05 リンドウの手紙 (1)
妖精に助けられたマレは、小さなヨットで北へと向かっていました。
傷つき、疲れ切ったマレは、ずっと眠っていました。
眠っている間、たくさん夢を見ました。
夢は、シオリと過ごした、あの宮殿の日々のことばかり。中でも一番見たのは、図書室にこもって過ごした冬の日々のことでした。
※ ※ ※
「ねえ、マレも一緒にお話を考えようよ!」
シオリが書いたお話をだいたい読んでしまうと、そう誘われました。
二人でノートを広げ、アイデアを出し合い、たくさんのお話を考えました。
竜に乗って世界を旅する、竜騎士とお供の剣士のお話とか。
お姉ちゃんのことが大好きな、大泥棒の女の子のお話とか。
エンジニアと飛行士の、幼馴染の二人のお話とか。
とても頭のいい薬師と、その友達のちょっと変わったお医者さんのお話とか。
楽しくて楽しくて、寝る間も惜しんで考えました。
他にもいろいろ、たくさんのお話を考えては、二人で夢中になってノートに書きました。
そして最後に考えたのは、海賊船に乗って世界を旅する、勇敢な女の子のお話でした──。
※ ※ ※
ガコン、と大きな音が聞こえ、マレは目を覚ましました。
モーターの音が止まり、揺れが小さくなっていました。どうやらヨットは、どこかに着き、錨を降ろしたようです。
マレはゆっくりと起き上がりました。
ずっと眠っていたおかげで、疲れはだいぶ取れていました。体のあちこちがまだ痛みますが、我慢できないほどではありません。
「ピピッ!」
ベッドを降り、どうにか立ち上がったところで妖精がやってきました。
起きているマレを見て、「無理するなと言っているだろう!」と言わんばかりに、ぶんぶんと手を振っています。
「もう、大丈夫、だから……」
「ピピピッ!」
妖精はまだ文句を言っていますが、マレはそのまま歩き出しました。
行かなきゃ、早く行かなきゃ。
その思いがマレを突き動かします。とても寝てなんていられません。こうしている間にも、シオリが消えてしまうかもしれないのです。
でも、どこへ行けばいいのでしょうか。
どうやったらシオリの居場所を突き止め、助けに行くことができるのでしょうか。
あせる気持ちと不安な気持ちがごっちゃになって、涙があふれそうになりました。ぐい、とワンピースのそでで涙をぬぐうと、妖精が心配そうな顔をします。
「……大丈夫だよ」
マレは深呼吸をして気持ちを落ち着けると、妖精とともにデッキに上がりました。
「ここは……」
デッキから見えた光景に、マレは息を呑みました。
廃墟でした。
夜の闇に隠れて遠くまでは見えませんが、見える限りすべてのものが壊されていました。
「ピィッ」
「ピピピッ、ピィ」
ぼう然としていると、妖精たちがなにやら話し合い始めました。そして、一人を残して、がれきと化した一帯へと駆け出しました。
「あ、待って!」
「ピッ!」
慌ててついて行こうとしたマレを、残った妖精が止めました。
様子を見てくるから、少し待て。
そんな仕草をする妖精に、マレは黙ってうなずきました。
しばらくすると、様子を見に行った妖精が戻ってきました。何かを話し合い、うなずき合うと、マレを手招きして歩き始めます。
妖精に導かれて、マレは歩き出しました。
空に浮かぶ半月の光が、周囲をぼうっと浮かび上がらせています。辺り一面、がれきの山です。建物も、中にあったと思われる大きな機械も、すべてが壊されていました。
「ここ……」
しばらく歩いて、マレはやっと気づきました。
「リンドウの、工場?」
そうだぜ、と前を歩く妖精が親指を立てました。
マレはぎゅっと、ワンピースのそでをつかみました。ひょっとしてここに、リンドウがいるのでしょうか。リンドウだけでなく、他の仲間もいるのでしょうか。
だとしたら。
どんな顔をしてみんなに会えばいいのか、マレはわかりませんでした。
「ピィッ!」
いっそ逃げてしまおうかと思ったとき、前を歩いていた妖精が鋭い声をあげました。
警戒する妖精たちを見て、マレも身構えました。目をこらすと、がれきの向こうで何かが月の光を反射しています。
「あれ……は……」
マレは呪文を唱え、指先に小さな光を灯すと、ついっ、とがれきの向こうへ投げました。
光に照らし出され、見えたのは、金色に光る人形──天使が作ったアンドロイドでした。
ドキッとしたマレですが、よく見るとアンドロイドはもう壊れているようです。妖精の一人が駆け寄って確認し、問題ない、と両手で丸印を作りました。
「もしかして……ここ、アンドロイドに襲われたの?」
マレの背中に、冷たい汗が流れました。
リンドウの工場は、大きな建物がいくつもある、とても広い場所です。そのすべてが破壊され、がれきの山となっているということは、かなりの数のアンドロイドがやってきたということです。
もしここにリンドウたちがいたとしたら……無事なのでしょうか。
「ピィッ!」
震えるマレに妖精が声をかけ、急ぐぞ、と手招きしました。
どうやら妖精は、マレを工場のどこかに連れて行きたいようです。そこにリンドウや、海賊団の仲間がいるのでしょうか。
マレはうなずき、急ぎ足で妖精についていきました。