01 クスノキの道 (1)
荒れていた海が鎮まっていきました。
すると、海の上に金色の光が生まれました。
光はどんどん大きくなり、黒い大きな影を包み込むと、ゆっくりと空へ昇っていきました。
「うっひゃー」
その様子を双眼鏡でのぞいていた、若草色の飛行服を着た女の子──飛行士・ヒスイは、「まじですかー」と驚きの声をあげました。
「あの光の中に見える黒い影、デュランダルだよー。空飛んでる、いいなー」
「ヒスイ。うらやましがってる場合じゃないだろう」
「そ……そう……ですよ。ヒスイ……さん……」
あきれた声と、息も絶え絶えの声が聞こえました。
あきれた声は、腰に小ぶりの剣を差した女の子、剣士・アカネ。
息も絶え絶えな声は、青い法衣に身を包んだ女の子、巫女・ルリ。
ルリは疲れ切った顔をして、心配そうな顔のアカネに抱きかかえられています。
「ルリっち、大丈夫?」
「さ、さすがに……きつかった、です」
三人は、妖精たちに導かれ、とある島で再会しました。そして小さなヨットに乗って、ここまでやってきたのです。
ですが、アジトがある島まであと少しというところで、天使と悪魔が激突し、海が大荒れになったのです。
危うく沈むところでしたが、ルリが祈りを捧げ、守りの壁を作ってヨットを守ってくれました。ルリが守ってくれている間に、アカネとヒスイが妖精たちとともにヨットを操り、どうにかこの島に到着したのです。
「無理させてごめん。でも助かったよ、ルリ。ありがとう」
「……はい」
アカネの言葉に、ルリは誇らしげな笑顔でうなずきました。
「みんなを守ることができて、うれしいです」
「ピイッ!」
二人の周りにいた妖精たちも「よくやった!」と親指を立てています。
赤、青、そして緑のツナギ姿の妖精たち。
妖精の目的が何かはいまだにわかりませんが、味方であることは確かなようです。
「ねー、アジト、吹っ飛んじゃったけどー。どうする、行くー?」
「どうしたものかな」
ヒスイの問いに、アカネはルリの背中をさすりながらうなりました。
どうやら妖精たちは、三人をアジトへ連れて行こうとしていたようです。
ですが、そのアジトが吹っ飛んでしまいました。何が待ち受けているかもわからず、このまま行っていいものかどうか、悩むところです。
「ピッ?」
「ピピピッ?」
「ピーピ……」
妖精たちも輪になって、何やら話し合っています。妖精たちにとっても予想外の出来事だったのでしょう。
「……あ! アカネっち、ルリっち、あれあれ!」
再び双眼鏡をのぞき周囲を確認していたヒスイが、大声をあげました。
「なに?」
「どうしました?」
「あそこ! 海! ボートで誰かが来るよー!」
ヒスイが指差す先に、確かにボートが見えました。
船首に小さな明かりを灯し、暗闇に包まれ荒れた海を右に左にと揺れながら、しかし確実にこの島に近づいてきます。
「あっ! あれ、ハクトだよー!」
ボートに乗っていたのは、ツインテールに白衣姿の女の子、医者・ハクトでした。
「ピーッ!」
妖精たちが、声をあげて一斉に飛び出していきました。緑色の妖精がボート目指して空を飛び、赤色の妖精はピョンピョンと小石のように海面を飛び跳ねていきます。
「ピーッ、ピーッ!」
そして青色の妖精が、たいまつに明かりをつけて振り、ボートを砂浜へと誘導します。
「うひゃー、すばやいなー」
「相変わらず、見事な連携ですね」
「あいつら、ぜったい訓練された軍人だよね」
三人が感心して見守る中、ボートは無事に島へたどり着きました。
「いやはや、助かった。誘導、感謝するよ」
「ピッ!」
「ピピッ!」
ボートに乗っていた白いツナギ姿の妖精の敬礼に、赤、青、緑の妖精もビシッと敬礼して応えます。
ハクトも敬礼を返していましたが、少し離れたところにいるアカネたちに気づいて、「おお!」と声をあげました。
「これはこれは、勇者のお仲間ではないか! 無事だったかね!」
「ま、どうにかね」
「ハクトさんも、ご無事で何よりです」
「よかったよー! これであと二人だねー!」
四人は駆け寄ると、再会を喜び合いました。
「あれ、ハクちゃん、その背中の、なにー?」
「ん? これかね? アンドロイドのシルバーくんだ」
アンドロイドと聞いて、アカネたちはギョッとしました。
なにせここへ来るまでに、アンドロイドに何度も襲われたのです。警戒するのも無理はありません。
「いやいや、警戒しなくていい。どうもシルバーくんは特別みたいでね。我々の敵ではない」
「ヨロシク、オ願イイタシマス」
「えっと……」
「まあ、そういうことでしたら……」
「よろしくー」
首から上だけの、盛り髪のアンドロイドが挨拶をし、アカネたちも戸惑いながら挨拶を返しました。
「いやー、まいったまいった。まさか天使と悪魔の激突を目の前で見ることになるとは。さすがにもうだめかと思ったよ」
「ハクト、君、アジトにいたの?」
「うむ。悪魔に呼ばれてね」
「悪魔に!?」
「ええと、どういうことなのでしょうか」
「いや実は……」
「ハクト」
説明を始めようとしたハクトを、シルバーの声がさえぎりました。
「話ノ前ニ、ルリ殿ノ診察ヲ。少々熱ガ、アルヨウデス」
「ん? 確かに……少し顔色が悪いね」
「ごめん、ちょっと無理させちゃって」
抱きかかえたルリを心配そうに見ながら、アカネが答えます。
「診てもらっていいかな?」
「いいとも。ついでにみんなの健康チェックもするとしようか。話はそれからだね」