表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/180

11 シオリの元へ (1)

 岩山から飛び降りたマレは、地面すれすれまで急降下すると、一気に加速して海へ飛び出しました。


 「急がなきゃ」


 悪魔が「月の扉」を開いていられるのは、三十分と言っていました。天使に邪魔されないよう、できるだけ遠くへ行ってから、月を目指さなければなりません。

 空に浮かぶ月をちらりと見て、マレはほうきにありったけの魔力を送り込みました。


 「わっ……わわっ!」


 ほうきがぐんぐん加速します。あまりのスピードに、風に吹き飛ばされて、ほうきから落ちてしまいそうになります。

 マレは風を防ぐため、魔法で守りの壁を作り出しました。


 「これ……守りの壁なしじゃ、飛べない……」


 だけど、このスピードならあっという間に遠くへ行ける。

 マレがそう思った時、海の中に無数の金色の光が生まれました。


 「うわっ!」


 金色の光が、猛スピードで海から飛び出してきました。

 天使が作った、金色のアンドロイドです。

 海を埋め尽くしそうなほどのアンドロイドが、次々と飛び出してきて岩山に向かいます。悪魔を倒すため、天使が呼び寄せたのでしょう。


 「くっ……」


 飛び出してきたアンドロイドが、マレに激突しました。守りの壁が跳ね返してくれましたが、あまりにも数が多すぎます。


 高く飛んで、アンドロイドをかわすか。

 このまま守りの壁で身を守って突っ切るか。


 高く飛べば天使に気づかれてしまうかもしれません。とはいえ、アンドロイドが何体も激突したら、守りの壁が消し飛んでしまいそうです。


 「マジョ、ミツ、ケタ」


 アンドロイドの中に、マレに気づく者が現れました。

 岩山へ向かっていたアンドロイドの一部が、マレに向かってくるのが見えました。一部といっても、すごい数です。このまま押し包まれたら、捕らえられてしまうでしょう。


 「捕まるわけには……いかない!」


 マレは意を決し、杖を取り出しました。


 「神の怒り、(たけ)き斧となりて敵を砕け! (いかづち)の斧!」


 マレの周囲に、パリッ、と電気が走りました。

 それは、たちまちのうちに大きな光となり、押し寄せてきたアンドロイドを一撃でなぎ払いました。


 「飛べ!」


 これで天使に気づかれた。

 マレは、さらに加速しました。ぐずぐずしてはいられません。天使が追手を差し向けてくる前に、「月の扉」をくぐってしまわないと、宮殿へ行くことができなくなってしまいます。

 ですが、焦るマレの前に立ちはだかるものがありました。


 黒く巨大な海賊船──デュランダルでした。


   ◇   ◇   ◇


 デュランダルの象徴ともいうべき、ドクロが描かれた煙突がなかったので、マレは黒い船がデュランダルだと気づきませんでした。


 邪魔するのなら、攻撃する。


 マレは杖を構え、戦闘態勢を取りました。

 ぐずぐずしていられないという焦りが、マレの判断を誤らせたのかもしれません。


 「マレ……てめぇっ!」


 そんなマレを双眼鏡で確認したコハクは、頭に血が上り、怒りのままにデュランダルを急旋回させました。


 マレがやってきた直後に、牢獄に閉じ込められていたはずの悪魔が自由になった。

 悪魔のところへ行くのを阻むかのように、マレが猛スピードでやってきて戦闘態勢を取った。


 ──魔女は神様に復讐するため、悪魔を復活させて世界を滅ぼそうとしているのです。


 天使の言葉が、コハクの頭の中に響きます。


 「そうなのかよ……本当にそうなのかよ、マレっ!」

 「待ちな、コハク!」

 「うるせーっ!」


 止めようとするリンドウに怒鳴り返し、コハクは、だんっ、と殴りつけるように、大砲の発射装置を押しました。

 大砲から放たれたオレンジ色の光が、マレに向かって伸びていきます。


 「このっ! 魔法の矢!」


 それを見たマレは、ほうきを急旋回させ、魔法の矢を撃ち返しました。


 デュランダルの砲撃とマレの魔法が、正面からぶつかりました。


 衝撃で、デュランダルが大きく揺れます。負けてたまるかと、コハクは大砲を撃ち続け、マレも杖を振るって応戦します。


 「待て、待つんだコハク! あれはマレだ!」

 「それがどうしたぁっ! 攻撃してくる奴は、敵だぁっ!」


 コハクは舵を切り、海面ギリギリを飛ぶマレにデュランダルをぶつけに行きました。デュランダルに迫られて、マレは慌てて海面を蹴って高く舞い上がります。

 そこで船を見下ろし、マレは驚きました。


 「え……これ……デュランダル!?」


 甲板に描かれたドクロのマークを見て、マレはようやくこの黒い船がデュランダルだと気づきました。慌てて魔法を唱えるのをやめ、杖をしまって攻撃の意志がないことを示しました。

 マレが杖をしまうと、デュランダルも砲撃をやめました。


 『マレェーッ!』


 デュランダルに取り付けられたスピーカーから、コハクの怒鳴り声が響きました。

 船の後部、操舵台だったところに作られた建物の屋上に、三角帽子にマントを身に着けた女の子が出てきました。


 海賊・コハク。


 まだ九歳なのに、誰よりも勇敢な、海賊船デュランダルの船長。

 そのコハクが、目をつり上げて、本気で怒った顔でマレをにらんでいました。


 『てめぇ……一人でどこへ行く気だぁっ! 今まで何をしてやがったぁっ!』


 怒りのままに怒鳴るコハクに、マレはびくりと震えました。

 ここまで怒ったコハクは、初めてでした。本気の本気で、マレに怒っています。


 『アジトに行ったんなら、どうして俺たちを待たねぇっ!』


 コハクが言葉を切り、マレの返事を待ちました。

 ですが、マレは答えられませんでした。


 言えないのです、本当のことは。


 シオリのこと、自分のこと、この世界のこと。それをコハクたちに教えていいのか、マレにはわからないのです。


 「マレ!」


 怒りの形相で返事を待つコハクの背後に、別の女の子が登ってきました。

 ベリーショートで、紫色のツナギを着た女の子です。


 「リンドウ……」


 じわっと、マレの目頭が熱くなりました。

 デュランダルの船長と、海賊団の副団長。

 頼もしい二人の姿を目にして、マレはいっそすべてを打ち明けて、一緒に戦ってほしいとお願いしたくなりました。


 『こっちに来い、マレ。そこじゃ話もできねぇ』


 コハクが怒りを抑えた声で呼びかけてきました。

 少し迷いましたが──マレはうなずいて、コハクたちがいるところへ近づきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いやこっちが先に攻撃したよねコハクちゃん!?(゜Д゜;)
[一言] コハクちゃんイッケメーン!!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ