02 秘密基地 (2)
赤色。
青色。
緑色。
白色。
紫色。
橙色。
六人の妖精が先頭を走り、その後をヒスイ、ハクト、リンドウ、ルリ、アカネの順についていきます。
「ひぃ、ひぃ……いやはや、シルバーくんを背負って走るのは、なかなか、つらいね」
「カナリアよりは、軽いでしょ!」
目を覚まさないカナリアを背負っているリンドウも、息が上がっていました。
「ピーッ!」
背後から、妖精たちの声と激しい戦闘音が聞こえてきます。アンドロイドが押し寄せ、それを撃退しようと妖精たちが奮戦しているのです。
「ピピッ!」
先導する赤い妖精が、「こっちだ!」と洞窟に飛び込みました。
「ま、また、洞窟ですか……」
「ピィッ!」
暗いところが苦手なルリが、泣きそうな顔をしています。青い妖精がルリの肩に飛び乗り、「大丈夫だから」という感じで頭をなでていました。
「ええい、根性です!」
ルリが祈りを捧げると、ラピスラズリのペンダントが光を放ちます。その光で道を照らしながら、勇者たちは洞窟を走り抜けました。
「ねえ、この洞窟、どこに続いてるのー?」
ゆるく下りながら、どこまでも続く洞窟に不安になったのか、ヒスイがリンドウを振り返り尋ねました。
「秘密基地さ」
「秘密基地? ……あっ!」
何かを思い出した顔で、ヒスイが顔を輝かせました。
「世界を救う翼!」
「おや、覚えてたかい」
「リンドウ、そこで妖精と一緒に立ってたよね!」
「は? あんた、あれ見えてたの?」
「僕の視力を、甘く見ないでよねー!」
「何のこと?」
最後尾を走っていたアカネが、尋ねました。
「私たち、妖精に『星渡る船』のところへ行く、て言われてるんだけど!」
「ああ、その『星渡る船』だよ! 私たちが乗る、世界を救う翼さ!」
「世界を救う翼? それはいったい……」
「警告!」
シルバーが電子音とともに告げました。
「後方、多数ノエネルギーヲ感知。アンドロイドガ、洞窟ニ突入シタモヨウ」
「くそ、早いね! 出口までは!?」
「前方、約五百メートルデス。オ急ギクダサイ」
勇者たちは大急ぎで洞窟を駆け抜けました。
「よし、出た!」
勇者たちが出たのは、断崖絶壁の中腹でした。
空には太陽でもない、月でもない、不思議な淡い光があって、ぼんやりと世界を照らしています。
「ここ、夜じゃないんだ」
「これは海……いえ、湖でしょうか?」
眼下に、鏡のように静かな、大きな水面が見えました。海と間違えそうな大きさですが、周囲をぐるりと断崖に囲まれています。湖のようです。
「ほら、ぐずぐずしないで、走って!」
「ま、まだ、走るのかね……」
リンドウに急かされて、勇者たちはまた走り出しました。
断崖に作られた道を、転がりそうになりながら駆け降りていきます。
「来たっ!」
勇者たちが崖を駆け下りると同時に、洞窟の方から爆発音がしました。
アンドロイドが飛び出してくるのが見えました。しかし、追いすがった妖精が叩き落します。
「ピーッ!」
急げ、と先導する妖精が声をあげました。
「ひぃー、急げ、急げー!」
先頭に立ったヒスイは、必死の形相で走りました。
妖精たちが向かっているのは、はるか先に見える、大きな洞窟でした。
「おや?」
その洞窟から、たくさんの光が飛び出して来ました。
妖精です。
「クスノキの道」の出口で待機していたのと同じぐらいの数の妖精が、武器を手に飛び出して来たのです。
「ピピーッ!」
「ピッ!」
妖精たちは勇者に合図をすると、後ろの洞窟から出てくるアンドロイドたちに攻撃を開始しました。
「よし、今のうちに!」
「走れー!」
「ひぃぃ、もうかんべんしてくれたまえー!」
援軍が来た妖精が一時的に押し返したものの、アンドロイドは次々とやってきてきます。いったいどれだけの数がいるのでしょうか。
「何が何でも、勇者を消したい、てことかね!」
「だろうね!」
あまりの数に、妖精たちは再び押され始めます。壁となって必死で戦っていますが、アンドロイドの猛攻を支え切れません。
「焔ぁっ!」
妖精が作る壁を突破して襲って来たアンドロイドに、アカネが剣を一閃しました。
炎の渦が巻き起こり、数十体のアンドロイドを一気に焼き払います。
「ピィッ!」
アカネの援護で態勢を立て直した妖精たちが、再び壁となって勇者たちを守りました。
行け、と言うように、親指を立てて笑顔を浮かべます。
「急いで! 私たちがやられたら、意味がないんだよ!」
「でもリンドウ、このままじゃ妖精が!」
「いいから早く! 走るんだ!」
「……わかった!」
アカネはもう一度だけ剣を振るい、炎でアンドロイドをなぎ払うと、洞窟に向かって駆け出しました。
「うわー、でっかい洞窟ー」
「これは、まさに秘密基地だね」
ようやくたどり着いた洞窟は、とても大きな洞窟でした。
あのデュランダルですら、余裕で通り抜けられそうな洞窟です。入口には金属でできた頑丈な扉があって、ほんの少しだけ開いていました。
「あそこに飛び込んで!」
「あいあいさー!」
ヒスイを先頭に、ハクト、ルリ、アカネが飛び込みました。
「ピィーッ!」
続いてリンドウが飛び込もうとした時です。
妖精が鋭い声をあげました。何事かと思って振り向くと、はるか上空から急降下して来たアンドロイドが、腕を剣にしてリンドウに突っ込んでくるのが見えました。
(しまった!)
リンドウがそう思った瞬間。
アンドロイドの剣が、リンドウの胸に突き立てられました。