ばされたアンドロイドが、ベコリとへこみ、壁に叩きつけられました。バチッ、と音がして、アンドロイドはそれきり動かなくなります。
「まったく。驚かせるんじゃないよ」
「リ、リンドウ! 大丈夫なの! 今、剣で刺されてたよ!」
「うわっ!」
カナリアがいきなり大声を出したので、リンドウが驚いて声をあげました。
「びっくりしたー……カナリア、気がついたかい?」
「びっくりしたのは私だよ! 今、剣が……」
「ん? ああ、大丈夫さ。お守りがあるからね」
リンドウはニヤリと笑うと、胸ポケットから手帳を取り出しました。
「効果抜群のお守りでね。たぶん、天使の攻撃だってはねのけてくれるよ」
「お守り……」
ふと。
そのお守りを、知っているような気がしました。
どうしてそう思ったのかはわかりません。気がつけばカナリアは、手を伸ばしてリンドウの手帳に触れようとしていました。
「おっと、これはダメ」
ですが、手に触れる直前で、ひょい、とかわされました。
「私の大切な手帳だからね」
「え……あ、ごめんなさい」
カナリアは慌てて謝り、伸ばした手を引っ込めました。
「歩けるかい?」
「う、うん……ねえ、ここ、どこなの? コハクは?」
「ここは秘密基地。コハクは……天使と一緒に、行っちまったよ」
カナリアを下ろしながら、リンドウは簡単に説明しました。
ですが簡単すぎて、カナリアにはさっぱりです。
「秘密基地?」
「話は後。ここは危ない、中に入るよ」
「うん」
リンドウに手を引かれて洞窟に入ると、先に入っていたアカネたちが待っていました。
「カナリアくん、気がついたのかね! 痛むところはないかい?」
「うん、大丈夫。ありがとう……」
不意に。
カナリアの頭が真っ白になりました。
でもそれはほんの一瞬のことで、すぐにみんなの名前を思い出しました。
「ハクトも、無事だったんだね!」
「うむ、この通りだ」
「アカネも、ルリも、ヒスイも。みんな、よかった!」
ハクトが胸を張り、その後ろでアカネたちが笑顔で手を振っています。
「おっと、新しい仲間のシルバーくんもお忘れなく」
「シルバー……あ、アンドロイドの! うわ、首だけ?」
「ヨロシク、カナリア」
「ピーッ!」
再会を喜び合う勇者たちを、妖精が大声で呼びました。
「のんびりしていられないよ。急ぐよ、みんな!」
リンドウを先頭に、ランプが灯された洞窟を大急ぎで奥に向かいました。
「ひぃ、ひぃ、そろそろ、マラソンは、終わりにしてほしいんだが!」
「僕ももう、疲れたよー」
「あと少しだよ! あの階段を登るよ!」
「うえー、あんな長い階段登るのー」
リンドウ、ハクト、ヒスイ、カナリア、ルリ、アカネの順に階段を駆け上がります。
カンカンカンカン、と六人の足音が金属音となって鳴り響きました。
すると、その音に応えるように、階段の向こうからざわめきが聞こえてきました。
「なんでしょうか?」
「みんな、勇者の到着を待ちわびていたのさ」
「みんな?」
「さあ、着いたよ!」
長い階段を登りきり、そこから見えた光景。
あまりに予想外で、リンドウ以外の五人は目を丸くしました。
「は?」
「な、なんですか、これ!」
「うわー!」
「これはこれは……」
「すっごーい!」
まるで、お城のようでした。
それも、おとぎ話の王様が住んでいるような、きらびやかなお城ではありません。
小さな町なら一撃で吹き飛ばしてしまいそうな、巨大な大砲が四つもあります。さらに、数え切れないほどたくさんの機銃もついています。
お城はお城でも、これは戦いの最前線に建つ、要塞としてのお城です。
「リンドウ、これ!? これが、世界を救う翼!?」
「ああ、そうだよ。これが世界を救う翼。わが海賊団が探し続けていた、『星渡る船』だ!」
これが、と勇者たちは「星渡る船」を見上げました。
大きさは、デュランダルの倍近く。
白銀に輝く船体は、幅広の剣を横にしたような形をしていて、剣の柄に当たる部分は翼になっています。
──月くらい簡単よ!
──きっと、もっと遠くにだって行けるよ!
シオリの、そんな言葉が聞こえてきたような気がします。
ええ、そのとおりです。
この船ならきっと、宇宙の果てにだって行けるに違いありません。