05 リンドウの手紙 (2)
進むにつれ、がれきとともにアンドロイドの残骸が増えていきました。
やはり、かなりの数のアンドロイドがやってきたようです。ですが動いているものは一つもなく、アンドロイドはすべて破壊されていました。
やがてマレは、半壊した建物の前に到着しました。
第一工場。
建物の前には、そう書かれた看板が落ちています。リンドウがいつもいた、事務室のある建物です。
二人の妖精が先頭を切って突入しました。マレがそれに続き、マレの左右と後ろを妖精が守るようについてきます。
「すごい数……」
工場の中には、埋め尽くさんばかりのアンドロイドの残骸がありました。どうやらアンドロイドの目的は、この建物だったようです。
リンドウが襲われたのでしょうか。
海賊団の仲間が戦ったのでしょうか。
マレは妖精の後をついて走りながら、どうか無事でいてと願いました。
「ピィッ!」
第一工場の一番奥、事務室へと続く廊下にさしかかった時、妖精が鋭い声をあげました。
「アンドロイド!?」
まだ動いている金色のアンドロイド数十体が、廊下を埋め尽くし道を阻んでいました。
その向こう、事務室の扉の前には、縦横無尽に飛び回る小さな光が見えました。
「あれは、妖精さん!?」
飛び回る小さな光は、色違いのツナギを着た妖精でした。
押し寄せるアンドロイドを相手に、事務室に入れまいと奮戦しています。ですが、残っているのは数人で、全員がボロボロに傷ついていました。
「このっ……」
マレは折れた杖を手に取ると、急いで呪文を唱えました。
「光、集いて敵を穿て! 魔法の矢!」
「ピィッ!」
マレの周囲に光が生まれ、矢となって飛び、アンドロイドをまとめて吹き飛ばしました。同時に、黒いツナギ姿の妖精がアンドロイドに飛びかかり、残ったアンドロイドを撃破していきます。
はさみ撃ちにされたアンドロイドは、あっという間に倒されました。マレたちは大急ぎで事務室の扉へと駆け寄ります。
「妖精さん!」
事務室を守っていた妖精は、駆け寄ってきたマレを見て、「よう、待ってたぜ」という感じで親指を立て、ニヤリと笑いました。
「妖精さん、しっかりして!」
「ピ……ピピ……」
あとは、頼んだぜ。
妖精はマレの手をポンポンと叩くと、満足そうな笑みを浮かべ、光になってしまいました。
「ピッ!」
マレと一緒に来た妖精が敬礼をし、光となった仲間を見送ります。光はふわふわと漂うように、どこかへ飛んで行ってしまいました。
「ピィ」
涙を浮かべて光を見送っていたマレの手を、黒いツナギ姿の妖精がポンと叩きました。
行くよ、と言っているようです。
マレはうなずくと、涙をぬぐい、事務室の扉に手をかけました。
ここに、リンドウたちがいるのでしょうか。
ドキドキしながら扉を開くと、中は真っ暗でした。誰かがいる気配もありません。がっかりしたような、でも少しほっとしたような、そんな気持ちでマレは部屋の中に入りました。
「光よ」
杖を振り、明かりを灯します。部屋の中はとてもきれいで、何も壊れていません。
あの頃のままだな。
マレの目に、また涙が浮かんで来ました。
デュランダルの整備中、マレはシオリと一緒によくここへ来て、絵やお話を書いて遊んでいました。
──こら、散らかすな、シオリ。
──後で片付けるってば。
──そう言って、片付けたことないでしょうが。
きちんと整理整頓をするリンドウは、すぐに散らかすシオリをいつも叱っていました。後でやる、と言って結局やらず、片付けをするのはいつもマレでした。
──あんたさ、一度ビシッと言ったほうがいいよ?
海賊団の最年長で、一番落ち着いていたリンドウ。そんな彼女を、シオリは副団長に任命したと言っていました。
──私に何かあったら、リンドウの指示に従ってね。
そんなことを言ってまもなく、シオリは天使に連れ去られてしまったのです。
「ピィッ!」
思い出に浸っていたマレを、妖精が呼びました。
「あ、ごめんなさい……用があるのは、そっちの部屋?」
妖精は事務室の奥にある扉の前で、マレを手招きしていました。確かその部屋は、リンドウの個人的な研究室です。
扉を開けて入りましたが、やはり誰もいませんでした。
「ピピピッ!」
どうすればいいのだろうと、マレが困惑していると、妖精が部屋にあった大きな机の上に飛び乗りました。
そして、机の上にある、布をかぶせた何かを指差しました。
「これ?」
どうやら布を取れと言っているようです。
なんだろうと、マレはそっと布を取り、「あっ!」と声をあげました。
杖とほうきでした。
思い出しました。天使と何度か戦った後、そのあまりの強さに危機感を覚え、万一に備えて予備の杖とほうきをリンドウに預けておいたのです。
「あなたたちは、リンドウに頼まれて、私を連れに来たの?」
マレの問いに妖精たちはうなずき、杖とほうきと一緒に置いてあった封筒を指差しました。
マレが恐る恐る開けると、封筒の中にはリンドウからの手紙が入っていました。
元気でやっているかと、マレを気遣う言葉。
自分は無事で、今は妖精と一緒に行動していること。
預かっていた杖とほうきを、ちょっと(リンドウの「ちょっと」は「ちょっと」じゃないと、マレも知っています)いじったこと。
そんなことに続いて、最後にこう書かれていました。
「私はデュランダルでアジトに向かう。マレもほうきで追いかけて、合流してほしい」
一緒に、シオリを助けに行こう。
最後の一文を読んで、マレの目から涙がこぼれました。
一人で行くな。
一緒に行こう。
そう言ってくれた仲間を置いて、マレは一人で出て行ってしまったのに、リンドウはまだ「一緒に行こう」と言ってくれるのです。
海賊船デュランダルが無事ならば、きっとコハクも無事です。
リンドウとコハク、あの二人が一緒にいてくれたら、どれだけ心強いでしょう。天使がどんなに強くても、二人が助けてくれるならなんとかなるかもしれません。
一緒に行きたい。
マレは心の底からそう思いました。
でも、それはできないのです。
「ごめんね、ごめんねリンドウ。私は……みんなと一緒に行けないの」
手紙を胸に抱きしめ、マレはぽろぽろと涙をこぼしました。
「だって私は……みんなを……この世界を消しちゃうもの。それなのに一緒に戦ってなんて……言えないよ……」