表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/180

07 コハクの疑念 (1)

 ホゥ、という鳴き声に、甲板で寝そべっていたコハクが目を開きました。

 手すりに止まったフクロウが、じっとコハクを見ていました。


 「……ふん」


 舌打ちしつつ、コハクは体を起こしました。

 航海は順調です。アジトがある島には、あと二日ぐらいで到着できるでしょう。

 ですが、コハクの心は晴れませんでした。


 「何の用だよ」


 コハクは、フクロウに声をかけました。

 しかしフクロウは、ホゥ、ホゥ、ホゥ、と鳴き、首をひねるだけです。


 「……ったく」


 コハクはまた舌打ちすると、ふてくされた顔で甲板に寝転びました。


 「用がないなら、来るんじゃねえよ、天使」


   ◇   ◇   ◇


 天使が襲ってきた、あの日。

 問答無用で繰り出された天使の槍を、コハクは防ぐことも避けることもできませんでした。


 (やられた……)


 コハクはそう思いました。

 ですが天使の槍は、コハクを貫くことができませんでした。

 ギィィーン、と鈍い音を立てて、不思議な力に防がれたのです。


 「……なに?」


 天使が絶句しました。

 コハクの胸まで、ほんの数センチ。そこで止まっている槍先を見て、さすがのコハクも冷や汗をかき、どさりと尻もちをついてしまいました。


 「……」


 天使は怖い顔をして、無言でコハクを見つめました。勇敢さでは誰にも負けないコハクですが、このときばかりは、蛇ににらまれたカエルのように身動きできませんでした。


 「ふむ」


 しばらくコハクを見つめていた天使が、不意に空を見上げました。

 空には、静かに光る半月。

 その半月をしばらく見上げた後、天使は小さくうなずき、槍を収めました。


 「失礼しました、勇者・コハク」


 天使が膝をつき、コハクに頭を下げました。

 コハクは面食らいました。

 たった今、問答無用でコハクに槍を突き出したと言うのに、この変わり身はなんでしょうか。


 「あなたは、どうやら本物の勇者のようです」

 「……は?」


 本物?

 どういう意味だと、コハクは天使をにらみました。天使はかすかに笑います。


 「魔女が、世界を滅ぼそうとしています。あなたはその魔女を倒せる、本物の勇者です」

 「なに言ってるんだ、お前は」


 コハクは素早く体勢を整え、腰の短剣に手をやります。


 「あの魔女はマレだ。もうだまされねえぞ」

 「なるほど、記憶も取り戻しましたか、これは重畳(ちょうじょう)

 「うるせえ。世界を滅ぼす? マレがそんなことするかよ」


 世界一の魔法使いのくせに、臆病で泣き虫だったマレ。

 そんなマレが、本気で世界を滅ぼすわけがないと、コハクは思っています。


 「いいえ、滅ぼします。おそらく……悪魔を復活させて、ね」

 「……悪魔?」

 「ええ、そうです。かつて私と何度も戦い、今は牢獄にとらえている、悪魔です」


 天使は、リンドウが言っていたことと同じことを言いました。


 「それ、本当のことだったのかよ」

 「おや、ご存じでしたか?」

 「……まあな」

 「では話が早いですね。魔女は、悪魔を解き放つため、牢獄の場所を突き止めようとしているのです」


 そのために。


 「魔女は、悪魔の牢獄の場所を知る、シオリに近づいたのですよ」


   ◇   ◇   ◇


 コハクは胸ポケットから、小さな封筒を取り出しました。


 ──コハクにあげる。お守りだよ。


 シオリがくれた封筒。「お守りだから、中は見ちゃだめだよ」と言われているので、開けたことはありません。


 そういえばと、コハクは封筒をもらった日のことを思い出します。


 あの日、シオリは珍しく一人でした。

 ぼんやりと空を見上げていて、とても悲しそうな顔をしていました。マレとケンカでもしたのかと思い、心配になって声をかけたら、おいでおいで、と手招きされたのです。


 ──コハクの髪って、ふわふわ、もふもふで、気持ちいいよね。


 ギュッと抱き締められ、頭をグシャグシャなでられました。

 「犬や猫じゃねえんだぞ」と文句を言うと、「もうちょっとだけ」と、苦しくなるぐらい強く抱き締められました。


 ──私にもしものことがあった時のために、リンドウを、副団長に任命したからね。


 突然そんなことを言われて、とても驚きました。

 どういうことだよと問い詰めましたが、シオリは何も言ってくれません。


 ──マレが無茶をしたら、止めてあげてね。


 長い沈黙の後、その一言を残し、シオリは船室に戻ってしまいました。

 シオリがいなくなったのは、そのすぐ後でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] や、槍が止まっただと? まさに、その時不思議な事が起こった(ライダー(ォィ
[一言] ワイもコハクたんをモフりたい( ˘ω˘ )(←)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ