01 クスノキの道 (3)
話し合いを終えた妖精が、一斉に行動を開始しました。
残ったリーダーの赤い妖精が四人──いいえ、シルバーを入れて五人の前に立ち、ビシッ、と敬礼をします。
「ピピピッ」
「ワカリマシタ」
妖精に話しかけられ、シルバーがうなずきます。どうやら通訳を頼まれたようです。
「ピピピピピッ、ピピピッ」
「コレヨリ、予定ヲ変更シ、『クスノキの道』ヘ向カイマス」
「ピピピッ、ピピピッ、ピピピピピッ、ピピッ!」
「道中、アンドロイド軍団ニ、襲撃サレル可能性ガ高イ。戦ウ準備ヲ、シテクダサイ」
「わかった」
「わかりました」
妖精の言葉に、アカネとルリがうなずきました。
「えー、僕、ケンカ苦手なんだけどー」
「はっはっは、安心したまえ、私も苦手だ」
「安心できなーい」
「大丈夫だ、襲ってくるやつは、私が切り捨てる」
「ええ、私が守り切ってみせます」
「周囲ノ警戒ハ、オ任セクダサイ」
アカネが伸ばした手に、ルリが自分の手を重ねました。続いてハクトが、最後にヒスイが手を重ね、その上に赤いツナギ姿の妖精がぴょんと飛び乗ります。
「よし、行こう!」
エイ、エイ、オー!
五人の勇者と妖精は、勇ましい声を上げ、ヨットに乗り込みました。
◇ ◇ ◇
「クスノキの道」は、シオリとマレがみんなに内緒で使っていた、世界中へ行ける魔法の道でした。
「そういえばあの二人、時々いなくなってたね」
「この道を使って、あちこちに行っていたのでしょうか?」
「リンドウの工場に、ふらっと遊びにきてたりしてたなー。そういうカラクリだったんだー」
五人は、妖精たちが大急ぎで改修したヨットで「クスノキの道」に飛び込み、全速力で東へと向かいました。
「え、なにこれ、ヨットが飛行船になってるの? すごーい!」
「こら、はしゃぐなヒスイ!」
ヨットは、デュランダルに比べれば小さいですが、それなりの大きさです。でも「クスノキの道」は、ヨットがそのまま通れるぐらいの広さがありました。これだけの広さがあれば、マレがほうきで全速力を出しても平気だったでしょう。
「前方、距離千五百。複数ノエネルギー反応アリ。アンドロイド、デス」
出発して五分ほどたったとき、シルバーが警告を発しました。
「きたか。数は?」
「約三十体」
アカネはキャビンに立ち、剣に手をかけました。
海賊団のみんなは知らなかった「クスノキの道」ですが、天使は知っていました。自由に行き来されては困ると考えたのでしょう、天使はかなりの数のアンドロイドに「クスノキの道」を見張らせていました。
「妖精くんは全員戦ってくれたまえ! ヒスイくん、操縦できるかね?」
「まっかせて、やってみせる!」
ハクトの指示で、ヒスイは妖精と交代し、操縦席に立ちました。
「ええと、これが舵で、アクセルがこれ……なんとかなるよー!」
「ここは逃げの一手だ! アカネくんは妖精とともに、前方のアンドロイドを全力で叩いて進路を確保! ヒスイくん、アカネくんが敵を退けたところを全速力で駆け抜けて! ルリくんは横と後ろの守りを頼む!」
「わかった!」
「承った!」
「わかりました!」
前方に、金色の光が見えました。
アンドロイドです。
「行くぞぉ……」
アカネが剣を抜きました。大きく深呼吸してから構えると、刀身が赤く光り始めます。
「焔ぁっ!」
剣が炎となり、飛んできたアンドロイドをなぎ払いました。
一撃で十体近くが撃ち落とされました。慌てて横に逃れたアンドロイドですが、妖精たちが勇ましい声をあげて飛びかかり、次々と叩き落としていきました。
「させません!」
叩き落とされたアンドロイドが姿勢を戻し、後方から攻撃してきます。ですがその攻撃は、ルリが作り出した守りの壁で弾かれました。
「ピーッ!」
「よし!」
三十体のアンドロイドは、あっという間に撃退しました。
ですが、ホッとしたのもつかの間、すぐに次のアンドロイドがやってきて、ヨットを沈めようと攻撃してきます。
「ピピピーッ! ピピピピッ、ピピッ!」
「目的地マデ、アト七千! ソコへ行ケバ、友軍ガ待ッテイマス!」
「了解ー! 任せて、僕が必ず、行ってみせる!」
「倒さなくていい! とにかく駆け抜けるんだ!」
「わかったぁっ!」
「わかりましたっ!」
三十体が五十体に、百体に、さらに倍にと、集まってくるアンドロイドの数が増えていきました。
ですが、アカネが振るう炎の剣がアンドロイドをなぎ払います。
ルリが作る守りの壁が、アンドロイドの攻撃を防ぎます。
行かせまいと邪魔をするアンドロイドは、ヒスイが巧みな操縦でかわします。
刻一刻と変わる状況を、ハクトが瞬時に判断し、的確な指示で切り抜けます。
「前方、空間ニ、ユガミアリ!」
「ピピピーッ!」
シルバーの報告に、妖精が声をあげました。
「ヒスイ殿、ユガミニ飛ビ込ンデクダサイ! アレガ出口デス!」
「承ったぁ!」
「全員、キャビンに入って!」
ハクトの指示に、アカネとルリが大急ぎでキャビンに飛び込みました。
「行くよー!」
ヒスイはアクセルを全開にし、追ってくるアンドロイドを振り切りると。
見えてきた空間のゆがみに、そのまま突っ込んでいきました。