10 悪魔解放 (4)
天使の槍と悪魔の炎が激突すると、轟音とともに世界そのものが大きく揺れました。
海が泡立ち、大きなうねりとなってデュランダルを飲み込もうと襲いかかって来ます。
「リンドウ!」
「あいよ! 防御壁、最大展開!」
コハクの鋭い声に、リンドウが素早く装置を操作しました。
するとデュランダルを守るように光が包み、衝撃波と高波からデュランダルを守ります。巫女が祈りによって作り出していた、守りの壁に似たものでした。
「よし、成功!」
「すごーい!」
大波で転覆するんじゃないかとヒヤヒヤしていたカナリアは、思わず拍手をしてしまいました。
「のんきに拍手してんじゃねえっ! 見張り!」
「は、はいっ!」
コハクに怒鳴られ、カナリアは慌てて双眼鏡をのぞきました。
(コハク、なんだか怖いな)
背後から突き刺さるような視線を感じて、カナリアは震えました。
仲直りはできたはずなのに、コハクはずっと冷たいような、怒っているような、そんな気がします。
(ううん、違う。今は戦闘中だからだよ)
初めて会った時にも言われました。ここは遊覧船じゃねえ、海賊船だ、と。しかも今は戦闘中、コハクがピリピリしているのは当然でしょう。
(しっかりしなきゃ!)
カナリアは気合を入れ直し、双眼鏡で見えた光景を報告します。
「ええと……岩山の頂上で、誰かが戦ってるよ!」
「どんなやつだ?」
「金色の鎧と、黒色の鎧を着てて……槍と、炎で戦ってる。あれ……なに?」
「どれどれ?」
カナリアの報告に、リンドウも双眼鏡でのぞきました。
「あれは……天使と悪魔、だね」
「……よくわかるな」
「ん? まあ、聞いてたんでね」
コハクがリンドウをジロリとにらんでいますが、双眼鏡をのぞいているリンドウは、それに気づきません。
「金色の鎧を着て槍で戦う天使と、黒色の鎧を来て炎で戦う悪魔……うん、聞いてた通りだ」
誰に聞いていたんだろうと、カナリアは疑問に思いました。でも、またコハクに怒られてはいけないので聞くのはやめました。
「いるのは、天使と悪魔だけか?」
「え? ……うん、天使と悪魔だけだよ」
コハクに問われ、カナリアは慌てて周囲を見ましたが、他には誰もいないようです。
そうか、とコハクが腕を組んだ時でした。
泡立つ海に、たくさんの金色の光が生まれました。いったいなんだと驚いていると、光が海から飛び出して、岩山に向かって猛スピードで飛んで行きました。
「あれは……アンドロイド!?」
「すごい数だよ!」
アンドロイドが放つ光が、前後左右、見える限りの海を埋め尽くしています。きっと天使が、悪魔を倒すために呼び寄せたのでしょう。
飛び出してきたアンドロイドは、デュランダルに激突してきました。見えていないのか、よける気がないのか、いずれにせよこのままでは危険です。
「コハク、このままじゃ防御壁がもたないよ!」
「くそっ、離脱する!」
コハクが舵を切り、デュランダルが大きく旋回しました。
「砲門開け! ぶつかってくるやつは撃ち落とせ!」
「了解!」
リンドウが素早く操作し、デュランダルの全砲門が開かれました。
「撃てっ!」
合図とともに、全ての大砲が火を吹きました。
ギュルーン、と音を立ててオレンジ色の光が放たれ、次々とアンドロイドを撃ち落としていきます。以前の大砲とは比較にならない威力に、カナリアはびっくりしました。
「すごーい……」
「カナリアァッ! ぼーっとしてないで、見張りしろぉっ!」
「は、はいーっ、ごめんなさいー!」
驚いてぼーっとしていたら、またコハクに怒られてしまいました。
カナリアは慌てて双眼鏡をのぞきました。
「岩山の方、動きはないかっ!」
「て、天使と悪魔が戦い続けてて……それと……え?」
「どうしたぁっ?」
「アンドロイドが、海の方にも向かってるよ!」
カナリアは慌ててそちらに双眼鏡を向けました。
岩山へと向かう無数のアンドロイド。その一部が、岩山ではなく海の上に集まっています。いったいなんだろうとカナリアが目をこらした時です。
パッ、と大きな光が生まれました。
えっ、とカナリアが驚いた次の瞬間、たくさんのアンドロイドが、あっという間に撃ち落とされてしまいました。
「なにがあった!?」
「え、ええと……三時の方向、アンドロイドが一気に撃ち落とされて……え、あれって!?」
アンドロイドが撃ち落とされて生じた爆炎の中から、黒い影が飛び出してくるのが見えました。
カナリアは、ごくりと息を呑みます。
それは、とんがり帽子に黒いワンピース、ほうきにまたがって空を飛ぶ、髪の長い女の子。
間違いありません。
「どうした!?」
「ま……魔女がいるよ! すごいスピードで、こっちに向かってきてる!」