08 泣き虫魔女と宮殿の少女-Ⅳ (1)
海賊団の仲間となったマレは、シオリと一緒にお話の世界で冒険を始めました。
たくさんの仲間とともに、海賊船デュランダルで大海原を進みます。
怪物に出会えば、力を合わせて戦いました。
見知らぬ島を見つけたら、上陸し探検をしました。
海底の宮殿へ出向き、海を治める四人の竜王に謁見もしました。
そんな冒険の中で、新しい仲間とも出会いました。
「オレはアンジェ。よろしくな!」
怪物に襲われた村を助けた時に出会ったのは、赤いドラゴンにまたがって世界を飛び回る、竜騎士アンジェとお供の剣士。
「私、シルフィ! お宝探しは任せて!」
迷宮近くの村で出会ったのは、義賊と呼ばれる大泥棒シルフィと、お姉さんの巫女。
「いい船だね。整備、引き受けるよ!」
北東の島にある大きな工場で出会ったのは、エンジニアのリンドウと、おさななじみの飛行士。
「僕たちも一緒に行こう。みんなの健康管理は任せてくれ」
緑に覆われた島で出会ったのは、薬師ナギサと、その友達のちょっと変わったお医者さん。
新しい場所で、新しい仲間に出会うたびに、お話の世界が広がって行きます。いったいこのお話の結末はどうなるのだろうと思い、マレはシオリに尋ねました。
「さあ? 私にもわかんないや!」
「えっ、シオリが考えたお話でしょ?」
「うーん、ちょっと違うかも」
「違う?」
「なんだかねえ、勝手にお話が進んでる感じなの。キャラが勝手に動いてる、ていうのかな? そんな感じ」
「ええっ、それ、大丈夫なの?」
「いいんじゃない?」
心配そうなマレに、シオリは笑顔で答えました。
「冒険だもの、結末がわかってちゃダメでしょ?」
「それは、そうだけど……」
「ふふ、大丈夫だよ、マレ。みんながいて、悲しい結末になんてならないよ!」
シオリは空を見上げました。
もうじき夜明け。
空には雲ひとつなく、今日もいい天気になりそうです。白み始めた空の下、どこまでも広がる海を、デュランダルは力強く進んでいます。
「ねえ、マレ。私は今、とっても楽しいの!」
世界って、広い。
友達と一緒って、楽しい。
「こんなにワクワクしたの、生まれて初めて! 宮殿に閉じこもってたら、絶対に見られなかった。一人でいたら、絶対に感じられなかった。このまま、どこまでもみんなで冒険したい!」
輝くような笑顔を浮かべてそう言うと、シオリはマレの手を取りました。
「マレ、飛んで!」
「え、え?」
「ほら早く! 私、空を飛びたくなっちゃった!」
いきなりだなぁとあきれつつも、マレはほうきにまたがり、シオリを乗せて空に舞い上がりました。
「空って広い! 海って大きい!」
デュランダルをはるかに見下ろす空の上で、シオリは大声で叫びました。
「だけどね、マレ! 星は丸いの! だから、いつかこの航海も終わりが来るの!」
海のずっと向こうに見える水平線は、わずかに弧を描いていました。
それは、この星が丸いことの証拠。このまま進めば、デュランダルはいつか出発した場所に戻ってしまうのです。
「冒険は、そこで終わっちゃうよね!」
「もう一周すればいいんじゃないの?」
「そんなのつまんない! どうせ行くなら、行ったことのない場所に行きたい!」
じゃあどこへ行こうか。
どうしたら、みんなと冒険を続けられるのだろうか。
シオリは真剣な声で、マレに問いかけました。マレも一生懸命考えましたが、すぐに答えは出てきません。
「あ……マレ、見て!」
マレがいろいろと考えていると、シオリが空を指差しました。
「月が出てるよ!」
「ほんとだ。あれは……下弦の月だね」
空高く登る半月は、東側が丸く弧を描いていました。明けていく空に白く光る月は、夜に見る月とは違う美しさでした。
「そうだ!」
月を見ていたシオリが、ぱっと明るい声を出しました。
「みんなで、月へ行こう!」
「え……月?」
マレはびっくりしました。
この世界では、月は特別な場所です。なぜなら、シオリが住む宮殿は月にあることになっているからです。月へ行こうというのは、つまり、みんなでシオリの宮殿へ行こうということなのです。
「行けるの?」
「もちろんよ! 私やマレは、行き来してるじゃない」
「そうだけど……」
確かにシオリの言う通りですが、実は、マレはどうやって行き来しているのかわからないのです。
いつも、「ちょっと戻ろうか」と言われて、シオリにおんぶしてもらい。
目を閉じていたら、いつのまにか宮殿に戻っているのです。
「シオリが、みんなをおんぶしていくの?」
「うーん、ちょっと無理かな。ドラゴンとかおんぶしたら、潰れちゃうし」
さて、どうしようかな。
シオリはそうつぶやくと、キラキラした目をして考え始めました。